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砂漠の薔薇の色
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サハラ砂漠をはじめ、かつてオアシスがあった場所には『砂漠の薔薇』と呼ばれる鉱石ができます。石膏などの結晶が花弁状に集合したものです。
そしてサハラ砂漠を舞台にし、世界中で愛されているサン=テグジュペリの『星の王子さま』には植物の薔薇が登場します。王子がふるさとに残してきた薔薇は、彼に旅立つきっかけをくれた存在です。王子とキツネ、そして薔薇のやりとりに、自分と愛猫の姿を重ねてしまうのは私だけではないはず。
私にとって猫がかけがえのない存在になったのは『タマ』という名の愛猫がきっかけでした。
私が小学生だった頃、近所の床屋で三毛猫を飼っていました。
ある日、私と母が散髪に行くと、三毛猫が子猫を産んだというのです。それも一匹だけというのが珍しい。見せてもらうと、牛のような白と黒の毛色で、まだ生後二ヶ月ほどだったと思います。それがタマでした。渋る母を説得して、やっとの思いで我が家に迎えたのです。
このタマというのが凛々しい猫で、近所の猫たちのボスでした。狩りも上手で、よく天井裏に入り込んではネズミを追いかけていました。彼が狩りに興じると、どどどどどっという足音が天井の右から左へ響き渡ったものです。階段ではピンク色の子ネズミを雛人形のように陳列してくれたこともあります。
お気に入りの爪研ぎ場所は私のランドセル。彼のパワフルな足捌きによって、ランドセルは毛羽立って裏も表も大根おろし器のよう。
タマは一度、私の眼の前で車にひかれたことがあります。道路に飛び出したところ、走行してきた乗用車とぶつかりました。ゴンっという音をたてて地面に叩きつけられたあと、ゆらりと起き上がったのです。呆然とする私に向かってまっすぐ歩み寄ってきた姿は、まるでターミネーター。慌てて病院に連れて行きましたが、眼の上が切れて腫れたくらいで、奇跡的に無事でした。今思えばあの車、ひき逃げしましたね、コンチクショウ。
タマの大好物は海苔で、少しでもバリッという音が聞こえるとダッシュで駆け寄り、ふがふがと般若のような顔で食べていたものです。
そんな彼も十八歳で大往生。最期は歩くのもやっとなのに、何度寝床に戻してもふらふら私の膝の上に乗ってきて、丸くなるのです。今思い出しても涙が出てきます。
彼と共有してきた十八年という歳月が、私に愛情のなんたるかを教えてくれたと思っています。
私にとっての薔薇はタマ。けれど彼は植物の薔薇よりは砂漠の薔薇が似合う猫です。力強く凛とした姿は、鉱石のような強さと美しさをまとっていました。
ところが、そんな大事な存在なのに、タマの写真が本当に少ないのです。携帯電話も普及していない時代でしたし、実家を出て何年もたっていたので、それに気づいたのはタマが他界してからでした。
それから私は日々の暮らしに追われ、いつしかタマの目の色を思い出せなくなりました。
しかし数日前、弟がタマの写真を見つけて画像を送ってくれたのです。そこには白と黒の模様と金色の目をした香箱座りの猫が写っていました。
「ああ、こんなに可愛い顔だったんだね」
そう言った私に、一つ下の弟がきっぱり言い返します。
「タマはかっこいい猫なの!」
砂漠の薔薇は、砂漠のオアシスや湖が干上がるとき、水が蒸発して結晶が成長して生まれるのです。
砂漠を思わせるほど辛いことだってありました。けれど、どんなときでもタマが傍にいました。
私たち姉弟にとって、タマはオアシスそのものであり、導いてくれる英雄でもあったのです。身を失った彼の思い出は脳裏で結晶化され、砂漠の薔薇となっています。その花弁の真ん中に金色の目を思い出せて、嬉しく思うのでした。
そしてサハラ砂漠を舞台にし、世界中で愛されているサン=テグジュペリの『星の王子さま』には植物の薔薇が登場します。王子がふるさとに残してきた薔薇は、彼に旅立つきっかけをくれた存在です。王子とキツネ、そして薔薇のやりとりに、自分と愛猫の姿を重ねてしまうのは私だけではないはず。
私にとって猫がかけがえのない存在になったのは『タマ』という名の愛猫がきっかけでした。
私が小学生だった頃、近所の床屋で三毛猫を飼っていました。
ある日、私と母が散髪に行くと、三毛猫が子猫を産んだというのです。それも一匹だけというのが珍しい。見せてもらうと、牛のような白と黒の毛色で、まだ生後二ヶ月ほどだったと思います。それがタマでした。渋る母を説得して、やっとの思いで我が家に迎えたのです。
このタマというのが凛々しい猫で、近所の猫たちのボスでした。狩りも上手で、よく天井裏に入り込んではネズミを追いかけていました。彼が狩りに興じると、どどどどどっという足音が天井の右から左へ響き渡ったものです。階段ではピンク色の子ネズミを雛人形のように陳列してくれたこともあります。
お気に入りの爪研ぎ場所は私のランドセル。彼のパワフルな足捌きによって、ランドセルは毛羽立って裏も表も大根おろし器のよう。
タマは一度、私の眼の前で車にひかれたことがあります。道路に飛び出したところ、走行してきた乗用車とぶつかりました。ゴンっという音をたてて地面に叩きつけられたあと、ゆらりと起き上がったのです。呆然とする私に向かってまっすぐ歩み寄ってきた姿は、まるでターミネーター。慌てて病院に連れて行きましたが、眼の上が切れて腫れたくらいで、奇跡的に無事でした。今思えばあの車、ひき逃げしましたね、コンチクショウ。
タマの大好物は海苔で、少しでもバリッという音が聞こえるとダッシュで駆け寄り、ふがふがと般若のような顔で食べていたものです。
そんな彼も十八歳で大往生。最期は歩くのもやっとなのに、何度寝床に戻してもふらふら私の膝の上に乗ってきて、丸くなるのです。今思い出しても涙が出てきます。
彼と共有してきた十八年という歳月が、私に愛情のなんたるかを教えてくれたと思っています。
私にとっての薔薇はタマ。けれど彼は植物の薔薇よりは砂漠の薔薇が似合う猫です。力強く凛とした姿は、鉱石のような強さと美しさをまとっていました。
ところが、そんな大事な存在なのに、タマの写真が本当に少ないのです。携帯電話も普及していない時代でしたし、実家を出て何年もたっていたので、それに気づいたのはタマが他界してからでした。
それから私は日々の暮らしに追われ、いつしかタマの目の色を思い出せなくなりました。
しかし数日前、弟がタマの写真を見つけて画像を送ってくれたのです。そこには白と黒の模様と金色の目をした香箱座りの猫が写っていました。
「ああ、こんなに可愛い顔だったんだね」
そう言った私に、一つ下の弟がきっぱり言い返します。
「タマはかっこいい猫なの!」
砂漠の薔薇は、砂漠のオアシスや湖が干上がるとき、水が蒸発して結晶が成長して生まれるのです。
砂漠を思わせるほど辛いことだってありました。けれど、どんなときでもタマが傍にいました。
私たち姉弟にとって、タマはオアシスそのものであり、導いてくれる英雄でもあったのです。身を失った彼の思い出は脳裏で結晶化され、砂漠の薔薇となっています。その花弁の真ん中に金色の目を思い出せて、嬉しく思うのでした。
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