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1.かくれんぼ
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少女のセリーナ・ケンブルは婚約者であるドリュー・エバンスの邸を訪ねていた。
セリーナの家族は一応侯爵家ではあるが、かろうじて貴族と言う程度で、反対にドリューの家系はエバンス公爵家というこの王国を代表する名門である。
ドリューの父のクロード・エバンスは元々侯爵であったが、公爵家の令嬢と結婚することで、エバンス公爵となっていた。
二人はエバンス家の意向で、幼い頃から婚約していたので、二人の仲は良好だった。
「セリーナ、隠れていいのは、一階だけだよ。」
「わかっているわ。」
「じゃ、数えるね。いーち、にー、」
セリーナはかくれんぼが得意で、ドリューに捕まることはほとんどない。
「今日はどこに隠れようかしら。」
そう思いながら、ドリューの邸を歩き回る。
すると、大きなドアがついていて、気になる部屋を見つける。
あそこの部屋は何の部屋だったかしら?
セリーナはドリューの邸で日常的に遊んでいるから、ほとんどの部屋のことは把握しているつもりだけど、唯一開けたことのない部屋が気になった。
「今日はあそこに隠れてみよう。」
セリーナはゆっくりドアを開け、部屋に足を踏み入れる。
すると、部屋の奥の綺麗な顔の男性が机から、顔をあげてこちらを見た。
「あら、ここクロードおじさまの部屋だったのね。
ご機嫌よう。」
セリーナは美しいカーテシーをしながら挨拶する。
これは自慢できるほど得意なのだ。
「やあ、久しぶりだね。
以前会った時より、随分大きくなったね。」
クロードおじさまは、私の顔をしげしげと見つめているようだ。
笑った時の表情が可愛いと、ドリューはいつも褒めてくれるの。
だから、おじさまも可愛いと思ってくれているのかしら。
だって、おじさまに前回会った時なんてもっともっと小さかった。
でも私は、いつまでも赤ちゃんじゃないわ。
もう立派なレディよ。
「私達かくれんぼをしていたの。
じゃあ、お仕事の邪魔だから、違う部屋に隠れるわ。」
「邪魔じゃないよ。
君がお母さんのことを話してくれるなら、ここに隠れても構わないよ。」
「やったぁ、じゃあ、私この置き物の後ろに隠れて、お母様のことをお話するわ。」
「どうぞ。」
私は部屋の奥にある大きな壺の後ろに隠れるようにしゃがむ。
「これで、入り口から見えないかしら?」
私がそう言うと、クロードおじさまは椅子から立ち上がり、入り口まで行って、そこから見えないかどうか確認してくれた。
「大丈夫だよ。
見えない。」
「ふふ、クロードおじさまって優しいのね。」
「そんなことないさ。
昔、鬼ごっこが好きな友達に、ちゃんと隠れているか見てきてって、言われていたんだよ。
確認しているうちに、僕は鬼に見つかってしまうんだけれどね。」
「まぁ、ひどいお友達ね。
クロードおじさまはどうしてそんな子とお友達だったの?」
「その子はね、毎回僕の手を引いて、一緒に隠れる場所を探してくれるんだ。
だから、時々そのせいで見つかってしまっても、僕は一緒に隠れる場所を探すだけで、楽しかったんだ。」
そう言って、クロードおじさまは再び机の所にある椅子に座った。
「へぇ、そうなんだ。
あっ、クロードおじさまは、お母様のお話が聞きたいって言ってたわね?
クロードおじさまってちょっと変わっているわ。
普通はお父様のことをみんな聞いてくるのよ。
お父様は医師として働く貴族なの。
だから、貴族の方々はみんなお父様と知り合いになって、病いのこととかを相談したいようなの。
だから、お父様はどこに行っても疲れちゃって、お母様と二人だけで過ごしたいって、いつも言っているわ。
お父様はお母様が大好きだから、一緒にいるだけで癒されるって、よく言っているの。」
「そうか。」
「ごめんなさい。
クロードおじさまはもう奥様を亡くされて、ドリューと二人きりで過ごしているのに、そんなことを言うのは失礼よね。」
「そんなことはないよ。
僕が君にお母さんのことを尋ねたんだから。」
「そうだったわ。
クロードおじさまはもう一度結婚しないの?」
「多分、できないと思う。」
「そっか、亡くなった奥様のことを今でも愛しているのね。」
「どうだろうね。」
その時、ドアを叩く音が響き、テッドが顔を覗かせる。
「エバンス公爵様、ご無沙汰しております。
セリーナお嬢様がかくれんぼをしている最中に行方不明となり、邸中を大捜索しております。
申し訳ございません。」
「いや、構わないよ。」
「ところで、エバンス公爵様は、セリーナお嬢様をご存知ありませんか?」
「僕はここにいたよ。」
「なるほど、失礼します。」
テッドは、その瞬間、執務室の奥まで一気に入ってきて、壺の後ろに隠れている私と目が合った。
「お嬢様、こちらにおりましたか?
