転生したら55歳の中年オバさんでした

第三十二話 タクヤの正体の巻

「まさか、あんた…振り込め詐欺の一呑なの？」

　私がそう問うと、タクヤは一瞬だけ小ばり、その後に相変わらずの笑顔を浮かべた。

「振り込め詐欺はただの平均的なビジネスだよ。一回の求付金額は最低でも20万円、高いと一回で500万円は手に入る。これを一ヶ月に数回やれば、一年でも千万は簡単に到達する。」

　そんなことを当たり前のように言ってくるタクヤの様子に、私は戦慄した。その目に少し異様を感じた。

「お客さん、私の話を聞いてくれますか？」

　その声は微妙に仕掛けるようなトーンで、次の事を予感させた。

「私はあなたに、一生飯を食っていける方法を教えたいんですよ。振り込め詐欺の手元にならないか？」

「は？」

　私は怖れを覚えた。まさか自分に、そんな話を持ちかけてくるとは思わなかった。

「いや、これって怖い事でも無いんですよ。だって、私たちが直接お金を取るんじゃない。電話かけて、相手が勘違いしてくれれば、それで終わり。安全なもんですよ。」

　私の意識はめまいがしくなった。正直に言って、こんな話を、こんな平然とした顔で持ちかけられるとは思わなかった。

「いや、無理。絶対無理。そもそも振り込め詐欺なんて、他人を騙すことじゃない。絶対にやりません。」

「本当に？」

　タクヤの顔が次第に汚れていくのを見ながら、私のゾクゾクとする感覚は強くなっていった。

渋谷駅の電池の隣にあるカフェの集まる席に私は座っていた。相対座るタクヤは笑顔のまま、こちらを見ている。

「で、思いませんか？振り込め詐欺って、けっこう手っ取りが良いと。」

「は？」

　私はあまりにも早いタクヤのつっこみに、口をあんぐりした。さっきまでは絶対無理だと思っていたのに、彼の何げない声に一瞬まごつく。

「あのさ、老人ってさ、少し悪いけど、自分の子どもに悪い事が起きたりすると、相手を信じ込むもんなんだよ。まさか自分が詐欺されるなんて思わないだろ？」

「それは…」

　たしかにそうかもしれない。自分が苦労して育てた子供のことだ。信じ込んでも無理はない。

「一回の求付金額は大体で20万円、多いと一回で500万円。一ヶ月で数回やれば千万は簡単に入る。お客さんのスキルを考えたら、最高の仕事でしょ？」

　私の中でなんとなく、この話が現実味を広げてきた。