嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜

月山 歩

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7.潔白の証拠探し

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「来るのが遅くなって悪かったわ。」

「いいえ、ローサ様。
 忙しい中、来てくださってありがとうございます。」

 静まり返った私の寝室に、太陽のように明るい声が響き渡る。

 公爵夫人であるローサ様は、とてもお忙しい。
 本来ならば、私などの潔白の証拠探しをお願いできる人ではないのだ。

 それでも、こうして足を運び、助けようとしてくださることに、感謝してもしきれない。
 今でも私の潔白を信じてくれるのは、ローサ様だけなのだから。

「それじゃあ、さっそく作戦会議ね。
 どこから手をつけるべきかしら?」

「考えたのですけれど、ホルダー侯爵様が持っていた日記帳こそが、一番の誤解の発端だと思うんです。
 あれさえ無ければ、ここまでの信憑性は生まれなかったはずですから。」

「そうね。
 その証拠を手に入れたいわね。
 そうすれば、その中に隠された矛盾も見えて来るはずだから。

 でも、その日記帳をこちらに渡してくれるなんてことがあるかしら?」

「難しいと思います。
 あれはホルダー侯爵様の私的な日記帳で、私たちに渡すとは到底考えられませんし、そもそも確認するには、彼と直接会って依頼するしかないと思います。

 でも、会ったら最後、何をしてくるかわからない方なので、ローサ様には彼に近づかないで欲しいです。

 それに、会っていることを誰かに知られると、今度はローサ様に変な噂が立つ恐れもありますし。

 もし、そんなことになってしまったら、ギルフォード公爵様が、何をするかわからないです。」

「そうね、私が言うのもなんだけど、あの人は私のこととなると見境がなくなってしまうから、大きな事件になってしまう可能性があるわ。」

 二人はそうなった未来を想像し、お互いやめようと頷いた。

「ですから、方向性を変えて、まずはルヒィナ様に会ってみたいと思っています。」

「ルヒィナさんってホルダー侯爵と離縁した女性よね?
 どうして彼女に?」

「そもそも、ホルダー侯爵様と関係したと言われている期間は、ルヒィナ様のお茶会に招かれている時なんです。

 彼女とは一年くらい前に夜会で知り合って、共通の趣味である刺繍を通じて少しずつ親しくなり、今では仲の良い友人になりました。

 ですが、今回の件で彼女がどう思っているか、伺いたくて。
 きっと、私のことを恨んでいると思います。

 それに、私と一緒になりたいからと、一方的に離縁を告げたホルダー侯爵様のことはどう思っているのかしら?

 だって、私を除けば一番の被害者は彼女だし、彼と私が間違った関係ではないとどうしてもお伝えしたい。
 離縁されて彼女もきっと苦しんでいるはずですから。

 今、彼女がどこにいるのか、何かご存知ではありませんか?」

「全くわからないわ。
 お茶会では、あなたとホルダー侯爵の話は聞くけれど、ルヒィナさんの話は全くと言ってもいいほど聞かないの。

 ではまず、ルヒィナさんを探すところから始めるわね。」

「ありがとうございます。
 よろしくお願いします。」

 一息つくためにお互いにお茶を飲み、落ち着くとローサ様は口を開く。

「ところで、最近、マリウスと夜に会っているそうね?」

「はい、マリウス様は夜になると私を呼び出して、何も話さず、ただワインを一緒に飲んでいます。

 彼の意図はわかりませんが、それでも完全に夫婦の時間が途絶えるより良いかと思いまして。
 それに私は意見を言う立場にないので。」

「ふーん、そうなの?
 だとしたら、マリウスもまだあなたに未練があるのよ。
 そうでなければ、わざわざあなたと時間を共にしようとはしないわ。」

「そうであれば良いのですが、この前、もう私のことを好きかどうかわからないって言われてしまって、愕然としました。

 私がどれだけ不貞は間違いだと立証しても、マリウス様の心がすでに私から離れているなら、それさえも意味をなさなくなってしまう。

 私はただ誤解が解けたら元に戻れると思っていたけれど、大切なのは事実がどうであるかより、彼の気持ちなんだと初めて気がついたんです。

 彼に愛されなくなった私に、どんな意味があるのかと考えると、ただ怖くて。」

「そんなことはないけれど、随分と追い詰められているのね。
 残念だけど、確かにそうした過程で愛が冷めることはありうるわ。

 でも、マリウスの想いは、それよりもはるかに深いと思うの。
 だから、諦めないで。」

 そう話すと、ローサ様は私の両手をとり、じっと目を見つめて信じさせようとしてくれた。

「はい、ありがとうございます。」

 マリウス様と出会ってから、私は彼に愛されて、それがある日を境に無くなってしまうなんてことを、考えたこともなかった。

 けれども、愛はきっかけさえあれば、あっという間に失われてしまう幻のよう。
 ローサ様のように信じてくれないマリウス様を恨みながらも、やはり愛されたいと求めてしまう矛盾した思いが、今も駆け巡る。

 そして、彼に愛されていた日々がどんなに貴重で、心が満たされていたか、今になってひしひしと感じている。

 だから、私は諦めない。
 やはりもう一度あなたに愛されたい。

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