ドリュー様が心配して泣いていますよ。」
「えっ?
どうして、ドリューが泣くの?」
「セリーナお嬢様がどんなに探しても、見つからないからです。」
「だって、私はただここに隠れていただけなのに。」
私はちゃんと約束を守ってやっているわ。
だから、私は悪くないと思うの。
その時、クロードおじさまが見かねて提案した。
「セリーナ嬢、かくれんぼする時は、ドリューと一緒に隠れてあげてくれないか?
そうすれば、ドリューは泣かないし、一晩中でも君と一緒に隠れているよ。」
「そうなの?
クロードおじさまがそう言うのなら、今度はドリューと隠れるわ。
テッドが鬼になってね。」
「わかりました。」
テッドはエバンス公爵に頭を下げてから、私を連れてドリューのもとへ向かった。
「セリーナ、どこに行ってたの?
僕、セリーナが心配で、もうかくれんぼなんてしたくない。」
ドリューは涙を流しながら、私にしがみつく。
「私はクロードおじさまの執務室に隠れていたの。
ちゃんと、一階だけって言う約束は守ったわ。」
「お父様のお部屋にいたの?
でも、お父様はお仕事が忙しいから、邪魔しちゃダメだよ。」
「大丈夫よ。
クロードおじさまはとても優しかったわ。
ドリューより、かくれんぼが得意そうなの。」
「僕は、お父様とかくれんぼをしたことがないからわからないよ。」
「クロードおじさまが言っていたわ。
今度隠れる時は、ドリューと隠れてあげてって。
そうしたら、ドリューは泣かないって。」
「えっ、お父様がそんなことを言ったの?
僕、セリーナと隠れてみたい。
そのかくれんぼ楽しそう。」
「ね?
クロードおじさまの方が、かくれんぼをわかっているでしよ?」
「うん、早くやろう。」
「もう、ドリューったら。
じゃあ、テッド、十を数えて。」
「かしこまりました。」
セリーナは、ドリューの手を引いて、嬉しそうに走り出した。
セリーナの家族は一応侯爵家ではあるが、かろうじて貴族と言う程度で、反対にドリューの家系はエバンス公爵家というこの王国を代表する名門である。
ドリューの父のクロード・エバンスは元々侯爵であったが、公爵家の令嬢と結婚することで、エバンス公爵となっていた。
二人はエバンス家の意向で、幼い頃から婚約していたので、二人の仲は良好だった。
「セリーナ、隠れていいのは、一階だけだよ。」
「わかっているわ。」
「じゃ、数えるね。いーち、にー、」
セリーナはかくれんぼが得意で、ドリューに捕まることはほとんどない。
「今日はどこに隠れようかしら。」
そう思いながら、ドリューの邸を歩き回る。
すると、大きなドアがついていて、気になる部屋を見つける。
あそこの部屋は何の部屋だったかしら?
セリーナはドリューの邸で日常的に遊んでいるから、ほとんどの部屋のことは把握しているつもりだけど、唯一開けたことのない部屋が気になった。
「今日はあそこに隠れてみよう。」
セリーナはゆっくりドアを開け、部屋に足を踏み入れる。
すると、部屋の奥の綺麗な顔の男性が机から、顔をあげてこちらを見た。
「あら、ここクロードおじさまの部屋だったのね。
ご機嫌よう。」
セリーナは美しいカーテシーをしながら挨拶する。
これは自慢できるほど得意なのだ。
「やあ、久しぶりだね。
以前会った時より、随分大きくなったね。」
クロードおじさまは、私の顔をしげしげと見つめているようだ。
笑った時の表情が可愛いと、ドリューはいつも褒めてくれるの。
だから、おじさまも可愛いと思ってくれているのかしら。
だって、おじさまに前回会った時なんてもっともっと小さかった。
でも私は、いつまでも赤ちゃんじゃないわ。
もう立派なレディよ。
「私達かくれんぼをしていたの。
じゃあ、お仕事の邪魔だから、違う部屋に隠れるわ。」
「邪魔じゃないよ。
君がお母さんのことを話してくれるなら、ここに隠れても構わないよ。」
「やったぁ、じゃあ、私この置き物の後ろに隠れて、お母様のことをお話するわ。」
「どうぞ。」
私は部屋の奥にある大きな壺の後ろに隠れるようにしゃがむ。
「これで、入り口から見えないかしら?」
私がそう言うと、クロードおじさまは椅子から立ち上がり、入り口まで行って、そこから見えないかどうか確認してくれた。
「大丈夫だよ。
見えない。」
「ふふ、クロードおじさまって優しいのね。」
「そんなことないさ。
昔、鬼ごっこが好きな友達に、ちゃんと隠れているか見てきてって、言われていたんだよ。
確認しているうちに、僕は鬼に見つかってしまうんだけれどね。」
「まぁ、ひどいお友達ね。
クロードおじさまはどうしてそんな子とお友達だったの?」
「その子はね、毎回僕の手を引いて、一緒に隠れる場所を探してくれるんだ。
だから、時々そのせいで見つかってしまっても、僕は一緒に隠れる場所を探すだけで、楽しかったんだ。」
そう言って、クロードおじさまは再び机の所にある椅子に座った。
「へぇ、そうなんだ。
あっ、クロードおじさまは、お母様のお話が聞きたいって言ってたわね?
