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ジュースの甘さ

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 そう言って笑ってごめんごめんと、何回か僕たちに謝罪した。きっと悪意はないはずだ。その証拠に見せられた財布の中身は、ほんとうにお金が入っていなかった。唯一入っていた小銭は、一円玉が3枚と10円玉が一枚であった。そもそもおごってもらうことなど僕はしていないので、まったく問題はなかったのだが、三浦君はわざわざ財布の中身をご丁寧に見せてくれた。
 その直後、彼女は戻ってきた。それを見て、すかさず彼は彼女の名前を呼んだ。
「はるちゃん!おいでー!!ジュースあるよー!!」
 その声に小走りで駆け寄ってくる姿は、なぜだろうか、小型犬などの小動物を感じさせるものがあった。尻尾をこれでも振るのかとというくらいの勢いでこちらにかけてきた。
「はい、これ!!はるちゃんの好きな桃のジュースにしたんだー。」
 渡されたそのペットボトルを見て、すこし躊躇した様子だった。微妙な間があった。僕は男女が同じ飲み口でのどの渇きを潤すことへの嫌な間だと思った。でも、それは彼女の言葉によって打ち消される間違った、考えだった。予想は外れたのだ。
「今日は、神楽君が飲んでる、炭酸の気分だったのになー。」
 そのつぶやきを聞いていたようで、神楽様は少し考えた後に、そのペットボトル飲料を彼女に渡そうとした。
「あー、こっちがよかったの?いいよ、一口あげるよ?これ、もともと、京二が買ってきた飲み物だし」
「ううん。大丈夫だよ。ありがとう。ちょっと言ってみただけだよー」
 遠慮した彼女のすぐ後ろで、すさまじい殺意の目で神楽様のことをにらみつけていることに、もちろん彼女は気が付いてはなかった。しかし、その目は間接的なキスさえも、それが幼馴染であろうと、絶対に許さないという視線だった。
「はるちゃんはおとなしくこの桃のジュースを飲みなさいねー」
 うん、とうなづいた後に、まだフタが開いていないことに彼女は気が付いた。
「いいの?先に飲んじゃって?」
「あー、これもともと、はるちゃんが飲みたいかなと思って買ってきたやつだから、いいんだよ。好きなだけのんでいいよ。」
 この一連のやり取りを聞いて、神楽様は半分残った炭酸を僕に渡した。
「ごめん。先飲んじゃった…半分のんだから、あとは祐一の分な。」
 なんだか、すごく申し訳なさそうに、そのペットボトルを渡すから、僕は不覚にもいつもと雰囲気の違う神楽様にギャップ萌えを感じた。まあ、どっちかが先に飲んでしまった方が、半分に分けるには効率的だと僕は思うから、神楽様の行動は吉だったと思っているのだが。
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