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《第ニ話》気が付き
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今思えばあの日が最後かもしれない、あんなふうに無邪気に泣いたのは。
その後の学校は至って平和だった。学校側の配慮で母の死のことは伏せられしばらくは母の仕事の都合で祖父母の家にお世話になっていることになった。先生方にはいろいろと心配されたが勉学をおろそかにすればそれこそ母があの世から舞い戻って呪われそうだったので「大丈夫だ」と押し切って学校に通っていたのを覚えている。あの母のことだ呪わないとは言い切れない。
高校を無事卒業した「僕」はその後大学にも進学した。自分で言うのも何だが頭の良かった「僕」は奨学金をもらうことができ大学に問題なく通うことが出来た。奨学金は一種の「出世払い」のようなものだから返すのに苦労した、訳では無い。
就職も問題なくした。奨学金も案外早く返済できた。
「僕」は正義感に溢れていた。あのような惨状に出くわす人を減らせるように、これ以上あのような気持ちになるものが居ないように、愛するものとの別れが幸せなものであるように。だけれど、ゼロにするには力不足だ。だからこそ、なってしまったのならその後のケアを万全に。
就職したら早苗さんに偶然にも会い当時からあまり変わっていなかった彼女に「僕」は気がついた。本人は「僕」のことなど覚えていないだろうと思っていたが挨拶の時早苗さんは名乗ってもいないのに顔を見るなり「あれっ!永治君!?」と驚いていた。覚えていてくれことに嬉しくて僕はその後の仕事に精がでたものだ。
順調に昇進していった「僕」は仕事の傍らあの日の事件が迷宮入りになったことを知った。犯人の手がかりが全く無かったらしい。防犯カメラにもなにも写ってはいなかった。強いて言うなら写っていたのは事件前日に家に変える母と事件当日の朝花の手入れをしに来た田中さんとその夜帰宅した「僕」だけ。
そんな中「僕」は努力の甲斐あって捜査一課に配属された。そして、当時新人だった早苗さんは今や捜査一課の課長、警視正になっていた。
早苗さんも仕事の傍らで事件の解明を手伝ってくれた。共にしばらく仕事を一緒にし、距離も課長と新人から課長とエースになり、相棒になった。
母の死因や犯人に関することが未だ謎でもこの時間はとても幸せだった。
ある日、二人で赴いた事件現場で犯人を現行犯逮捕しようとした。しかし、ギリギリのところで逃げられてしまった。犯人は近くの廃工場に逃げ込み、早苗さんと「僕」は二手に分かれ挟み撃ちで犯人を捕まえようとした。しかし、逃げ込まれた廃工場は様々な複雑で大きい機械がそのまま残された工場で隠れるにはうってつけでも追いかけるには至難の業だった。僕は至急応援を呼ぶためその場に待機し無線機で連絡を取った。
その時だった。遠くから銃声が聞こえたのは。温厚な早苗さんは例え相手が犯人でも銃を使用したことはない。とするならば今の銃声はおそらく犯人によるものだろう。「僕」は焦った。
音のしたところまで急いで行くとそこに犯人の姿はなく血まみれで倒れ込む早苗さんの姿があった。
早苗さんは心臓を一発で撃ち抜かれ即死していた。
またしても大切な人を失った悲しみで仕事に復帰できずにいた。そんな時後輩から一通の連絡が届いた。それは取り逃がした犯人が防犯カメラに写っていないという報告だった。その後輩はあの日のことを知らない。だからこそただの偶然だと思っているのだろう、捜査が難航するだろうと。だが僕はその時今すぐ仕事に復帰しなければと思った。
だがどれほど捜査しようと犯人の手がかりは掴めなかった。そしてこの事件は迷宮入りしてしまった。犯人を目視したのはもういない早苗さんと「僕」だけ。
その数カ月後、川に男の死体が浮かんでいると通報がありその場に急行した。その男は早苗さんを殺して逃げた、「僕」があの時僕が目撃した犯人本人だった。なぜ、姿をくらますことに成功した犯人が今になって死体となって現れたのか。考えた後、「僕」の頭にはある言葉がよぎった。
トカゲの尻尾切り。
そして、気がついた。これはなにか大きなものが関係しているのではと。そして、僕はまだ僕の母を殺した、早苗さんを殺した犯人いや、組織が未だ健在なのではと。ならば復讐のチャンスがあるのではと。
