21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん

文字の大きさ
19 / 120
第2章 騎士学校

第19話 出会いは図書館

しおりを挟む
 ――2週間後

 なかなかに歴史がありそうな木造2階建ての長屋の一部屋。これが俺に与えられた寮の部屋である。

 部屋は二人一部屋を使うことを想定していたのか、部屋の隅に二段になったベッドが置かれてタンスと机も二つ置かれているため、割合に広い部屋であるのだが手狭に感じる。

 寮の中央に食堂があり、この寮に入っている学生は20人程度でいつも決まった時間に食堂で食事を摂るようになっている。
 だいたい座る席も決まっており、2週間もいると自分の席というものができてくる。
 俺はおばちゃんからトレイに乗った朝食を受け取りいつもの自分の席に着く。今日の朝食は蒸した芋にバター乗せた物に、コーンスープだった。

 芋を口に運ぶ、口の中でホクホクの柔らかい芋が砕けバターの塩味がアクセントとなり芋の美味しさを引き立てている。

 芋を半分ほど残し、カップに入ったコーンスープを口に運ぶ。トウモコロシのいい匂いが鼻の奥を刺激し口の中に唾液が貯まる。粘性のあるスープが口の中に入っていき唾液と混じりあいトウモロコシの甘さが口の中に広がる。芋のバターの塩味が残る口の中で更に甘みが増しているように感じる。

 俺は数分でそれらを完食しトレイをおばちゃんに渡す。
「朝から美味しい食事をありがとうございました」
 おばちゃんは少し照れてながら
「そう言ってもらうと作った甲斐ってもんがあるねぇ」
 と言ってトレイを受け取り炊事場に入っていった。

 食事を終え一旦部屋に戻り制服に着替える。2週間たったが未だに詰め襟の部分だけは苦手で学校を出るとすぐに外している。
 寮を出ると門のところでシャウラが待っている。
 あの怪我から3日でシャウラは学校に出席をしている。勿論包帯でぐるぐる巻きの状態であったのだが、徐々に包帯は外れ、2週間経った今では怪我を負ったことすら忘れるような治り具合であった。
 エグルストンはあれから全く学校には来ずそのまま学校と騎士団を辞めたと風の噂できいた。

 午前中の座学は魔物に負け続け、机に突っ伏していると先生や隣に座るシャウラに起こされるということの繰り返しで、午後の運動の授業ではいつも注目の的になっていた。スタンツは基本的に午後の授業には参加せずに帰ることが多い。アタリア家で専属の剣術教師から習っているからという理由らしく、学校側も特に口出しもしないというのが暗黙の掟らしい。

 特に俺はアタリア家には絡むなと校長からも口うるさく言われており、最初の日だけであとは向こうも絡んでくることもなかった。

 今日一日の授業を終えシャウラと一緒に帰宅する。シャウラと帰る方向は同じで寮を少し行ったところにシャウラの家があるとのことであった。

 騎士学校の2つ隣に白い石灰岩切り出して作られた大きな柱が4本正面にある建物がある。シャウラはこの建物に用事があると入っていく。俺は特に用事はないのだが、他に行くところもないので一緒についていった。
 建物の中に入ると木製の本棚が整然と建物奥まで並んでいる。二階、三階と吹き抜けているがその壁にも本棚が置かれ無数の本がある。シャウラはこの建物のことを図書館と言っていた。
 俺は無数に置かれた本の中に気になる本を見つけ手に取ろうとする。すると細い指の手がすっと伸びてきて俺が取ろうとした手とぶつかる。

「すいません」

 その細い指の持ち主が透き通るような声で言った。
 俺が横を向くとその手の持ち主と目があった。

 赤い髪を耳が見えるほど短く切り、前髪は眉毛の辺りで切り揃え、大きな赤い瞳で端正に整った顔はやや冷ややかな印象を受ける。この国で女性の格好といえばスカートを履き、貴族の女性は金糸や銀糸、宝石をあしらった絢爛豪華な洋服をまとい、平民の女性は質素ではあるが可愛らしいフリルなどが付いた服を着ていることが多い。しかしこの女性は男が着るような質素なシャツにズボン。そして腰には剣をさげている。
「あなた騎士学校の生徒さん?」
 その男のような格好をしている女性が言った。
「そうです」

その女性は得意げな表情で
「私と勝負してみない?」
と言った。
「え?」

 …勝負?なんのことだ?まさか剣で戦うって意味か?などと考えこの女性の真意を汲もうとする。

 すると本を沢山もったメイド姿の女性が現れ
「お嬢様見つかりました!帰りましょう」
 とその女性に声を掛ける。
「もう!これから私がこの子をボコボコにするっていうのに!」
「馬鹿なことはいわないで帰りますよ」
「っちぇ」

 メイドさんが俺の方を見て
「すいません、うちのお嬢様が迷惑を掛けたようで」
「いえ、迷惑だなんて」
 その女性はほらねというような顔をしている。
「さあ行きますよ。お嬢様」
 そういってメイドとその女性は図書館から去っていった。

 なんだったんだあいつ…

 少し待っているとシャウラが本を沢山持ってやってきた。
「またせてごめんね」
「いや、いいよ」
「じゃあ帰ろう」
 俺とシャウラも図書館を後にする。

 帰り道その女性のことを話す。
「へぇぇ変わった人もいるもんだねぇ男に勝負を挑む女性かぁ」
「そうだろ」
「で、ラグウェルはどんな本を読もうとしたのさ」
「お前が興味あるのはそっちかよ!」
「授業中10割の確率で寝る人が手に取ろうした本は興味あるでしょ」
「…剣聖の歴史」
「確かにそれならラグェルも読みそうだなぁ」

 そうして雑談をしながら俺達は帰った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

処理中です...