恋はタイミングがつきものと言うけれど

月山 歩

文字の大きさ
10 / 19

10.今は

 華は、侑斗の家を出て、道沿いにある公園のベンチに座り、涙をこぼしていた。

「侑斗…、今は…無理なの…っ。」

 目の前には、家族連れの子供たちが楽しそうに滑り台で遊んでいる。

 突然、侑斗に「好きだ、付き合ってほしい。」と言われて、本当はすごく嬉しかった。
 けれど同時に、今の私では付き合うのは無理だとも痛感していた。

 だって私は、誇れるような学歴もなく、むしろ問題ばかりを起こし、侑斗の足を引っ張るようなそんな存在だから。

 二人が好き合っているからと言って、このまま感情のままに付き合っても、侑斗はきっと周りから反対され、私と付き合ったことを後悔するだろう。

 侑斗のお父さんは、私が彼を困らせた友人だと知っているし、お母さんだって、良い条件のお見合い相手がいるのに、このタイミングで私と付き合ってほしくはないだろう。

 反対されて、釣り合わない現実を突きつけられ、二人で傷つくくらいなら、最初から彼には知られない方がいい。
 私では家族が納得しないであろうことを。

 悲しいけれど、こんなふうになってしまったのは、全部私のせいだった。
 子供の頃からもっと勉強し、大学に進んで、変な男と付き合ったりしなければ、今、侑斗と付き合えたのに。

 長い間、ずっと秘めてきた想いが叶うところだったのに、みすみす逃してしまった。
 本当に自分が嫌になる。

 それでも、しばらく落ち込むと、微かな期待が込み上げる。
 侑斗はこんな私でも「好き」だと言ってくれたよね?

 だったら、今更だけど大学に通って、誰とも付き合わずちゃんとした自分になれば、彼に相応しくなれるかもしれないと淡い期待が胸をよぎる。

 まずは大学を目指すことを家族へ相談しようと、離れて暮らしている母の家へ向かった。



「華お姉ちゃん、待ってたよ!」

 実家の玄関を開けると、私を見つけ飛びつくように出迎えてくれたのは、小学二年生の弟、蓮(れん)であった。

「蓮元気?」

「うん、僕ね、今度ピアノの発表会があるんだよ。
 すごく練習頑張っているから、絶対に聞きに来てね。」

「うん、わかった。
 楽しみにしてるからね。」

「十日後の日曜日、リーフホテルで一時からだから忘れないで、必ずよ。」

 キッチンから顔を出した母も念押しする。

「わかってる、大丈夫だよ。」

 蓮は母が再婚した男性との間にできた大切な子供で、約束を忘れて悲しませるなんて許されない。

 目がクリクリで私にも懐き、とても明るい子で、この家の太陽である。

 そして、笑顔で顔を見上げて私に話す蓮は、まるで天使のように可愛い。
 このように甘える姿に何度癒されただろうか。

 少しだけ蓮と遊ぶと、母に声をかける。

「ちょっと時間ある?
 お母さんに話があるの。」

「何?」

「私、今さらだけど、大学に行きたい。」

「えっ?
 大学、何で?」

「学歴がほしくて。」

 母は呆れたように溜息をつく。

「何それ、今さらそれだけのために、大学に行くっていうの?
 信じられない。
 あなたが勝手に行くのはいいけれど、お金は出さないわよ。
 行くなら自分で行きなさい。」

「うん、わかってる。
 貯金が少しだけあるの。」

「本当、華は勝手ね。
 一人で暮らさず、一緒に住めばいいのに。
 もし大学に行くなら、ここに戻ってここから通いなさい。」

「うん、考えておく。」

 それだけ母に伝えると、すぐに実家を後にした。 

 母は父の浮気が原因で離婚してから、私を一人で育て、十年前に再婚して蓮が生まれた。

 義父はとても優しく、私を実の娘のように大切にしてくれていた。
 それでも思春期の私には、義父はどこまでも母の恋人で、父親とは思えなかった。

 高校まで出してくれた義父には感謝しているのに、素直になれない。

 一方で蓮は、母と義父が仲良くする姿を嬉しそうに見ている。

 本当は私もそうあるべきなのに、可愛げがないのはわかっている。
 散々二人にはお世話になっているからこそ、そんな自分が嫌になる。

 どうしてかはわからないけれど、心から馴染めないし、家族の中にいても、孤独は消えない。

 私は、別れた父の血が濃いのだろうか?
 だから、二人に違和感を感じるのだろうか?
 ステップファミリーはいくらでもいるのにね。

 独り身になった母が義父と幸せでいてもらいたいけれど、そこに私を巻き込まないでほしい。
 そう思ってしまうのだ。

 だからこそ、母に相談という名の報告をすることはあっても、最初から大学に行くための費用を負担してほしいとは思っていなかった。

 授業料も含め全部自分で払うつもりだし、ただそのことを母に伝えたかっただけ。

 とは言え、一度社会人になってから大学に通うために、今いる会社を辞めるのは難しい。

 生活していくのには、やはりお金がかかる。
 だから私は、通信大学にして、仕事も続けようと思っている。

 本当はあの家に戻り、再び両親にお世話になれば、経済的に負担が少ない。

 でも、やっと母達から離れ一人で暮らしているのに、あの家に再び戻るのが耐えられない。

 今いる会社で働き続けながら、勉強も抱えて、本当にやっていけるだろうか?

 それでも、侑斗と釣り合う自分になるために、大学の課程を履修すると決めたのだ。
 いつまでもグジグジ悩むのはやめて動き出そう。

 仕事の後にバイトして、勉強もして、不安はあるけれど、やらないと何も始まらない。
 そしてその過程は最低四年はかかる。

 大学を卒業してから侑斗に想いを伝えようと思っていたけれど、それでは遅すぎるかもしれない。

 こちらの勝手な思いの有無に関わらず、侑斗がいつまでも彼女をつくらないとは限らない。
 だから、そのことを侑斗にちゃんと話して、わかってもらおう。

 実家から再び公園に戻り、悩んでそう決心した頃には、辺りはすっかり夜になっていた。


感想 0

あなたにおすすめの小説

オネエな幼馴染と男嫌いな私

麻竹
恋愛
男嫌いな侯爵家の御令嬢にはオネエの幼馴染がいました。しかし実は侯爵令嬢が男嫌いになったのは、この幼馴染のせいでした。物心つく頃から一緒にいた幼馴染は事ある毎に侯爵令嬢に嫌がらせをしてきます。その悪戯も洒落にならないような悪戯ばかりで毎日命がけ。そのせいで男嫌いになってしまった侯爵令嬢。「あいつのせいで男が苦手になったのに、なんであいつはオカマになってるのよ!!」と大人になって、あっさりオカマになってしまった幼馴染に憤慨する侯爵令嬢。そんな侯爵令嬢に今日も幼馴染はちょっかいをかけに来るのでした。

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

「やり直したい」と泣きつかれても困ります。不倫に溺れた三年間で私の心は死に絶えました〜捨てられた元妻、御曹司の傍らで元夫を静かに切り捨てる〜

唯崎りいち
恋愛
三年間の夫の不倫で心も生活も壊れた私。偶然出会ったレトルト食品に救われ、Webデザインで再出発。過去に縛られず、自分の人生を取り戻す静かな再生の物語。

Short stories

美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……? 切なくて、泣ける短編です。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?