転生したら55歳の中年オバさんでした

綾羽 ミカ

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第三十三話 オバさんオレオレ詐欺にのめりこむの巻

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次の日 午前10時、私はリビングのテーブルでゆっくりとコーヒーをすすっていた。
最近はこの落ち着いた日々にも慣れてきた。シロタマも窓際でのんびりしている。

その時、電話が鳴った。

「もしもし?」

「お母さん、俺だよ、俺!」

……あれ? 私、子供いたっけ? いやいや、前世では独身だったし、転生してからも特に記憶にない。明らかに怪しい。

「え、あんた誰?」

「だから俺だってば! 今すぐ助けが必要なんだ!」

ああ、これが噂のオレオレ詐欺か! ついに私にも来たのね!

「ちょっと待って、どうしたの?」

詐欺師が息を整えるように演技を始める。

「事故を起こしちゃって……示談金がすぐに必要なんだ! 300万円くらい用意できる?」

おお、出た。ベタな展開。普通ならここで騙されないように警察に通報するところだけど、私は52歳のオバさん。転生した今、これはある意味、人生経験として楽しめるのでは?

「わかったわ! でも、どうやってお金を渡したらいいの?」

「えっ、本当!? あ、じゃあ、代理の者が取りに行くから、指定の場所で……」

「でも、どうしてお母さんってわかるの?」

「えっ? そ、それは……」

あはは、案の定詰まった。可愛いものね。

「じゃあ、あなたの好きな食べ物、覚えてる?」

「え、えっと……ラーメン?」

「違うわよ! 私の息子なら、あんたが小さいころ好きだったのは“焼きナスの味噌炒め”でしょ!」

「あ、ああ、そうだったね!」

「嘘よ! そんなもの、私一度も作ったことないわ!」

ガチャッ!

電話は切れた。

「ふふ、やっぱりね」

思わず笑ってしまった。詐欺師も大変だろうに、もう少し勉強してほしいわね。

それから数日後、また電話がかかってきた。

「お母さん、俺だよ!」

「おかえりなさい!」

「えっ?」

「今日の夕飯は焼きナスの味噌炒めよ!」

「いや、それ……」

「大好きなんでしょ? さ、早く帰っていらっしゃい!」

またもやガチャッ!

まったく、オレオレ詐欺の世界も大変ね。でも、オバさんはそう簡単には騙されないわよ。

そして、私は今日も穏やかな日常を楽しむのだった。

続き

だが、この話はまだ終わらない。

ある日、また電話が鳴った。

「お母さん、俺だよ……」

「はいはい、またあなたね」

「えっ、ち、違うよ!」

声の主は妙に焦っている。どうやら、いつもの詐欺師とは違うらしい。

「なに、今度はどんなシナリオ?」

「お母さん……実は俺、本当の息子なんだ」

……は?

私は思わず凍りついた。

「お母さんが記憶を失ってるだけで、俺はずっと探してたんだ……」

新しい展開に、私は思わず笑いそうになった。まったく、どこまでやる気なの?

「じゃあ証拠を出してみなさいよ!」

電話の向こうが沈黙する。

しかし次の瞬間——

「お母さん、昔、庭で転んだ時に膝を擦りむいたでしょ? その時、俺が絆創膏を貼ってあげたんだよ」

——どうしてそれを!?

私の転生前の記憶が、揺さぶられ始めた。
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