ことわざ人生

くさなぎ秋良

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夢枕に立つ

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 『夢枕に立つ』とは、夢の中に神仏や死んだ人の霊が現れて、ある事柄を告げること。

 普段は夢を見ないのですが、覚えているときは起き抜けに布団の上であぐらをかいて考え込んでしまうほど、我ながら不思議な夢を見ます。
 
 昔見た夢ですが、街中の家々の屋根に『月の一族』と黒い筆文字で書かれた黄色い看板が立ち、空気がその看板のせいで黄色く染まっていたこともありました。
 自分の身長ほどの竜巻が無数に街をうろうろしていたり、監禁事件を金で解決したこともあります。『金で』ってところが妙にシュールでした。しかし、夢枕に立たれたことはありません。

 ところが、私の母は一度だけそういう体験があったらしいのです。

 実は私には祖母が三人います。父の母である祖母、母の母である祖母、そして母の父である祖父の再婚相手です。

 お相手の方はもともとは温泉芸者だったそうで、祖父が齢六十を過ぎて祖母を亡くしたあとに再婚したのでした。
 母には三人の兄と弟がいるのですが、このとき彼ら男性陣は猛反対しました。けれど、母だけは「いいんじゃないの、恋愛なんて自由なんだし」と言っていたそうです。性格出てるなぁ。

 それから数日後、母の夢枕に死んだ祖母が立ち、賽の河原のようなところで風呂敷包みを背負っていたのだそうです。ただし、何かを告げることはなく、じっと恨めしげにこちらを見つめているだけだったとか。
 夢からさめたとき、もしかして自分が再婚に少しも反対しなかったことに文句を言いたかったのかと、思わず考えてしまったそうです。

 結局、三人目の祖母はあまりの嫉妬深さで精神をこわし、二年ほどで離婚したそうです。

 正直な話、私は彼女の記憶がありません。けれど、一緒に写っている写真があります。
 大人になってから、弟に「この人、誰?」と訊いたとき、「もう一人のばあちゃんだろ? 覚えてないの?」と呆れられました。
 のんびりした性分だったので、きっと「この人誰なんだろ?」と思いながらも一緒にいたんだろうと思います。

 それにしても、私はけっこうなジジコンだったので、大好きな祖父が老いらくの恋に走っていたことをあとから知ってショックを受けたのでした。あぁ、じいちゃん……。
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