21代目の剣聖〜魔法の国生まれの魔力0の少年、国を追われ剣聖になる。〜

ぽいづん

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第3章 鴉

第71話 自責

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 ウィンタールの街の外れを流れる川の岸にたどり着く。するとすっと細く長い指が俺の目の前に現れ、俺はその手を取り立ち上がる。

 その手の持ち主は真っ直ぐに壁の方向を見つめているが、その瞳からは今まで感じていた強さは無く、悲嘆に暮れる一人の女性のそれだった。

 続々とたどり着く仲間達、その中には当然アルクとバルジの姿はない。たどり着いた者たちから火を起こし暖を取り始める。東の空が白み始め、長い夜が開けたことを知った。
「21名か…」
 川から上がってきた仲間たちを眺めていたリリカが呟いたのが聞こえた。
 リリカはふっと一瞬顔を伏せ、目を閉じすぐに顔を上げていつもの冷静沈着な表情で口を開く。
「30分後に行動を開始する。それまでに体を温めておけ」
 仲間たちは異議を発するものもなく全員一斉に返事をした。

 ウィンタールの街の住民達が不安そうな表情で家財道具を纏め、南へ向かっている姿が見える。皆一様に俺たちを見ては行くが声をかけるものはなかった。むしろ軽蔑するような視線すら感じることもあった。

 30分が経ちリリカが大きく口を開き語り始める。
「ここいる21名、今一度私に命を預けてくれ。無念にも散っていった者達への思いに答えるべく行動に移す!私は必ずや祖人からこの地を取り戻し、影で糸を引くロレンツォを必ずや我が手で八つ裂きにする!」

「おおおおおおおおおお!!!」
 それを聞いた21名の仲間達は士気は一気に上がり皆手を天に突き出し勝どきを上げた。
 そしてリリカは続ける。
「今取るべき行動は王都の騎士団と合流を果たすこと、それまで誰一人として欠けることは許さん!!」
 全員一斉に返事をしリリカを先頭に南へと動き始めた。

 南へと向かう住民たちと合流するような形になり、後ろに子供を乗せた台車を引く父親に涙ながらに話しかけてくる。
「あんた達を信じていたのに…守ってくれると信じていたのになんでなんで…」
 俺や他の仲間達はただただその話を黙って聞くことしかできなかった。壁を守れず、住民たちを守れなかった。変わりようのない事実だ…

 隣にいた女性…彼の妻だろうか?その夫をたしなめるように話しかける。
「ちょっとあなた!今まで一生懸命やってくれてたのよ!それなのにそんな言い方して!」
「で、でも…」

 リリカが重い表情で口を挟む。
「いや、いいんです奥さん…我々のせいですいませんでした…壁を…街を守りきれず…今まで住民たちにも大変な思いをさせてきたのに…本当に申し訳ありません…」

「リリカさん…」
 男はそのリリカの答えにただ押し黙り何も言えなくなる。
「す、すいません…この人もそんなつもりはなかったと思うんです。ただ感情的になっただけなので」
 男の妻はリリカに平謝りをする。

 男は引いていた台車を止め、リリカの前に立つ。そしてリリカの目を真っ直ぐに見つめ
「約束してください。絶対に故郷に帰れる日が来ると…」
 リリカも男の顔をまっすぐに見つめ力強く頷き
「必ず取り戻す。ウィンタールの地を我が命に変えても」
 その家族達と別れ、そして夜を迎え、真っ白な雪の大地から徐々に雪が消えて行く。

「休憩しよう」
 リリカが仲間たちをみて口を開く。
 確かに俺たちは夜明けまで壁を守るために戦い、壁を取り戻すため全く休まずに行軍を続けてきた、いくら屈強な鴉とはいえ疲労もピークだった。気を張っていた仲間たちは一気にへたり込み、座り込むものや倒れるように横になるものがいた。


 俺も昨夜から一睡もせず戦い、そして移動をし疲労のピークを迎えその場にドカッと座り込む。そんな俺の隣にリリカがやってきて伏し目がちに口を開いた。
「ロレンツォが鴉に居た時になあいつは壁の周囲の気候や風向きを念入りに毎年、毎年調べていたんだ。あいつは鴉になったときからいやその前から、これを画策していたんだ…それなのに…な」

 月明かりの下、リリカの表情は自責の念に囚われ、今までの冷静沈着でクールな副長というものからかけ離れたもので、そこにはただただ己の失敗を悔やむを一人の女性の姿しかなかった。

「今回の件…全て私のせいだ……ロレンツォがいる時点でもっと警戒をする必要があった…あの家族達やウィンタールの住民の暮らしを奪い鴉の仲間達の命を奪ったのも私だ…」

「そんなことありませんよ…あれは流石にあの嵐の中で壁を登ってくるなんてどんな天才軍師でも読めません…だからこそ奇襲として成功したんです…」
 俺はそんな彼女に掛ける言葉もなく、ただ事実を客観的に述べるしかなかった。
「…」
「すまなかった。お前は壁の頂上にいて休みなく動き続けていたんだったな…」
「副長…自分を責めないで下さい。あなたは悪くない…絶対に!」
「…」
 リリカは押し黙ったまま何も言わず顔を伏せたままだった。








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