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《第三話》現在
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俺はマフィアになった。
俺は「琉ヶ丘旅館」という名前のマフィア組織に加入した。名前の通り、ここは表向き旅館で接客態度やおもてなしの数々、源泉かけ流しの温泉が大変人気の高級旅館だ。俺も加入時に一度入らされたが正直とても良かった。「琉ヶ丘旅館」に属するものは皆一様に旅館のスタッフ名簿に名が載っている。
通称「旅館」と呼ばれているこの組織はドアを叩けば入れてくれるような優しい組織ではない。様々な試験と審査の末、「合格」という通知を受け取った限られた人だけが加入することができ、例え加入できたとしても最初に待ち構えるのはマフィアンコミュニティーになれるまでの苛烈で地獄のような扱きだ。
さらに試験や審査を受けるためには案内人による案内が必要不可欠なのだが、彼ら、「糸」という名を背負う組員に接触するのは極めて困難だ。糸達は組員の中でも唯一任務に参加しなくても良い存在であり、その代わり休みなく一つの職務に専念しなくてはならない。他の組員は普段、旅館のスタッフとして働き裏で要人の暗殺や秘密文書の奪取などを行っているが、糸達は様々な事件現場に現れマフィアに属すことを希望する者たちを試験や審査を基準に合格か否かを判断する役目を負っている。俺は行きつけのバーでたまに会う、名も知らぬ老紳士にそのことを聞き、捜査一課警察として凶悪事件の解決を目指す一方、この案内人を探した。
俺は探し始めてから半年ほど経った頃その糸を見つけ、試験を受け、審査され、「数年ぶりの合格者だ」と言われた。組員名簿に名前を登録するのだが、「旅館」では皆偽名を名乗っているため俺は復讐を忘れないため、守れなかった戒めとして「兎木慈永」と名乗った。早苗さんの名字の「兎木」、そして母がつけてくれた「永治」を逆にした「慈永」。
これで「富野永治」という母を亡くした哀れな男はいなくなる。もちろん、警察では「永治」なわけだが復讐という綺麗ではない、血濡れたそれに母がつけてくれた大切な名が怪我されなくて済む。
余談だが、例の行きつけのバーで糸のことを話した老紳士こそが糸本人であり、俺が半年かけて気がついた事実だった。
その後の扱きは思い出したくもない経験だ。組織には下から順に下級・中級・上級・幹部候補・幹部という強さと権力を表す位があり、入りたては位すら与えてもらえない下級の下の「新米」として扱われる。この頃の俺は下級・中級の組員の付き人のようなことをしていた。死体処理や武器の手入れ、新たな任務の選別や週ごとの報告などが主な仕事だ。
その仕事の合間、組員としてどのような状況下でもマフィアが不利になることがないよう拷問の訓練・毒物への耐性・体術の習得・様々な情報のインプットという過酷なスケジュールの基、半強制的に様々な面で強化される。それを上級組員が判断し昇格か否かを言い渡される。昇格すれば下級組員になり任務を受け、それ以外ならば新米のままか場合によれば不必要として殺される。直属の上司、つまり下級・中級組員による判断が行われないのは時と場合により優れた者が上の者の嫉妬によって昇格にされない場合があるからだ。
下級に上がればその後の評価は任務の成功度・完璧度で人事担当であり幹部の組員より昇格か降格の通知が送られてくる。
俺は復讐を目指して熱心に取り組んだ。そしてそれが功を奏し、下級に昇格した。下級にさえ上がってしまえばこちらのものだった。俺は人を殺すことをためらわず、部下の躾も厳しくした。そしていつしか「旅館」のなかで「冷徹男」と呼ばれ、幹部の一席を頂いた。「旅館」の首領の直属である幹部は干支に準じた十二の席があり、その席は現幹部と幹部候補との殺し合いで勝った者の物となる。また干支の順番とは無関係に幹部内序列も存在し、現在三位は「子」、二位は「未」、そして一位は「卯」の俺だ。
