恋はタイミングがつきものと言うけれど

月山 歩

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7.琴音との会話

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「お疲れ、今日は何にする?」

「今日はさっぱりした物が食べたい。」 

 華は琴音といつものイタリアンレストランに来て、メニューを眺めていた。

「だったら、冷製パスタかレモン味のペペロンチーノね。」

「うーん、ペペロンチーノがいい。」

「じゃあ、そうしよう。」

 琴音は肩までの髪をふわりと巻き、品の良いワンピースに身を包んでいる。
 育ちの良さを滲ませるが、いつも快活で気取らない。

 思ったことはストレートに口にし、時に答えに困るほど率直だが、その裏には私を心配してくれる優しさがある。

 ひと通り注文すると、彼女からの質問タイムが始まる。

「で、どうなった?
 不倫男との慰謝料は?」

「言い方。
 悩んだけど、結局、また侑斗を頼っちゃった。」

「まあ、そうなるよね。
 今回の件に関しては、華一人じゃどうにもならないよ。
 きっと私でも侑斗に頼る。
 なんて、話だけで直接侑斗に会ったことはないけれど。」

「うん、そうだよね。
 でも今回は本当に頼みにくかったよ。
 さすがに二回連続は申し訳なくて。」

「まあ、この前の件がやっと片づいたばかりだしね。」

「うん。」

「それで、侑斗は何だって?」

「引き受けてくれるけれど、今のが片付づくまで、恋愛禁止だって。」

「えっ、厳しいね。
 でも、そう言われても仕方がないよ、さすがに。
 侑斗の気持ちもわからなくもないしね。
 だってさぁ、彼からしてみれば常に華の案件を抱えている状態でしょ。」

「そう、反省してる。」

「華は元からダメ男と付き合いがちだけど、最近は二股とか不倫とか、話がどんどん大きくなっているよね。」

「うん、どうしてだろ?
 今度こそ失敗しないようにと思って、慎重に選んでいるつもりなんだけど。
 どんどん酷くなっていくのは、何でだろう?」

「華から話を聞いている分には、相手の男が悪い人って感じじゃないのよね。
 華に恋愛フィルターかかっているからかな。
 普通は気づくべき大事なことを見落としてるのか、そもそも信じ過ぎなのか。」

「そうなのかな?
 自分では全然わからないの。」

「だったら単純に、男運が悪いんじゃない?」

「それ、一番傷つく。
 私も薄々は感じているけれど。」

「だってそれが、しっくりくる答えだもの。
 でもね、心配しないで。
 今度こそいい話があるのよ。
 私が恋のキューピットになってあげる。」

「えっ、何?」

「実はね、華を紹介してほしいって言ってた男がいるの。」

 そう言って琴音はスマホのトーク画面を見せる。
 そこには、数人の男性が写る写真があり、その中の一人の男性の写真を引き伸ばして、私に見せてくれた。

「どう?
 この人なんだけど。
 華を紹介してって言われた時は、華に彼氏がいたから断ったんだけど、商社勤務の良さそうな人なんだ。
 彼女も奥さんもいないのは確認済みだけど、どうする?」

「どうするって、今は無理だよ、断って。
 ごめん、侑斗から付き合うの禁止されてるから。」

「えー、もったいない。
 せっかくのチャンスなんだよ。
 会うだけなら良くない?
 すぐに付き合うわけじゃないし、とりあえず、話が合うかどうかだけでも。」

「う、うん、いい。
 私、侑斗に顔向けできなくなるようなことだけはしたくないんだよね。
 今までも、十分迷惑かけてるし。」

「そっか。
 華って、侑斗の言葉だと素直に従うよね。」

「うん、だって、侑斗の言うことは、いつも正しい理由があるから。
 それに、侑斗とはずっと友達でいたいし。」

「ふーん、友達ねぇ。」

「友達だよ。
 琴音に言ってなかったけれど、昔、侑斗のお母さんに侑斗を遊びに誘わないでって言われたことがあるんだ。
 だから私、彼の親からあまり良く思われていないと思うの。」

「でも、それって昔のことでしょ?
 侑斗の司法試験も終わったし、今は違うんじゃないの?」

「うーん、よくわからない。
 勉強を優先させるためか、私を遠ざけたいのかどちらなんだろう?
 でも、なんとなくそれが引っかかって、どうしても侑斗には遠慮してしまうの。

 それに侑斗に告白して、うまくいかなかったら、もう会えなくなっちゃうのも嫌だし。」

「なるほどね。
 幼馴染って思ったより難しいね。
 周りから見たら羨ましい関係だけど、色々知っているだけにそれ以上近づけないから友達ってパターンと、恋愛感情ゼロの場合とふた通りあるよね。
 まあ、難しいことは置いておいて、とりあえずスイーツは食べるよね?」

「もちろん。」

 二人はそれぞれに、スイーツをオーダーする。
 私はティラミスで、琴音はジェラート、この時間が至福。

 正直、侑斗は好きだけど、彼のお母さんは今も苦手だった。
 あの頃のように今も思われているかわからないけれど、やっぱり距離を置かれている気がして、一歩引いてしまう。
 そのことを、侑斗本人にも話せずにいた。

 基本的には、私と侑斗の関係は変わっていないから、彼のお母さんの気持ちもまた変わらないだろうと思ってしまう。

 けれど不思議なこともあった。
 侑斗の司法試験の前に、勇気を出してお守りを持って家を訪れた時、恐る恐る差し出した私に頷くと、すぐに彼を呼んでくれた。

 試験の前に来るだなんて迷惑だと思われ、もしかしたら渡してくれることなく、侑斗に内緒で捨てる場合もあると考えていたから、その時だけは驚いた。

 そして、もっと驚いたのは、侑斗がその場で私に「写真を撮らせて。」と言ったこと。

 私の写真なんているの?と、戸惑ったけど、彼が言うことは信じるが信条の私にとっては、疑問ながらもなんとなく応じてしまった。

 写真を撮ったことで、「これで絶対受かる。」なんて確信的に言うから、もしそれで力になるならいくらでも撮って、と思った。

 でも、実際に彼が撮ったのは一枚だけで、それはすぐに終わったけれど。

 侑斗にとって、お守りを持った私の写真は、結局縁起が良かったのかは、よくわからない。
 司法試験に合格できたのは侑斗の努力の結果だろうから。

 きっとあの時の侑斗は、友達からの応援が欲しかったんだと思う。
 そこにたまたま私が現れたということ。

 それでも、彼の力になれた気がして嬉しかった。
 だって、侑斗は子供の頃からの夢を語り、私はずっと応援してきたから、いつの間にか彼の夢は私の夢になっていた。

 だから、侑斗が弁護士であることは、私にとっても誇りである。



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