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第一章
第二十六話〜冒険者体験⑥〜
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「これは食べれるのか?」
「それはポポーだな。葉と茎は毒があるから食べれないけど実は美味いぞ。けど確かアレルギー起こす人もいたはずだから今はやめといた方が無難だな」
「そうか。ならこれは?」
「ああそれなら問題ない」
「わかった。教官は物知りだな」
「それなりの経験はあるからな。それより離れてくれないか?」
「何故だ?ついさっき離れるなと言っただろう?それに男は女に密着されるのが好きと聞いたが」
「離れすぎるなってことでくっつけとは言ってないだろ。それと密着云々は誰が言ってたか詳しく教えてくれ」
「ここに来るまでの馬車の中で聞こえてきただけだから答えるのは難しいな。教官の質問なのに答えることができず申し訳ない」
「ああ……それなら仕方ないな。だからそんなに落ち込むなって」
テントの設営を終えたアヤトは生徒の三人と共に食料探しに来ていたが、想定外にテルムから依存されている現状に困惑していた。
その様子を後ろから眺めているメッサーラとアルムに助けを求めて視線を向けて見れば、テルムの突然の奇行に驚いているもののどこか納得できるような表情を浮かべている。
──こんな短時間で懐くなんて都合良すぎだろ。虫か、虫が原因なのか?
アヤトの予想は正解だ。
トラウマとなっている虫から助けて貰えた事と、再び虫と遭遇した際の対策。その二つを意識せずに認識したテルムは本能でアヤトへ助けを求め現状に至る。だが森に連れてきたのは他でもないアヤトだ。それに気付いているのかいないのか、アヤトへ擦り寄る光景はその後もしばらく続く。
──誰か一人で良かったんだけど、テルムだけ連れてきてたら何を仕出かすかわかったもんじゃなかったな。三人で動いて良かった。
シャールとティリエルの二人と合流する為食料を探しに行くという名目で当初の予定通りに生徒三人の内誰か一人を……と誘おうと考えるもさすがに結界が張ってあろうと一般人でしかない子供のみを残すのは気が引けた。
事実、テイラーの森は三人にとって魔境と言っても差し支えない。特にテルムにしてみれば結界内に侵入できないとしても虫型の魔物を視界に入れることすら嫌悪感を覚えるのだから、身の安全は確保できても精神衛生上には多大な影響があるだろう。
その気配りで今困っているのだが、自業自得な面もあるため受け入れるしかない。アヤトが困る事態は大抵の場合は自分自身の行いによるものなので慣れてしまったというのもある。
「教官、ある程度果物集まったからそろそろ戻らない?」
「私もメッサ君に賛成で~す。いよいよ暗くなってきたから危ないし、テルちゃんも休ませてあげたいし……」
「私なら大丈夫ですよ。不思議と今はすごく体調が良いんです。教官がいてくれるおかげでしょうか?」
「ん~、教官。後でちょっとお話があるんですけど?」
「奇遇だな。俺もアルムとはしっかり話しておかなきゃと思ってたところだ」
「姉上、教官と二人で何の話しをするのですか?私も同席してはいけませんか?」
「いや、あのねテルちゃん。この話しは……えっと……」
「テルムには少し休んでいてもらいたいんだ。自覚のない疲れってのは絶対にあるからな」
「わかった。教官がそう言うのなら休んでおこう」
「ああ、そうしてくれ。……メッサ」
「何をどうすれば良いのかわからないけど、とりあえずテルムが暴走しないようには注意しとく。それで良い?」
「ああ、頼む……悪いな」
「気にしないで」
人生を戦いに捧げてきたが故の偏った感覚なのだろう、多感な時期の女の子を相手にするのは巨悪と戦うよりも難しいと感じてしまう。だからこそ力強いとは言えないがメッサーラが協力してくれる姿勢がアヤトにはありがたく感じられた。
一方でアヤトの言葉を素直に聞くテルムに実姉であるアルムはやや不満気な様子で頬を膨らませている。テルムだけではない、アルムも多感な時期であることに変わりなくメッサーラも同じことが言える。
想像していたよりも大変な教導になることを今更ながらに実感したアヤトは、シャールとティリエルを預かろうとしなかった昨日の自分を褒めてやりたかった。
「よし、なら戻るか。けど帰りは帰りで食べれそうな物探すから違う道を通るぞ」
「は~い」
「了解した」
「わかった」
嘘ではないが言葉の裏にはシャールとティリエルとの合流が隠れていて、むしろそちらがメインだ。だが、そんな事情など知らない生徒達は額面通りに受け取り微塵も疑ってはいない。むしろここで疑われるようであればアヤトへの信用は一切ないと言えるだろう。
アヤトを先頭に違和感がない程度の回り道をして行き、その間もテルムからの過剰なスキンシップを受け続けているとようやく目的の場所が見えてきた。遠目ではあるが結界特有の透明な膜があり、その中にシャールとティリエルがいることも確認できる。
生徒達はまだ気付いてすらいないが、このまま進んでいけば数分後には嫌でも目につく。習っていなければ想像もしていない、他人が救援を求めてくるこの作られた状況で三人がどう対応するのか。普段では見ることのできない人間性を把握する良い機会だと思うアヤトであった。
「それはポポーだな。葉と茎は毒があるから食べれないけど実は美味いぞ。けど確かアレルギー起こす人もいたはずだから今はやめといた方が無難だな」
「そうか。ならこれは?」
「ああそれなら問題ない」
「わかった。教官は物知りだな」
「それなりの経験はあるからな。それより離れてくれないか?」
「何故だ?ついさっき離れるなと言っただろう?それに男は女に密着されるのが好きと聞いたが」
「離れすぎるなってことでくっつけとは言ってないだろ。それと密着云々は誰が言ってたか詳しく教えてくれ」
「ここに来るまでの馬車の中で聞こえてきただけだから答えるのは難しいな。教官の質問なのに答えることができず申し訳ない」
「ああ……それなら仕方ないな。だからそんなに落ち込むなって」
テントの設営を終えたアヤトは生徒の三人と共に食料探しに来ていたが、想定外にテルムから依存されている現状に困惑していた。
その様子を後ろから眺めているメッサーラとアルムに助けを求めて視線を向けて見れば、テルムの突然の奇行に驚いているもののどこか納得できるような表情を浮かべている。
──こんな短時間で懐くなんて都合良すぎだろ。虫か、虫が原因なのか?