俺は「琉ヶ丘旅館」という名前のマフィア組織に加入した。名前の通り、ここは表向き旅館で接客態度やおもてなしの数々、源泉かけ流しの温泉が大変人気の高級旅館だ。俺も加入時に一度入らされたが正直とても良かった。「琉ヶ丘旅館」に属するものは皆一様に旅館のスタッフ名簿に名が載っている。
通称「旅館」と呼ばれているこの組織はドアを叩けば入れてくれるような優しい組織ではない。様々な試験と審査の末、「合格」という通知を受け取った限られた人だけが加入することができ、例え加入できたとしても最初に待ち構えるのはマフィアンコミュニティーになれるまでの苛烈で地獄のような扱きだ。
さらに試験や審査を受けるためには案内人による案内が必要不可欠なのだが、彼ら、「糸」という名を背負う組員に接触するのは極めて困難だ。糸達は組員の中でも唯一任務に参加しなくても良い存在であり、その代わり休みなく一つの職務に専念しなくてはならない。他の組員は普段、旅館のスタッフとして働き裏で要人の暗殺や秘密文書の奪取などを行っているが、糸達は様々な事件現場に現れマフィアに属すことを希望する者たちを試験や審査を基準に合格か否かを判断する役目を負っている。俺は行きつけのバーでたまに会う、名も知らぬ老紳士にそのことを聞き、捜査一課警察として凶悪事件の解決を目指す一方、この案内人を探した。
俺は探し始めてから半年ほど経った頃その糸を見つけ、試験を受け、審査され、「数年ぶりの合格者だ」と言われた。組員名簿に名前を登録するのだが、「旅館」では皆偽名を名乗っているため俺は復讐を忘れないため、守れなかった戒めとして「兎木慈永」と名乗った。早苗さんの名字の「兎木」、そして母がつけてくれた「永治」を逆にした「慈永」。
これで「富野永治」という母を亡くした哀れな男はいなくなる。もちろん、警察では「永治」なわけだが復讐という綺麗ではない、血濡れたそれに母がつけてくれた大切な名が怪我されなくて済む。
余談だが、例の行きつけのバーで糸のことを話した老紳士こそが糸本人であり、俺が半年かけて気がついた事実だった。
その後の扱きは思い出したくもない経験だ。組織には下から順に下級・中級・上級・幹部候補・幹部という強さと権力を表す位があり、入りたては位すら与えてもらえない下級の下の「新米」として扱われる。この頃の俺は下級・中級の組員の付き人のようなことをしていた。死体処理や武器の手入れ、新たな任務の選別や週ごとの報告などが主な仕事だ。
その仕事の合間、組員としてどのような状況下でもマフィアが不利になることがないよう拷問の訓練・毒物への耐性・体術の習得・様々な情報のインプットという過酷なスケジュールの基、半強制的に様々な面で強化される。それを上級組員が判断し昇格か否かを言い渡される。昇格すれば下級組員になり任務を受け、それ以外ならば新米のままか場合によれば不必要として殺される。直属の上司、つまり下級・中級組員による判断が行われないのは時と場合により優れた者が上の者の嫉妬によって昇格にされない場合があるからだ。
下級に上がればその後の評価は任務の成功度・完璧度で人事担当であり幹部の組員より昇格か降格の通知が送られてくる。
俺は復讐を目指して熱心に取り組んだ。そしてそれが功を奏し、下級に昇格した。下級にさえ上がってしまえばこちらのものだった。俺は人を殺すことをためらわず、部下の躾も厳しくした。そしていつしか「旅館」のなかで「冷徹男」と呼ばれ、幹部の一席を頂いた。「旅館」の首領の直属である幹部は干支に準じた十二の席があり、その席は現幹部と幹部候補との殺し合いで勝った者の物となる。また干支の順番とは無関係に幹部内序列も存在し、現在三位は「子」、二位は「未」、そして一位は「卯」の俺だ。
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というか読んでる人いたんですねっ!めちゃ嬉しくて涙オバーフローしてます(笑)
描写頑張った甲斐があります!
初コメントありがとうございます!!!