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魔女令嬢と使用人達
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セイラが侯爵家を出る、と言う話は領地の屋敷でこそ大騒ぎになった。
領地と言うことは『魔女の森』に隣接しており、その恩恵を受けている者が多いと言うことでもある。逆に侯爵本人とノリエッタは滅多に領地に帰ってくることがないためその実感がないのだろう。
それ故セイラが侯爵家を放逐されるのであれば自分達も職を辞す、と言い出す者が多くて(と言うか殆どの者がそれに賛同した)彼女を困らせる。
「皆、落ち着いてください。私はともかく、侯爵夫人に付いていていただきたいのです」
侯爵夫妻はこの状態では離婚できない。正確には出来なくはないが、実際に離婚すれば本来この国の貴族ではない現ハーリット侯爵は爵位を維持できず、自分が出て行くことになる。彼の血を継ぐだけの娘のノリエッタも同様だ。であればそんな利益のないことはしないだろう。
最後の後継者である夫人が子どもを産めなかった以上ハーリット侯爵家の血統が続くことはないが、その養女が王族と縁づくことで辛うじてこの国の貴族として理屈づけることが可能だったのだ。そういう意味でもセイラの方がこの国の状況としては望ましかった。
だが既にその道筋は絶たれた。後はフィリシウス王子がノリエッタに婿入りして侯爵家の名を継ぐことでお茶を濁すことになるだろう。
そのセイラの淡々とした説明に、しかし使用人達は混乱の度合いを深めるばかり。それを一喝したのは、一人の男だった。
「皆、落ち着け!」
よく通る声だが荒っぽい雰囲気はない。当人もそれに見合った、背の高い体格ながら落ち着いた物腰のまだ若い男性だ。
「セイラお嬢様のお話を聞いただろう。侯爵とあばずれ娘はとりあえず捨て置くにしても、連中が余計なことをせぬよう奥様をお守りする義務がある。それを忘れるな」
滅多に領地に戻らない侯爵よりも、夫人は病弱ながら領地のために何かと心を砕いてくれた。それを疎んじて侯爵はますます領地に寄り付かない、という悪循環が発生していたが。
そのことは使用人達も承知しており、夫人とセイラへの忠誠心は皆そこそこある。
「……侯爵は『魔女の森』を領地として開発するつもりのようですが。それは不可能になるでしょう」
いったん落ち着いた彼等にセイラはあくまで冷静極まりない。普段からそんな調子の彼女を甘やかされた王子は『無愛想で可愛げのない』と厭っていたが、セイラからすれば彼に媚を売る必要を感じなかったのが正直なところ。
「領民の皆さんにはしばらくご迷惑をおかけしますが、少々時間をいただけませんか。王家も、何等かの対策を講じるはずです」
領地と言うことは『魔女の森』に隣接しており、その恩恵を受けている者が多いと言うことでもある。逆に侯爵本人とノリエッタは滅多に領地に帰ってくることがないためその実感がないのだろう。
それ故セイラが侯爵家を放逐されるのであれば自分達も職を辞す、と言い出す者が多くて(と言うか殆どの者がそれに賛同した)彼女を困らせる。
「皆、落ち着いてください。私はともかく、侯爵夫人に付いていていただきたいのです」
侯爵夫妻はこの状態では離婚できない。正確には出来なくはないが、実際に離婚すれば本来この国の貴族ではない現ハーリット侯爵は爵位を維持できず、自分が出て行くことになる。彼の血を継ぐだけの娘のノリエッタも同様だ。であればそんな利益のないことはしないだろう。
最後の後継者である夫人が子どもを産めなかった以上ハーリット侯爵家の血統が続くことはないが、その養女が王族と縁づくことで辛うじてこの国の貴族として理屈づけることが可能だったのだ。そういう意味でもセイラの方がこの国の状況としては望ましかった。
だが既にその道筋は絶たれた。後はフィリシウス王子がノリエッタに婿入りして侯爵家の名を継ぐことでお茶を濁すことになるだろう。
そのセイラの淡々とした説明に、しかし使用人達は混乱の度合いを深めるばかり。それを一喝したのは、一人の男だった。
「皆、落ち着け!」
よく通る声だが荒っぽい雰囲気はない。当人もそれに見合った、背の高い体格ながら落ち着いた物腰のまだ若い男性だ。
「セイラお嬢様のお話を聞いただろう。侯爵とあばずれ娘はとりあえず捨て置くにしても、連中が余計なことをせぬよう奥様をお守りする義務がある。それを忘れるな」
滅多に領地に戻らない侯爵よりも、夫人は病弱ながら領地のために何かと心を砕いてくれた。それを疎んじて侯爵はますます領地に寄り付かない、という悪循環が発生していたが。
そのことは使用人達も承知しており、夫人とセイラへの忠誠心は皆そこそこある。
「……侯爵は『魔女の森』を領地として開発するつもりのようですが。それは不可能になるでしょう」
いったん落ち着いた彼等にセイラはあくまで冷静極まりない。普段からそんな調子の彼女を甘やかされた王子は『無愛想で可愛げのない』と厭っていたが、セイラからすれば彼に媚を売る必要を感じなかったのが正直なところ。
「領民の皆さんにはしばらくご迷惑をおかけしますが、少々時間をいただけませんか。王家も、何等かの対策を講じるはずです」
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