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一章
1:プロローグ 訪れた審判の日
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二〇二四年十一月。
この年は異常気象が世界各地を襲っていた。
昨年はそのような予兆はなかったので、誰もが予想していなかったし、前触れもなく起きた事態。
雪が毎年降り積もるいくつもの地域に訪れる雪解けは、例年ならば四月頃だというのにこの年は二月だった。
地球の気温はそのまま上昇を続け、全世界的に熱中症で倒れる人が続出。
梅雨でないにもかかわらず、八月を境にして毎日毎日降雨に見舞われた。
それと同時に一週間のうちの半分は雷が所々で発生し、建造物を容赦なく焼いていく。
これらに付随するように火山の噴火、震度五を超える地震、洪水、土砂崩れ、台風、津波などの自然災害が人々を襲っていた。
なんの皮肉か、これらの現象によって地球における戦争は完全になくなり、世界各国の政府が協力体制を至急整えていった。
それによって強くなっていく各国の結びつき。
人類が未曾有の危機に陥ったため、ようやく地球上の国家が歪ながらもひとつの運命共同体になったのだ。
災害による死傷者は多数。
人々はこの世の終わりだと嘆き悲しみ、宗教に傾倒していく人数は増加の一途。
連日ニュースで伝えられる自国や他国の情勢。
十一月に入り、地球は真っ白な雪で埋もれていた。
今まで雪を間近で見たことがない小さい子は別として、ほとんどの人たちは自分らが住む地域に歴史上初めて降り積もったことに心を乱す。
雪の勢いは衰えず、十二月三十一日まで続いた。
年が明け、今年は去年のようなことが起こらず、一昨年までのような日常を誰もが待ち望んでいた。
人々は不安を隠すように新年を祝う。
日本の中流家庭で育っていたとある高校生は、昨年は学校が休みになることが多く、その分ゲームをして時間を潰していた。
そして正月もいつも通りに自室でゲームをして過ごしていたのだが、突然彼の耳に聞きなれない声が届く。
それはとても異質で、今まで彼が聞いたこともない声。
「ん? 今のはなんだ?」
タブレットでプレイしていたゲームを一旦止めた彼は、自室から出て階段を降りる。
そのまますぐにリビングへ向かい、父親と母親に話しかけた。
「あけましておめでとう。父さん母さん。ところで何か聞こえなかった?」
彼に声をかけられた両親は、ソファーに座りながら大きな窓のほうを見ていた。
いや、見ていたというのは語弊があるだろう。
両親の目は限界まで見開いており、口も大きく開いたままで時が止まっているかのよう。
その様子から何かあったのだと確信した彼は、それ以上は両親に話しかけず、自らも窓のほうに視線を動かす。
最初、彼はあれはなんだ? と思った。
――理解できない、理解したくない。
彼は無意識に現実逃避を行う。
しかしその存在は、そんな彼を決して逃がしはしない。
「グルァアアア!!」
自分という存在を――魂を鷲掴みにされるような感覚を覚え、精神の限界を迎えた彼は声を漏らす。
「な、な、なんだ、あれは……」
奇しくも彼の言葉が合図になったかのように、轟音と振動が彼らの家を襲う。
揺れる自宅の中で、未だ呆けたままの両親。
いち早く現実から立ち直ったゲーム好きな高校生が、よろめいた身体を整えながら絶叫を上げる。
「あれはドラゴン!? は? 何かの撮影? いや、そんなわけがない……今の振動や叫び声はどう考えても本物だ……」
彼の視線の遠い先には上空に佇んでいるドラゴンが多数。
中には口からブレスを放出し、建物を破壊しまくっている個体までいる始末。
彼は思う――どこかに避難しなければと。
しかし、どこへ?