アヤトの予想は正解だ。
トラウマとなっている虫から助けて貰えた事と、再び虫と遭遇した際の対策。その二つを意識せずに認識したテルムは本能でアヤトへ助けを求め現状に至る。だが森に連れてきたのは他でもないアヤトだ。それに気付いているのかいないのか、アヤトへ擦り寄る光景はその後もしばらく続く。
──誰か一人で良かったんだけど、テルムだけ連れてきてたら何を仕出かすかわかったもんじゃなかったな。三人で動いて良かった。
シャールとティリエルの二人と合流する為食料を探しに行くという名目で当初の予定通りに生徒三人の内誰か一人を……と誘おうと考えるもさすがに結界が張ってあろうと一般人でしかない子供のみを残すのは気が引けた。
事実、テイラーの森は三人にとって魔境と言っても差し支えない。特にテルムにしてみれば結界内に侵入できないとしても虫型の魔物を視界に入れることすら嫌悪感を覚えるのだから、身の安全は確保できても精神衛生上には多大な影響があるだろう。
その気配りで今困っているのだが、自業自得な面もあるため受け入れるしかない。アヤトが困る事態は大抵の場合は自分自身の行いによるものなので慣れてしまったというのもある。
「教官、ある程度果物集まったからそろそろ戻らない?」
「私もメッサ君に賛成で~す。いよいよ暗くなってきたから危ないし、テルちゃんも休ませてあげたいし……」
「私なら大丈夫ですよ。不思議と今はすごく体調が良いんです。教官がいてくれるおかげでしょうか?」
「ん~、教官。後でちょっとお話があるんですけど?」
「奇遇だな。俺もアルムとはしっかり話しておかなきゃと思ってたところだ」
「姉上、教官と二人で何の話しをするのですか?私も同席してはいけませんか?」
「いや、あのねテルちゃん。この話しは……えっと……」
「テルムには少し休んでいてもらいたいんだ。自覚のない疲れってのは絶対にあるからな」
「わかった。教官がそう言うのなら休んでおこう」
「ああ、そうしてくれ。……メッサ」
「何をどうすれば良いのかわからないけど、とりあえずテルムが暴走しないようには注意しとく。それで良い?」
「ああ、頼む……悪いな」
「気にしないで」
人生を戦いに捧げてきたが故の偏った感覚なのだろう、多感な時期の女の子を相手にするのは巨悪と戦うよりも難しいと感じてしまう。だからこそ力強いとは言えないがメッサーラが協力してくれる姿勢がアヤトにはありがたく感じられた。
一方でアヤトの言葉を素直に聞くテルムに実姉であるアルムはやや不満気な様子で頬を膨らませている。テルムだけではない、アルムも多感な時期であることに変わりなくメッサーラも同じことが言える。
想像していたよりも大変な教導になることを今更ながらに実感したアヤトは、シャールとティリエルを預かろうとしなかった昨日の自分を褒めてやりたかった。
「よし、なら戻るか。けど帰りは帰りで食べれそうな物探すから違う道を通るぞ」
「は~い」
「了解した」
「わかった」
嘘ではないが言葉の裏にはシャールとティリエルとの合流が隠れていて、むしろそちらがメインだ。だが、そんな事情など知らない生徒達は額面通りに受け取り微塵も疑ってはいない。むしろここで疑われるようであればアヤトへの信用は一切ないと言えるだろう。
アヤトを先頭に違和感がない程度の回り道をして行き、その間もテルムからの過剰なスキンシップを受け続けているとようやく目的の場所が見えてきた。遠目ではあるが結界特有の透明な膜があり、その中にシャールとティリエルがいることも確認できる。
生徒達はまだ気付いてすらいないが、このまま進んでいけば数分後には嫌でも目につく。習っていなければ想像もしていない、他人が救援を求めてくるこの作られた状況で三人がどう対応するのか。普段では見ることのできない人間性を把握する良い機会だと思うアヤトであった。
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