恋はタイミングがつきものと言うけれど

月山 歩

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8.侑斗の家

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 しばらくして、侑斗からSNSでメッセージが届いた。

 ー 「この前の話が解決したから、家に来て待ってて、今、福岡だから」

 ー 「忙しそうだね、無理せずに今度で大丈夫だよ」

 ー 「お土産も渡したいんだ」

 ー 「そっか、ありがとう、じゃあ、待ってるね」

 ー 「うん、13:30東京着だから」

 ー 「了解」

 少し早かったけれど、午後二時に侑斗の家に着き、呼び鈴を鳴らすと、お母さんが出て来て、笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃい、華ちゃん。
 侑斗から聞いているわよ。
 とりあえず入って待ってて。」

「はい、お邪魔します。」

 玄関の扉をくぐると、まず広々とした土間が目に入る。
 磨かれた木の床は艶やかに光り、靴箱の上には季節の花が生けられいた。

 高級感があり、落ち着いた家のようすは以前から変わらずで、小さなアパート暮らしの私を少し緊張させる。

「久しぶりね、元気にしてた?」

「はい。」

「そう、良かったわ。
 もう少ししたら、侑斗が帰るから待っててね。」

「はい。
 ありがとうございます。」

 居間には低めのソファと深い色合いのテーブルが整然と置かれていて、お母さんはそこに私を座らせると、お茶とクッキーを差し出した。
 そして、微笑みながら探るように私を見る。

「華ちゃんは、侑斗の好きなタイプを知ってる?」

「いやー、聞いたことはないですね。
 そう言う話は、侑斗はあまりしないから。」

「そうなの?
 華ちゃんならわかるかなあと思ったんだけれど、残念。

 ここから先の話は侑斗に内緒なんだけど、実はね、弁護士婦人会の皆さんから、お見合いの写真がたくさん届いているのよ。

 まだ早いと侑斗から怒られそうだけど、きちんとお付き合いしてから結婚するとなると、早めにお相手を決めておかないとね。」

「そうですね。」

「忙しいと後回しにしてたら、良い子はどんどん結婚しちゃうのにね。
 呑気なものよ。
 この前なんてね、仕事が忙しいって、一カ月まるまるお休みが取れなかったの。

 そんなはずないと思って、お父さんに確認したら、なんでも友人の案件を引き受けているから、お休みがなかったんですって。

 侑斗は人が良いから、困っている友人に相談されて放っておけなかったのね。
 昔からそんなところがあるのよ。」

「そうですね。」

 侑斗を心配する彼のお母さんに、その問題を抱えた友人が自分だとはとても言えない。
 優しい侑斗に泣きついて、お願いしただなんて。

 私は自分が追い込まれたから、侑斗が助けてくれるとわかっていて、甘えてしまったのだ。
 だとしても、まさか彼の一カ月分の休みを奪ってしまっていたなんて。

 でも、そのぐらいよく考えたらわかることだ。
 まだまだ若手の侑斗は日々精一杯仕事をしているだろうから、それ以外に案件を増やすには、休みの日を使うしかないのだ。

 なのに私は、それに気づかず依頼して、自分は新しい恋に夢中になり、懲りずに再び彼を頼ってしまった。

 私はなんて酷い人間なんだろう。
 侑斗のお母さんの言う通り、彼の優しさにつけ込んでいる。

「ちょっと見てもらってもいい?」

「はい。」

 お母さんは引き出しから、何冊かのお見合い写真を取り出し、お気に入りの女性の写真を見せてきた。
 その女性達は、どの女性も綺麗で、上品な顔立ちの人ばかりで、侑斗のことを好きな私を怯ませた。

 彼のお母さんにお見合いを持ちかけるぐらいだから、きっと家柄も良く、両親に大切にされて育ったのだろう。

「この子なんてどうかしら?
 椿大卒で、とても優秀なの。」

「そうですね。」

 侑斗のお母さんの言葉が、頭をすり抜ける。

「見てみて。
 こちらは弁護士さんよ。
 夫婦で弁護士っていうのも良いわね。
 やはり将来、子供が弁護士を目指すなら、お母さんも優秀じゃないとね。
 遺伝子の問題もあるわ。」

「…はい。
 そうですね。」

 侑斗を好きな私にとって、その言葉は胸に深く突き刺さる。

 私は高卒で、自分ではそれなりに頑張ったつもりでいたけれど、侑斗と比べたら、私の勉強は頑張ったとは言えない。

 私が侑斗に相応しい人間になりたいのなら、彼と同じぐらい勉強して、せめて大学に行くべきだったんだ。

 私は母に負担をかけたくなくて、高校を卒業すると同時に、働き出した。

 当時は、特になりたい職業もなく、最初から働く道しか考えていなかった。
 けれども、もし望んでいたら、母は無理をしてでも、大学に行かせてくれたはずだ。

 結局、たいした努力もせずに、彼を好きでいる私は、迷惑でしかない。
 侑斗だって、両親に胸を張って紹介できる相手と付き合いたいはずだ。

 それに最近の私は、無理な依頼をすることで彼の仕事量を増やし、私生活にまで支障きたす原因になってしまっている。

 侑斗にとってはいくら幼馴染といえども、ここまで来ると迷惑でしかないだろう。
 そう思うと、自分のせいだとわかっていても胸が痛んだ。

 その時、出張から戻った侑斗が居間に慌ただしく入って来て、彼のお母さんはその写真をパッと見えないように隠した。

「華、待たせて悪かったね。」

「ううん、おかえり。」

「おかえり。」

「ああ、母さんもただいま。
 二人にお土産があるんだ。
 母さんは明太子、華には博多ラーメン。」

「ありがとう。」

「ありがとう。」

「じゃあ、華、二階行こうか。」

「うん。
 おばさん、クッキーありがとうございました。」

「こちらこそ。
 話し相手になってくれて、ありがとう。」

 そうして二人は、侑斗の部屋に向かう。
 居間から続く階段は、緩やかで幅が広く、ゆったりと奥へ続いていた。

「二人で何の話してたんだ?」

「侑斗のタイプの女性はどんな人かなって話。」

「なんだそれ。」

「そう言えば、私達付き合いが長いけど聞いたことなかったよね?」

「いいだろ、別に。」

「えー、気になる。
 教えてくれたっていいじゃない。」

「今度な。」

 そうして侑斗は、答えをはぐらかした。
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