「僕」はその日変わった。気がつけば一人称も「俺」になっていた。
そして俺はマフィアの一員になった。
その後の学校は至って平和だった。学校側の配慮で母の死のことは伏せられしばらくは母の仕事の都合で祖父母の家にお世話になっていることになった。先生方にはいろいろと心配されたが勉学をおろそかにすればそれこそ母があの世から舞い戻って呪われそうだったので「大丈夫だ」と押し切って学校に通っていたのを覚えている。あの母のことだ呪わないとは言い切れない。
高校を無事卒業した「僕」はその後大学にも進学した。自分で言うのも何だが頭の良かった「僕」は奨学金をもらうことができ大学に問題なく通うことが出来た。奨学金は一種の「出世払い」のようなものだから返すのに苦労した、訳では無い。
就職も問題なくした。奨学金も案外早く返済できた。
「僕」は正義感に溢れていた。あのような惨状に出くわす人を減らせるように、これ以上あのような気持ちになるものが居ないように、愛するものとの別れが幸せなものであるように。だけれど、ゼロにするには力不足だ。だからこそ、なってしまったのならその後のケアを万全に。
就職したら早苗さんに偶然にも会い当時からあまり変わっていなかった彼女に「僕」は気がついた。本人は「僕」のことなど覚えていないだろうと思っていたが挨拶の時早苗さんは名乗ってもいないのに顔を見るなり「あれっ!永治君!?」と驚いていた。覚えていてくれことに嬉しくて僕はその後の仕事に精がでたものだ。
順調に昇進していった「僕」は仕事の傍らあの日の事件が迷宮入りになったことを知った。犯人の手がかりが全く無かったらしい。防犯カメラにもなにも写ってはいなかった。強いて言うなら写っていたのは事件前日に家に変える母と事件当日の朝花の手入れをしに来た田中さんとその夜帰宅した「僕」だけ。
そんな中「僕」は努力の甲斐あって捜査一課に配属された。そして、当時新人だった早苗さんは今や捜査一課の課長、警視正になっていた。
早苗さんも仕事の傍らで事件の解明を手伝ってくれた。共にしばらく仕事を一緒にし、距離も課長と新人から課長とエースになり、相棒になった。
母の死因や犯人に関することが未だ謎でもこの時間はとても幸せだった。
ある日、二人で赴いた事件現場で犯人を現行犯逮捕しようとした。しかし、ギリギリのところで逃げられてしまった。犯人は近くの廃工場に逃げ込み、早苗さんと「僕」は二手に分かれ挟み撃ちで犯人を捕まえようとした。しかし、逃げ込まれた廃工場は様々な複雑で大きい機械がそのまま残された工場で隠れるにはうってつけでも追いかけるには至難の業だった。僕は至急応援を呼ぶためその場に待機し無線機で連絡を取った。
その時だった。遠くから銃声が聞こえたのは。温厚な早苗さんは例え相手が犯人でも銃を使用したことはない。とするならば今の銃声はおそらく犯人によるものだろう。「僕」は焦った。
音のしたところまで急いで行くとそこに犯人の姿はなく血まみれで倒れ込む早苗さんの姿があった。
早苗さんは心臓を一発で撃ち抜かれ即死していた。
またしても大切な人を失った悲しみで仕事に復帰できずにいた。そんな時後輩から一通の連絡が届いた。それは取り逃がした犯人が防犯カメラに写っていないという報告だった。その後輩はあの日のことを知らない。だからこそただの偶然だと思っているのだろう、捜査が難航するだろうと。だが僕はその時今すぐ仕事に復帰しなければと思った。
だがどれほど捜査しようと犯人の手がかりは掴めなかった。そしてこの事件は迷宮入りしてしまった。犯人を目視したのはもういない早苗さんと「僕」だけ。
その数カ月後、川に男の死体が浮かんでいると通報がありその場に急行した。その男は早苗さんを殺して逃げた、「僕」があの時僕が目撃した犯人本人だった。なぜ、姿をくらますことに成功した犯人が今になって死体となって現れたのか。考えた後、「僕」の頭にはある言葉がよぎった。
トカゲの尻尾切り。
そして、気がついた。これはなにか大きなものが関係しているのではと。そして、僕はまだ僕の母を殺した、早苗さんを殺した犯人いや、組織が未だ健在なのではと。ならば復讐のチャンスがあるのではと。
「僕」はその日変わった。気がつけば一人称も「俺」になっていた。
そして俺はマフィアの一員になった。
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