身代わりの王女は、王妃回避の策を練る

月山 歩

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7.事故

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 その頃、レオナは王都の外れの治療院を訪問していた。

 さすがバイアット王国で、規模は小さいものの、充分な設備が整っており、このような場所で、いずれサイラスが働くことができたら、素晴らしいと思う。

 治療院の院長が、施設を案内してくれた。

「ここの設備は素晴らしいですね。
 他の地方も同じぐらいの設備が整っているのかしら?」

「はい、レオナ王女様。
 ここは、地方の治療院としては、規模も普通です。

 どこもこのように、一定の治療を受けれるようになっております。」

「そうですか。
 お金がなくて、治療を受けられない人などはどうしていますか?」

「王国が肩代わりして、働けるようになったら、その給金からもらいます。」

「なるほど。
 では、その際に王国の負担も結構あるのですね。

 はい、それは課題として、審議中です。」

「そうですか。
 ありがとうございます。」

「いいえ、レオナ王女様に関心を持っていただけるだけでも、とても嬉しいです。

 医師達も仕事を誇りに思っておりますから。」

「そうですか。

 改善点などあれば、後から王宮にお手紙をください。
 セオドロス陛下に相談します。

 そして、みなさんに応援していますとお伝えしてください。」

「はい、ありがとうございます。」

 私はそう言って、王家の馬車に乗り込むと、ミゲルとネイサンがそれに続き乗り込み、馬車で発つ。

 そして、馬車で少し進むと、土砂崩れによって、道が塞がれ、馬車は進むことができずに止まった。

 ネイサンが馬車を降り、様子を見に行った後、戻って来て、ミゲルに確認する。

「この土砂を除けないと進めないので、手伝いをして来てもいいですか?」

「ああ、頼む。」

 そして、ミゲルと馬車に二人きりになると、地響きが鳴った。

 すると、轟音と共に、土砂崩れが起きて、見る間に止まっている馬車数台を目掛けて、土砂が流れて来た。

 なすすべなく、レオナ達は馬車ごと土砂に飲み込まれ、人々の悲鳴と馬のいななきの中、崖から下へと流されて行く。




 そして、気がついたら、辺りは暗く、川縁に一人倒れていた。

 どうやら、意識を失っていたらしい。

 丸い月が出ていて、もう夜中なのだろう。

 私の身体は、泥まみれながら、擦り傷のみで、それ以外は怪我はない。

 だが、履いていた靴は脱げてしまって、周囲を手探りで探すが、見当たらない。

 何とか立ち上がり、ミゲルを探すが、暗い森の中で、全くわからない。
 周りに人は誰もいないようだ。

「ミゲル、どこなのー?
 返事をしてー。」

 周囲を見渡すが、返事は無く、森は静まりかえっている。

 その時、頭をよぎった。

 今この瞬間に、サイラスの所まで逃げれば、事故で王女は行方不明と言うことにできる。

 すべてを投げ出して逃げるのに、これ以上のチャンスはない。

 私は逃げようと走り出そうとするが、微かに、声が聞こえる。

「助けて…。」

 聞き間違いではない。
 子供の声のようだ。

「どこにいるの?」

「…こっち。」

 私は声の聞こえる方へ近寄ると、体の半分が土砂に埋もれ、足から血を流した少年が動けないでいた。

「お姉さん、助けて。
 痛いよ。」

 私は夢中で、土砂を掻き分け、土の中から、少年を引っ張り出した。

 少年は、ぐったりとしていて、一人で歩くことも困難なようすである。

 大変だ。
 早く治療をしてもらわないと。

「誰かいませんかー?
 ミゲルー、どこにいるのー?」

 そして、周りを再び見回すが、誰もいない。

 本当は、この子をこのまま放置して逃げないといけない。

 せっかくの逃げるチャンスなのだ。

 これを逃せば、サイラスに会えるチャンスはもう巡って来ないだろう。

 でも、この子を一人にできないし、足のケガが大きいから、命の危険もある。

 一瞬悩むが、私は逃げることを諦めた。

 私のこれからよりも、この子の命だ。

 今私がこの子を放って逃げても、一生罪悪感に苛まれ、私は幸せにはなれない。

 私の良心が正しいことをしろと叫ぶ。

 だから、自分のためにも、この子を助けよう。

「私がおんぶして、あなたを助けるわ。
 痛いかもしれないけれど、頑張って。」

「うん、お姉さん、ありがとう。」

「じゃ、後ろ向くから、乗って。」

 私は、少年を背負うと、なんとか崖を登って、元いた道まで戻った。

 それでも、あれから大分時が経ったのか、誰も通りかからない。

 夜中だから、捜索隊は引き上げてしまったのだろうか?

 どのぐらい深刻なのか、よくわからないけれど、少年の傷は大きく、今も血が流れている。 

 朝までここで助けを待っては、いられない。

 とりあえず、私は着ていたドレスの裾を裂き、少年の傷に巻いた。

 傷をどうしたら良いのかわからないけれど、せめて覆った方が良いだろう。

 そして私は、再び少年を背負うと、馬車で来た道を通って治療院まで行こうと、裸足で歩き出した。

 馬車では、それほど遠く感じなかったけれど、少年を背負った私にとって、果てしない道のりだった。

「お姉さん、僕ここで、助けを待つよ。
 お姉さんもう疲れたでしょ。」

 ふらふら歩く私を、少年は気遣って、背中から話しかける。

「大丈夫よ。
 足か痛むのでしょ?
 できるだけ早く、治療院に着いた方が良いわ。

 もう進めなくなったら止まるから、それまでは進もう。」

「うん、ごめんね。」

「いいのよ。
 お姉さんには、弟がいてね、立派なお医者さんになっているはずなの。

 その弟に顔向けができないことをしたくないだけだから。
 君が気にすることはないよ。

 そう言えば、名前を聞いてなかったね。」

「僕は、ナットだよ。
 お母さん、どこにいるんだろう?」

「ついたら、探してあげるわ。」

 「うん、ありがとう。

 僕も将来お姉さんの弟さんみたいにお医者さんになれるかなぁ?
 生きていれるかなぁ?

 僕、自信がないや。」

「諦めたら、ダメよ。
 私がついているから。

 ナットは、ここまで頑張ったんだから、大丈夫よ。」

「僕もう眠たい。
 寝るね。」

 ナットは、背中で寝てしまった。
 それもあって、さらに重く感じる。

 でも、仕方がない。
 ナットは、疲れきっている上に、出血もしている。

 私は、何とかナットの命が間に合うように祈りながら、歩を止めることはなかった。

 やっと、治療院にたどり着いて、医師にナットを託した時、ほっとした私はそのまま意識を失った。
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