婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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国王夫妻と侯爵夫人

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「此度のことは誠に済まなかった」
さすがに一国の王が臣下、それも病弱で滅多に社交にも出てこぬ侯爵夫人に頭を下げるのは、非公式の場とは言え差し障りがある。それをわかっているからこそ、お忍びに王家特別誂えの馬車で訪ねてきた国王夫妻に侯爵夫人は異を唱えなかった。
セイラは魔女として、特に彼女の『森』に帰るためならさほど力を使わずとも迅速に帰りつくことができる。国王夫妻の場合は、やはり優れた『魔女』である王太后の力で送られたのだろう。それだけのことが出来るのが王家に嫁いだ『国母の魔女』たる王太后である。
「どうぞ陛下、お気になさいませんよう」
思うところがあったとしても、遥かに目上の存在である国王陛下に余計なことは言えない、言わないのが良くも悪くも骨の髄まで貴族らしいハーリット侯爵夫人だ。
「しかしこの度のこと、我等の目が行き届かぬためにそなたにはずいぶん迷惑をかけた」
「……それは否定いたしませんが、『目が行き届か』なかったのは私も同様にございます」
「……」
俗にいう『お互い様』であることはどちらも否定できない。フィリシウス王子は甘ったれた考え無しだし、彼を誑し込んだノリエッタはこの年齢でも末恐ろしい悪女だ。
「……う、うむ……子ども等は今後、厳しく指導し己の義務を果すことや貴族としての振る舞いを身に付けさせれば、と考えておる。詳細はまた文書で届けさせるつもりだ」
「お気遣いありがとうございます」
しかし問題は子ども達だけではない。もっと大問題なのは。
「それでですね、ハーリット侯爵夫人。貴女しばらく王宮にいらっしゃいませ」
ちら、と夫に目配せを送って王妃は侯爵夫人に向き直った。
「は?……王宮に、と……あの、何故?」
「お体の調子が悪いのでしょう、療養を兼ねていらっしゃいませ。……セイラ嬢から、貴女へと水薬ポーションをお預かりしておりますの」
子ども達は婚姻を許す代わりにがっつり教育係を付けて領地経営他を叩き込む。その間侯爵夫人は王宮で療養させる、というのが王太后はじめ王宮側で考えた対策だった。
そして最大の問題になるであろう、原因を作った人物については。
「そしてハーリット侯爵自身には、当分『魔女の森』の跡地を治めてもらう。彼にはそれがどういうことか、理解する必要があるだろう」
厳かな国王の言葉に王妃は頷き、侯爵夫人は深々とこうべを垂れた。
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