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10.今は
華は、侑斗の家を出て、道沿いにある公園のベンチに座り、涙をこぼしていた。
「侑斗…、今は…無理なの…っ。」
目の前には、家族連れの子供たちが楽しそうに滑り台で遊んでいる。
突然、侑斗に「好きだ、付き合ってほしい。」と言われて、本当はすごく嬉しかった。
けれど同時に、今の私では付き合うのは無理だとも痛感していた。
だって私は、誇れるような学歴もなく、むしろ問題ばかりを起こし、侑斗の足を引っ張るようなそんな存在だから。
二人が好き合っているからと言って、このまま感情のままに付き合っても、侑斗はきっと周りから反対され、私と付き合ったことを後悔するだろう。
侑斗のお父さんは、私が彼を困らせた友人だと知っているし、お母さんだって、良い条件のお見合い相手がいるのに、このタイミングで私と付き合ってほしくはないだろう。
反対されて、釣り合わない現実を突きつけられ、二人で傷つくくらいなら、最初から彼には知られない方がいい。
私では家族が納得しないであろうことを。
悲しいけれど、こんなふうになってしまったのは、全部私のせいだった。
子供の頃からもっと勉強し、大学に進んで、変な男と付き合ったりしなければ、今、侑斗と付き合えたのに。
長い間、ずっと秘めてきた想いが叶うところだったのに、みすみす逃してしまった。
本当に自分が嫌になる。
それでも、しばらく落ち込むと、微かな期待が込み上げる。
侑斗はこんな私でも「好き」だと言ってくれたよね?
だったら、今更だけど大学に通って、誰とも付き合わずちゃんとした自分になれば、彼に相応しくなれるかもしれないと淡い期待が胸をよぎる。
まずは大学を目指すことを家族へ相談しようと、離れて暮らしている母の家へ向かった。
「華お姉ちゃん、待ってたよ!」
実家の玄関を開けると、私を見つけ飛びつくように出迎えてくれたのは、小学二年生の弟、蓮(れん)であった。
「蓮元気?」
「うん、僕ね、今度ピアノの発表会があるんだよ。
すごく練習頑張っているから、絶対に聞きに来てね。」
「うん、わかった。
楽しみにしてるからね。」
「十日後の日曜日、リーフホテルで一時からだから忘れないで、必ずよ。」
キッチンから顔を出した母も念押しする。
「わかってる、大丈夫だよ。」
蓮は母が再婚した男性との間にできた大切な子供で、約束を忘れて悲しませるなんて許されない。
目がクリクリで私にも懐き、とても明るい子で、この家の太陽である。
そして、笑顔で顔を見上げて私に話す蓮は、まるで天使のように可愛い。
このように甘える姿に何度癒されただろうか。
少しだけ蓮と遊ぶと、母に声をかける。
「ちょっと時間ある?
お母さんに話があるの。」
「何?」
「私、今さらだけど、大学に行きたい。」
「えっ?
大学、何で?」
「学歴がほしくて。」
母は呆れたように溜息をつく。
「何それ、今さらそれだけのために、大学に行くっていうの?
信じられない。
あなたが勝手に行くのはいいけれど、お金は出さないわよ。
行くなら自分で行きなさい。」
「うん、わかってる。
貯金が少しだけあるの。」
「本当、華は勝手ね。
一人で暮らさず、一緒に住めばいいのに。
もし大学に行くなら、ここに戻ってここから通いなさい。」
「うん、考えておく。」
それだけ母に伝えると、すぐに実家を後にした。
母は父の浮気が原因で離婚してから、私を一人で育て、十年前に再婚して蓮が生まれた。
義父はとても優しく、私を実の娘のように大切にしてくれていた。
それでも思春期の私には、義父はどこまでも母の恋人で、父親とは思えなかった。
高校まで出してくれた義父には感謝しているのに、素直になれない。
一方で蓮は、母と義父が仲良くする姿を嬉しそうに見ている。
本当は私もそうあるべきなのに、可愛げがないのはわかっている。
散々二人にはお世話になっているからこそ、そんな自分が嫌になる。
どうしてかはわからないけれど、心から馴染めないし、家族の中にいても、孤独は消えない。
私は、別れた父の血が濃いのだろうか?
