騙され続けて、諦めて落ちて来た僕の妻

月山 歩

文字の大きさ
1 / 13

1.待つ女性

しおりを挟む
「新しい街で、二人で生きて行こう。」

 セシリアは最近恋人になったヤーコフと待ち合わせしていた。

 この街で、私は評判が悪い。
 すぐに男に捨てられる可哀想な女と言われている。
 そうされるのは、私に問題があると。

 だから、この街を捨てて、新しい街に行くために、この丘の木の下で、ヤーコフを待っている。

 私は新しい街への期待と、彼との未来を想像して弾む心で彼を思っていた。

 けれども、ヤーコフは時間が過ぎても一向に来ることはなかった。

 遅くても大丈夫。
 もう少し待っていれば、彼は必ず来るはずだから。

 そうして空を見上げると、しとしとと雨が降り出した。

 夕闇も迫り、天気のことなんて全く考えていなかった私は薄着のため、寒くて、震え出した。

 それでもまだ彼を信じている。

 いつしか、身体が冷え切った私はついに熱を出していたようで、意識がしだいに朦朧としてくる。

 私は薄れゆく意識の中で、丘にやってくるヤーコフを探して、眼を開こうとするが、いつしかそれも叶わなくなる。

 そして、私は意識を完全に失ってしまった。



 ハルワルド・マイルズは雨の中、木の下に倒れているセシリアを見つけた。

 雨足は強く、青白い顔色で倒れている彼女に怒りすら覚える。

 どうして、セシリアは自分を大切にせずに、ここに倒れているのか?

 誰もが約束を破ると思うような男を信じて、裏切られるのか?

 どうして、セシリアは僕以外を好きになり、同じように繰り返すのか?

 ハルワルドはかがみ込むと、セシリアをそっと抱き上げ、邸に向かって歩き出す。

 濡れて冷えた身体と熱を出して、荒い呼吸、彼女が長い間、そこに倒れたままで、命すら危ういことがわかる。

 僕は君を失ってしまうことには耐えられない。

 だからもう、君の承諾を得ないままに、邸に連れて帰る。

 僕の我慢の限界をゆうに超えた。

 君が何て言おうとも、君はもう僕のものだ。

 二度と誰にも渡さない。

 もうそろそろ僕のものになってもらおう。




「おはようございます、お目覚めですね?
 もう命を粗末にしちゃダメですよ。」

 女性はわかっているわと言う顔をするが、私は命を粗末にしたつもりはない。
 それともしたのだろうか。

 ヤーコフを信じて待つのは、命を粗末にしているのと同じ?
 わからない。

 こうして私はまた一人になるのだった。

 ああ、彼こそ私の愛すべき人だと思ったのに、私はいつも間違える。

 落ち着いた色合いの広い客室のベッドで、目覚めた私を確認すると、女性が呼びに行ったらしく、幼馴染のハルワルドがやって来る。

「やあ、体調どう?」

「大丈夫よ。」

「ならよかった。
 心配したよ。」 

「ああ、ごめんなさい。
 心配かけちゃって。」

 セシリアは申し訳なさそうに、呟く。

「もう、セシリアには選ぶ権利はないからね。今日から僕のだから。」 

「そう。
 そっか。」

「嫌だって、言わないの?」

 ハルワルドは、セシリアの意外な反応に驚きつつ、彼女の顔を覗き込んだ。

「もう自分でもどうしたらいいかわからないから、私をハルワルドにあげる。」

「そっか、じゃあもらう。」

 ハルワルドは、一瞬満足そうな顔をする。

 そうして、私はハルワルドのものになった。

 それから王都で、結婚を待望された侯爵子息レイモンドの結婚式が、盛大に行われるのはこの後すぐのことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

辺境令嬢ですが契約結婚なのに、うっかり溺愛されちゃいました

星井ゆの花
恋愛
「契約結婚しませんか、僕と?」 「はいっ喜んで!」  天然ピンク髪の辺境令嬢マリッサ・アンジュールは、前世の記憶を持つ異世界転生者。ある日マリッサ同様、前世の記憶持ちのイケメン公爵ジュリアス・クラインから契約結婚を持ちかけられちゃいます。  契約に応じてお金をもらえる気楽な結婚と思いきや、公爵様はマリッサに本気で惚れているようで……気がついたら目一杯溺愛されてるんですけどぉ〜!  * この作品は小説家になろうさんにも投稿しています。  * 1話あたりの文字数は、1000文字から1800文字に調整済みです。  * 2020年4月30日、全13話で作品完結です。ありがとうございました!

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。

木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。 不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。 当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。 多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。 しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。 その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。 私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。 それは、先祖が密かに残していた遺産である。 驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。 そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。 それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。 彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。 しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。 「今更、掌を返しても遅い」 それが、私の素直な気持ちだった。 ※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)

お互いの幸せのためには距離を置くべきだと言った旦那様に、再会してから溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるアムリアは、若くして妻を亡くした伯爵令息ヴィクトールの元に嫁ぐことになった。 しかしヴィクトールは彼女との間に距離を作っており、二人は冷めた夫婦生活を送っていた。 その原因は、ヴィクトールの前妻にあった。亡くなった前妻は嫁いだことを好ましく思っておらず、彼に厳しく当たっていた。そしてそのまま亡くなったことにより、ヴィクトールに深い傷を残していたのである。 そんな事情を知ったことで、アムリアは彼に寄り添おうとしていた。 それはヴィクトールも理解していたが、今の彼には彼女を受け入れるだけの心構えができなていなかった。それ所か、しばらく距離を開けることを提案してきたのである。 ヴィクトールの気持ちも考慮して、アムリアはその提案を受け入れることにした。 彼女は実家に戻り、しばらくの間彼と離れて暮らしたのである。 それからしばらくして、アムリアはヴィクトールと再会した。 すると彼の態度は、以前とは異なっていた。彼は前妻との間にあったしがらみを乗り越えて、元来持っていた愛をアムリアに対して全力で注ぐように、なっていたのである。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

歳の差を気にして去ろうとした私は夫の本気を思い知らされる

紬あおい
恋愛
政略結婚の私達は、白い結婚から離縁に至ると思っていた。 しかし、そんな私にお怒りモードの歳下の夫は、本気で私を籠絡する。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

処理中です...