鳴り止まない爆音、発射される色とりどりのブレス。
さらに自分たちの家の方へ向かって飛来してくるドラゴンやグリフォンなど。
と、そこで彼の父親の精神がようやく再起動を行い、立ち上がって声を荒げる。
「早く逃げるぞ! まずは持っていく物を用意し――」
そこまで発言をした父親の意識が闇に呑まれる。
それを引き起こしたのは彼らの家の上に着陸したドラゴン。
三つの命を意識せずに奪ったドラゴンは咆哮を上げ、数秒後にブレスを発射。
こうしてひとつの市が壊滅的な被害を受け、生き残った市民はこの市の人口の三割ほど。
日本各地で甚大な被害を被った市街は多く、このままでは国が滅びてしまうと懸念した官僚は自衛隊の派遣を決定した。
ドラゴンなどによる突然の襲撃は、当たり前のように家屋やビルや工場などを倒壊させ、それによってどこもかしこも火の海に変化していく。
そうなると、当然ながら市民が避難する場所が無くなってしまう。
ほぼ壊滅したといってもいい地域へ、戦車で乗り込んだ男が同僚と会話を行っていた。
「ドラゴンはこっちへ攻撃してこないのか?」
「俺たちが乗っている戦車はもう見つかっていそうなんだが……」
「この辺で止まろう。まずは戦闘機からミサイルをぶつけるようだ」
「場所によっては市民も巻き添えになりそうだな……」
彼らの気持ちは沈んでいる。
未曾有の危機に立ち向かう恐怖は当然あるが、それ以上に未だに逃げ惑っている市民もミサイルの被害者になるのがわかりきっているからだ。
この方針は当然すんなりと決まったわけではないし、反対意見は多く、紛糾した。
しかし、時間が経てば経つほど日本が滅びに向かうのは誰の目にも明らかだったため、自衛隊による武力行使が決定されてしまったのだ。
戦車に乗っていた自衛官が静かになって少し後、戦闘機からミサイルが発射され、それがドラゴンに着弾。
それは轟音と爆風をまき散らし煙が上がる。
少しして一切のダメージを受けていなさそうなドラゴンの姿が、多くの自衛官の目に映る。
それからの出来事は悲惨のひと言。
自衛隊の攻撃が当たっても一切の損傷がないドラゴンに次々と撃破されていく自衛隊。
アメリカやロシアやドイツなどの国々も日本と同様、モンスターの襲撃によって多くの命が奪われていたし、どんな攻撃をしてもドラゴンなどにダメージを与えられなかった。
人類を絶望のどん底へ突き落したモンスターの大群。
そのまま全人類はモンスターによって駆逐されるのだと誰もが考えていたが、モンスターが地上に出現していた期間は一週間だった。
モンスターが消えた原因、それは――
天が英雄を遣わせた?
神が降臨したのか?
新兵器が開発されて、それによって討伐できた?
――すべて否である。
すべてのモンスターは、突発的に発生したダンジョンと呼ばれる存在の中へ消えていっただけ。
そう、人類はただただ敗北したのだ。
そして後年――二〇二五年一月一日は審判の日、一月八日は再誕の日と呼ばれるようになった。
この年は異常気象が世界各地を襲っていた。
昨年はそのような予兆はなかったので、誰もが予想していなかったし、前触れもなく起きた事態。
雪が毎年降り積もるいくつもの地域に訪れる雪解けは、例年ならば四月頃だというのにこの年は二月だった。
地球の気温はそのまま上昇を続け、全世界的に熱中症で倒れる人が続出。
梅雨でないにもかかわらず、八月を境にして毎日毎日降雨に見舞われた。
それと同時に一週間のうちの半分は雷が所々で発生し、建造物を容赦なく焼いていく。
これらに付随するように火山の噴火、震度五を超える地震、洪水、土砂崩れ、台風、津波などの自然災害が人々を襲っていた。
なんの皮肉か、これらの現象によって地球における戦争は完全になくなり、世界各国の政府が協力体制を至急整えていった。
それによって強くなっていく各国の結びつき。
人類が未曾有の危機に陥ったため、ようやく地球上の国家が歪ながらもひとつの運命共同体になったのだ。
災害による死傷者は多数。
人々はこの世の終わりだと嘆き悲しみ、宗教に傾倒していく人数は増加の一途。
連日ニュースで伝えられる自国や他国の情勢。
十一月に入り、地球は真っ白な雪で埋もれていた。
今まで雪を間近で見たことがない小さい子は別として、ほとんどの人たちは自分らが住む地域に歴史上初めて降り積もったことに心を乱す。
雪の勢いは衰えず、十二月三十一日まで続いた。
年が明け、今年は去年のようなことが起こらず、一昨年までのような日常を誰もが待ち望んでいた。
人々は不安を隠すように新年を祝う。
日本の中流家庭で育っていたとある高校生は、昨年は学校が休みになることが多く、その分ゲームをして時間を潰していた。
そして正月もいつも通りに自室でゲームをして過ごしていたのだが、突然彼の耳に聞きなれない声が届く。