だから、二人に違和感を感じるのだろうか?
ステップファミリーはいくらでもいるのにね。
独り身になった母が義父と幸せでいてもらいたいけれど、そこに私を巻き込まないでほしい。
そう思ってしまうのだ。
だからこそ、母に相談という名の報告をすることはあっても、最初から大学に行くための費用を負担してほしいとは思っていなかった。
授業料も含め全部自分で払うつもりだし、ただそのことを母に伝えたかっただけ。
とは言え、一度社会人になってから大学に通うために、今いる会社を辞めるのは難しい。
生活していくのには、やはりお金がかかる。
だから私は、通信大学にして、仕事も続けようと思っている。
本当はあの家に戻り、再び両親にお世話になれば、経済的に負担が少ない。
でも、やっと母達から離れ一人で暮らしているのに、あの家に再び戻るのが耐えられない。
今いる会社で働き続けながら、勉強も抱えて、本当にやっていけるだろうか?
それでも、侑斗と釣り合う自分になるために、大学の課程を履修すると決めたのだ。
いつまでもグジグジ悩むのはやめて動き出そう。
仕事の後にバイトして、勉強もして、不安はあるけれど、やらないと何も始まらない。
そしてその過程は最低四年はかかる。
大学を卒業してから侑斗に想いを伝えようと思っていたけれど、それでは遅すぎるかもしれない。
こちらの勝手な思いの有無に関わらず、侑斗がいつまでも彼女をつくらないとは限らない。
だから、そのことを侑斗にちゃんと話して、わかってもらおう。
実家から再び公園に戻り、悩んでそう決心した頃には、辺りはすっかり夜になっていた。
「侑斗…、今は…無理なの…っ。」
目の前には、家族連れの子供たちが楽しそうに滑り台で遊んでいる。
突然、侑斗に「好きだ、付き合ってほしい。」と言われて、本当はすごく嬉しかった。
けれど同時に、今の私では付き合うのは無理だとも痛感していた。
だって私は、誇れるような学歴もなく、むしろ問題ばかりを起こし、侑斗の足を引っ張るようなそんな存在だから。
二人が好き合っているからと言って、このまま感情のままに付き合っても、侑斗はきっと周りから反対され、私と付き合ったことを後悔するだろう。
侑斗のお父さんは、私が彼を困らせた友人だと知っているし、お母さんだって、良い条件のお見合い相手がいるのに、このタイミングで私と付き合ってほしくはないだろう。
反対されて、釣り合わない現実を突きつけられ、二人で傷つくくらいなら、最初から彼には知られない方がいい。
私では家族が納得しないであろうことを。
悲しいけれど、こんなふうになってしまったのは、全部私のせいだった。
子供の頃からもっと勉強し、大学に進んで、変な男と付き合ったりしなければ、今、侑斗と付き合えたのに。
長い間、ずっと秘めてきた想いが叶うところだったのに、みすみす逃してしまった。
本当に自分が嫌になる。
それでも、しばらく落ち込むと、微かな期待が込み上げる。
侑斗はこんな私でも「好き」だと言ってくれたよね?