クロードおじさまってちょっと変わっているわ。
普通はお父様のことをみんな聞いてくるのよ。
お父様は医師として働く貴族なの。
だから、貴族の方々はみんなお父様と知り合いになって、病いのこととかを相談したいようなの。
だから、お父様はどこに行っても疲れちゃって、お母様と二人だけで過ごしたいって、いつも言っているわ。
お父様はお母様が大好きだから、一緒にいるだけで癒されるって、よく言っているの。」
「そうか。」
「ごめんなさい。
クロードおじさまはもう奥様を亡くされて、ドリューと二人きりで過ごしているのに、そんなことを言うのは失礼よね。」
「そんなことはないよ。
僕が君にお母さんのことを尋ねたんだから。」
「そうだったわ。
クロードおじさまはもう一度結婚しないの?」
「多分、できないと思う。」
「そっか、亡くなった奥様のことを今でも愛しているのね。」
「どうだろうね。」
その時、ドアを叩く音が響き、テッドが顔を覗かせる。
「エバンス公爵様、ご無沙汰しております。
セリーナお嬢様がかくれんぼをしている最中に行方不明となり、邸中を大捜索しております。
申し訳ございません。」
「いや、構わないよ。」
「ところで、エバンス公爵様は、セリーナお嬢様をご存知ありませんか?」
「僕はここにいたよ。」
「なるほど、失礼します。」
テッドは、その瞬間、執務室の奥まで一気に入ってきて、壺の後ろに隠れている私と目が合った。
「お嬢様、こちらにおりましたか?
ドリュー様が心配して泣いていますよ。」
「えっ?
どうして、ドリューが泣くの?」
「セリーナお嬢様がどんなに探しても、見つからないからです。」
「だって、私はただここに隠れていただけなのに。」
私はちゃんと約束を守ってやっているわ。
だから、私は悪くないと思うの。
その時、クロードおじさまが見かねて提案した。
「セリーナ嬢、かくれんぼする時は、ドリューと一緒に隠れてあげてくれないか?
そうすれば、ドリューは泣かないし、一晩中でも君と一緒に隠れているよ。」
「そうなの?
クロードおじさまがそう言うのなら、今度はドリューと隠れるわ。
テッドが鬼になってね。」
「わかりました。」
テッドはエバンス公爵に頭を下げてから、私を連れてドリューのもとへ向かった。
「セリーナ、どこに行ってたの?
僕、セリーナが心配で、もうかくれんぼなんてしたくない。」
ドリューは涙を流しながら、私にしがみつく。
「私はクロードおじさまの執務室に隠れていたの。
ちゃんと、一階だけって言う約束は守ったわ。」
「お父様のお部屋にいたの?
でも、お父様はお仕事が忙しいから、邪魔しちゃダメだよ。」
「大丈夫よ。
クロードおじさまはとても優しかったわ。
ドリューより、かくれんぼが得意そうなの。」
「僕は、お父様とかくれんぼをしたことがないからわからないよ。」
「クロードおじさまが言っていたわ。
今度隠れる時は、ドリューと隠れてあげてって。
そうしたら、ドリューは泣かないって。」
「えっ、お父様がそんなことを言ったの?
僕、セリーナと隠れてみたい。
そのかくれんぼ楽しそう。」
「ね?
クロードおじさまの方が、かくれんぼをわかっているでしよ?」
「うん、早くやろう。」
「もう、ドリューったら。
じゃあ、テッド、十を数えて。」
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セリーナは、ドリューの手を引いて、嬉しそうに走り出した。
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