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第2章 騎士学校

第19話 出会いは図書館

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 ――2週間後

 なかなかに歴史がありそうな木造2階建ての長屋の一部屋。これが俺に与えられた寮の部屋である。

 部屋は二人一部屋を使うことを想定していたのか、部屋の隅に二段になったベッドが置かれてタンスと机も二つ置かれているため、割合に広い部屋であるのだが手狭に感じる。

 寮の中央に食堂があり、この寮に入っている学生は20人程度でいつも決まった時間に食堂で食事を摂るようになっている。
 だいたい座る席も決まっており、2週間もいると自分の席というものができてくる。
 俺はおばちゃんからトレイに乗った朝食を受け取りいつもの自分の席に着く。今日の朝食は蒸した芋にバター乗せた物に、コーンスープだった。

 芋を口に運ぶ、口の中でホクホクの柔らかい芋が砕けバターの塩味がアクセントとなり芋の美味しさを引き立てている。

 芋を半分ほど残し、カップに入ったコーンスープを口に運ぶ。トウモコロシのいい匂いが鼻の奥を刺激し口の中に唾液が貯まる。粘性のあるスープが口の中に入っていき唾液と混じりあいトウモロコシの甘さが口の中に広がる。芋のバターの塩味が残る口の中で更に甘みが増しているように感じる。

 俺は数分でそれらを完食しトレイをおばちゃんに渡す。
「朝から美味しい食事をありがとうございました」
 おばちゃんは少し照れてながら
「そう言ってもらうと作った甲斐ってもんがあるねぇ」
 と言ってトレイを受け取り炊事場に入っていった。

 食事を終え一旦部屋に戻り制服に着替える。2週間たったが未だに詰め襟の部分だけは苦手で学校を出るとすぐに外している。
 寮を出ると門のところでシャウラが待っている。
 あの怪我から3日でシャウラは学校に出席をしている。勿論包帯でぐるぐる巻きの状態であったのだが、徐々に包帯は外れ、2週間経った今では怪我を負ったことすら忘れるような治り具合であった。
 エグルストンはあれから全く学校には来ずそのまま学校と騎士団を辞めたと風の噂できいた。

 午前中の座学は魔物に負け続け、机に突っ伏していると先生や隣に座るシャウラに起こされるということの繰り返しで、午後の運動の授業ではいつも注目の的になっていた。スタンツは基本的に午後の授業には参加せずに帰ることが多い。アタリア家で専属の剣術教師から習っているからという理由らしく、学校側も特に口出しもしないというのが暗黙の掟らしい。

 特に俺はアタリア家には絡むなと校長からも口うるさく言われており、最初の日だけであとは向こうも絡んでくることもなかった。

 今日一日の授業を終えシャウラと一緒に帰宅する。シャウラと帰る方向は同じで寮を少し行ったところにシャウラの家があるとのことであった。

 騎士学校の2つ隣に白い石灰岩切り出して作られた大きな柱が4本正面にある建物がある。シャウラはこの建物に用事があると入っていく。俺は特に用事はないのだが、他に行くところもないので一緒についていった。
 建物の中に入ると木製の本棚が整然と建物奥まで並んでいる。二階、三階と吹き抜けているがその壁にも本棚が置かれ無数の本がある。シャウラはこの建物のことを図書館と言っていた。
 俺は無数に置かれた本の中に気になる本を見つけ手に取ろうとする。すると細い指の手がすっと伸びてきて俺が取ろうとした手とぶつかる。

「すいません」

 その細い指の持ち主が透き通るような声で言った。
 俺が横を向くとその手の持ち主と目があった。

 赤い髪を耳が見えるほど短く切り、前髪は眉毛の辺りで切り揃え、大きな赤い瞳で端正に整った顔はやや冷ややかな印象を受ける。この国で女性の格好といえばスカートを履き、貴族の女性は金糸や銀糸、宝石をあしらった絢爛豪華な洋服をまとい、平民の女性は質素ではあるが可愛らしいフリルなどが付いた服を着ていることが多い。しかしこの女性は男が着るような質素なシャツにズボン。そして腰には剣をさげている。
「あなた騎士学校の生徒さん?」
 その男のような格好をしている女性が言った。
「そうです」

その女性は得意げな表情で
「私と勝負してみない?」
と言った。
「え?」

 …勝負?なんのことだ?まさか剣で戦うって意味か?などと考えこの女性の真意を汲もうとする。

 すると本を沢山もったメイド姿の女性が現れ
「お嬢様見つかりました!帰りましょう」
 とその女性に声を掛ける。
「もう!これから私がこの子をボコボコにするっていうのに!」
「馬鹿なことはいわないで帰りますよ」
「っちぇ」

 メイドさんが俺の方を見て
「すいません、うちのお嬢様が迷惑を掛けたようで」
「いえ、迷惑だなんて」
 その女性はほらねというような顔をしている。
「さあ行きますよ。お嬢様」
 そういってメイドとその女性は図書館から去っていった。

 なんだったんだあいつ…

 少し待っているとシャウラが本を沢山持ってやってきた。
「またせてごめんね」
「いや、いいよ」
「じゃあ帰ろう」
 俺とシャウラも図書館を後にする。

 帰り道その女性のことを話す。
「へぇぇ変わった人もいるもんだねぇ男に勝負を挑む女性かぁ」
「そうだろ」
「で、ラグウェルはどんな本を読もうとしたのさ」
「お前が興味あるのはそっちかよ!」
「授業中10割の確率で寝る人が手に取ろうした本は興味あるでしょ」
「…剣聖の歴史」
「確かにそれならラグェルも読みそうだなぁ」

 そうして雑談をしながら俺達は帰った。
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