だったら、今更だけど大学に通って、誰とも付き合わずちゃんとした自分になれば、彼に相応しくなれるかもしれないと淡い期待が胸をよぎる。
まずは大学を目指すことを家族へ相談しようと、離れて暮らしている母の家へ向かった。
「華お姉ちゃん、待ってたよ!」
実家の玄関を開けると、私を見つけ飛びつくように出迎えてくれたのは、小学二年生の弟、蓮(れん)であった。
「蓮元気?」
「うん、僕ね、今度ピアノの発表会があるんだよ。
すごく練習頑張っているから、絶対に聞きに来てね。」
「うん、わかった。
楽しみにしてるからね。」
「十日後の日曜日、リーフホテルで一時からだから忘れないで、必ずよ。」
キッチンから顔を出した母も念押しする。
「わかってる、大丈夫だよ。」
蓮は母が再婚した男性との間にできた大切な子供で、約束を忘れて悲しませるなんて許されない。
目がクリクリで私にも懐き、とても明るい子で、この家の太陽である。
そして、笑顔で顔を見上げて私に話す蓮は、まるで天使のように可愛い。
このように甘える姿に何度癒されただろうか。
少しだけ蓮と遊ぶと、母に声をかける。
「ちょっと時間ある?
お母さんに話があるの。」
「何?」
「私、今さらだけど、大学に行きたい。」
「えっ?
大学、何で?」
「学歴がほしくて。」
母は呆れたように溜息をつく。
「何それ、今さらそれだけのために、大学に行くっていうの?
信じられない。
あなたが勝手に行くのはいいけれど、お金は出さないわよ。
行くなら自分で行きなさい。」
「うん、わかってる。
貯金が少しだけあるの。」
「本当、華は勝手ね。
一人で暮らさず、一緒に住めばいいのに。
もし大学に行くなら、ここに戻ってここから通いなさい。」
「うん、考えておく。」
それだけ母に伝えると、すぐに実家を後にした。
母は父の浮気が原因で離婚してから、私を一人で育て、十年前に再婚して蓮が生まれた。
義父はとても優しく、私を実の娘のように大切にしてくれていた。
それでも思春期の私には、義父はどこまでも母の恋人で、父親とは思えなかった。
高校まで出してくれた義父には感謝しているのに、素直になれない。
一方で蓮は、母と義父が仲良くする姿を嬉しそうに見ている。
本当は私もそうあるべきなのに、可愛げがないのはわかっている。
散々二人にはお世話になっているからこそ、そんな自分が嫌になる。
どうしてかはわからないけれど、心から馴染めないし、家族の中にいても、孤独は消えない。
私は、別れた父の血が濃いのだろうか?
だから、二人に違和感を感じるのだろうか?
ステップファミリーはいくらでもいるのにね。
独り身になった母が義父と幸せでいてもらいたいけれど、そこに私を巻き込まないでほしい。
そう思ってしまうのだ。
だからこそ、母に相談という名の報告をすることはあっても、最初から大学に行くための費用を負担してほしいとは思っていなかった。
授業料も含め全部自分で払うつもりだし、ただそのことを母に伝えたかっただけ。
とは言え、一度社会人になってから大学に通うために、今いる会社を辞めるのは難しい。
生活していくのには、やはりお金がかかる。
だから私は、通信大学にして、仕事も続けようと思っている。
本当はあの家に戻り、再び両親にお世話になれば、経済的に負担が少ない。
でも、やっと母達から離れ一人で暮らしているのに、あの家に再び戻るのが耐えられない。
今いる会社で働き続けながら、勉強も抱えて、本当にやっていけるだろうか?
それでも、侑斗と釣り合う自分になるために、大学の課程を履修すると決めたのだ。
いつまでもグジグジ悩むのはやめて動き出そう。
仕事の後にバイトして、勉強もして、不安はあるけれど、やらないと何も始まらない。
そしてその過程は最低四年はかかる。
大学を卒業してから侑斗に想いを伝えようと思っていたけれど、それでは遅すぎるかもしれない。
こちらの勝手な思いの有無に関わらず、侑斗がいつまでも彼女をつくらないとは限らない。
だから、そのことを侑斗にちゃんと話して、わかってもらおう。
実家から再び公園に戻り、悩んでそう決心した頃には、辺りはすっかり夜になっていた。
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