騙され続けて、諦めて落ちて来た僕の妻

月山 歩

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1.待つ女性

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「新しい街で、二人で生きて行こう。」

 セシリアは最近恋人になったヤーコフと待ち合わせしていた。

 この街で、私は評判が悪い。
 すぐに男に捨てられる可哀想な女と言われている。
 そうされるのは、私に問題があると。

 だから、この街を捨てて、新しい街に行くために、この丘の木の下で、ヤーコフを待っている。

 私は新しい街への期待と、彼との未来を想像して弾む心で彼を思っていた。

 けれども、ヤーコフは時間が過ぎても一向に来ることはなかった。

 遅くても大丈夫。
 もう少し待っていれば、彼は必ず来るはずだから。

 そうして空を見上げると、しとしとと雨が降り出した。

 夕闇も迫り、天気のことなんて全く考えていなかった私は薄着のため、寒くて、震え出した。

 それでもまだ彼を信じている。

 いつしか、身体が冷え切った私はついに熱を出していたようで、意識がしだいに朦朧としてくる。

 私は薄れゆく意識の中で、丘にやってくるヤーコフを探して、眼を開こうとするが、いつしかそれも叶わなくなる。

 そして、私は意識を完全に失ってしまった。



 ハルワルド・マイルズは雨の中、木の下に倒れているセシリアを見つけた。

 雨足は強く、青白い顔色で倒れている彼女に怒りすら覚える。

 どうして、セシリアは自分を大切にせずに、ここに倒れているのか?

 誰もが約束を破ると思うような男を信じて、裏切られるのか?

 どうして、セシリアは僕以外を好きになり、同じように繰り返すのか?

 ハルワルドはかがみ込むと、セシリアをそっと抱き上げ、邸に向かって歩き出す。

 濡れて冷えた身体と熱を出して、荒い呼吸、彼女が長い間、そこに倒れたままで、命すら危ういことがわかる。

 僕は君を失ってしまうことには耐えられない。

 だからもう、君の承諾を得ないままに、邸に連れて帰る。

 僕の我慢の限界をゆうに超えた。

 君が何て言おうとも、君はもう僕のものだ。

 二度と誰にも渡さない。

 もうそろそろ僕のものになってもらおう。




「おはようございます、お目覚めですね?
 もう命を粗末にしちゃダメですよ。」

 女性はわかっているわと言う顔をするが、私は命を粗末にしたつもりはない。
 それともしたのだろうか。

 ヤーコフを信じて待つのは、命を粗末にしているのと同じ?
 わからない。

 こうして私はまた一人になるのだった。

 ああ、彼こそ私の愛すべき人だと思ったのに、私はいつも間違える。

 落ち着いた色合いの広い客室のベッドで、目覚めた私を確認すると、女性が呼びに行ったらしく、幼馴染のハルワルドがやって来る。

「やあ、体調どう?」

「大丈夫よ。」

「ならよかった。
 心配したよ。」 

「ああ、ごめんなさい。
 心配かけちゃって。」

 セシリアは申し訳なさそうに、呟く。

「もう、セシリアには選ぶ権利はないからね。今日から僕のだから。」 

「そう。
 そっか。」

「嫌だって、言わないの?」

 ハルワルドは、セシリアの意外な反応に驚きつつ、彼女の顔を覗き込んだ。

「もう自分でもどうしたらいいかわからないから、私をハルワルドにあげる。」

「そっか、じゃあもらう。」

 ハルワルドは、一瞬満足そうな顔をする。

 そうして、私はハルワルドのものになった。

 それから王都で、結婚を待望された侯爵子息レイモンドの結婚式が、盛大に行われるのはこの後すぐのことだった。
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