それはとても異質で、今まで彼が聞いたこともない声。
「ん? 今のはなんだ?」
タブレットでプレイしていたゲームを一旦止めた彼は、自室から出て階段を降りる。
そのまますぐにリビングへ向かい、父親と母親に話しかけた。
「あけましておめでとう。父さん母さん。ところで何か聞こえなかった?」
彼に声をかけられた両親は、ソファーに座りながら大きな窓のほうを見ていた。
いや、見ていたというのは語弊があるだろう。
両親の目は限界まで見開いており、口も大きく開いたままで時が止まっているかのよう。
その様子から何かあったのだと確信した彼は、それ以上は両親に話しかけず、自らも窓のほうに視線を動かす。
最初、彼はあれはなんだ? と思った。
――理解できない、理解したくない。
彼は無意識に現実逃避を行う。
しかしその存在は、そんな彼を決して逃がしはしない。
「グルァアアア!!」
自分という存在を――魂を鷲掴みにされるような感覚を覚え、精神の限界を迎えた彼は声を漏らす。
「な、な、なんだ、あれは……」
奇しくも彼の言葉が合図になったかのように、轟音と振動が彼らの家を襲う。
揺れる自宅の中で、未だ呆けたままの両親。
いち早く現実から立ち直ったゲーム好きな高校生が、よろめいた身体を整えながら絶叫を上げる。
「あれはドラゴン!? は? 何かの撮影? いや、そんなわけがない……今の振動や叫び声はどう考えても本物だ……」
彼の視線の遠い先には上空に佇んでいるドラゴンが多数。
中には口からブレスを放出し、建物を破壊しまくっている個体までいる始末。
彼は思う――どこかに避難しなければと。
しかし、どこへ?
鳴り止まない爆音、発射される色とりどりのブレス。
さらに自分たちの家の方へ向かって飛来してくるドラゴンやグリフォンなど。
と、そこで彼の父親の精神がようやく再起動を行い、立ち上がって声を荒げる。
「早く逃げるぞ! まずは持っていく物を用意し――」
そこまで発言をした父親の意識が闇に呑まれる。
それを引き起こしたのは彼らの家の上に着陸したドラゴン。
三つの命を意識せずに奪ったドラゴンは咆哮を上げ、数秒後にブレスを発射。
こうしてひとつの市が壊滅的な被害を受け、生き残った市民はこの市の人口の三割ほど。
日本各地で甚大な被害を被った市街は多く、このままでは国が滅びてしまうと懸念した官僚は自衛隊の派遣を決定した。
ドラゴンなどによる突然の襲撃は、当たり前のように家屋やビルや工場などを倒壊させ、それによってどこもかしこも火の海に変化していく。
そうなると、当然ながら市民が避難する場所が無くなってしまう。
ほぼ壊滅したといってもいい地域へ、戦車で乗り込んだ男が同僚と会話を行っていた。
「ドラゴンはこっちへ攻撃してこないのか?」
「俺たちが乗っている戦車はもう見つかっていそうなんだが……」
「この辺で止まろう。まずは戦闘機からミサイルをぶつけるようだ」
「場所によっては市民も巻き添えになりそうだな……」
彼らの気持ちは沈んでいる。
未曾有の危機に立ち向かう恐怖は当然あるが、それ以上に未だに逃げ惑っている市民もミサイルの被害者になるのがわかりきっているからだ。
この方針は当然すんなりと決まったわけではないし、反対意見は多く、紛糾した。
しかし、時間が経てば経つほど日本が滅びに向かうのは誰の目にも明らかだったため、自衛隊による武力行使が決定されてしまったのだ。
戦車に乗っていた自衛官が静かになって少し後、戦闘機からミサイルが発射され、それがドラゴンに着弾。
それは轟音と爆風をまき散らし煙が上がる。
少しして一切のダメージを受けていなさそうなドラゴンの姿が、多くの自衛官の目に映る。
それからの出来事は悲惨のひと言。
自衛隊の攻撃が当たっても一切の損傷がないドラゴンに次々と撃破されていく自衛隊。
アメリカやロシアやドイツなどの国々も日本と同様、モンスターの襲撃によって多くの命が奪われていたし、どんな攻撃をしてもドラゴンなどにダメージを与えられなかった。
人類を絶望のどん底へ突き落したモンスターの大群。
そのまま全人類はモンスターによって駆逐されるのだと誰もが考えていたが、モンスターが地上に出現していた期間は一週間だった。
モンスターが消えた原因、それは――
天が英雄を遣わせた?
神が降臨したのか?
新兵器が開発されて、それによって討伐できた?
――すべて否である。
すべてのモンスターは、突発的に発生したダンジョンと呼ばれる存在の中へ消えていっただけ。
そう、人類はただただ敗北したのだ。
そして後年――二〇二五年一月一日は審判の日、一月八日は再誕の日と呼ばれるようになった。
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