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襲来
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相変わらずエリザベートは、暇で怠惰な日々を過ごしていた。
一日のうちどこかで夫のジャックと顔を合わせることはあっても、最低限の会話のみで彼はすぐ自室に引きこもるし、しょっちゅう出かけては毎回同じ女物の香水の匂いを漂わせて帰ってきていた。この調子ではきっと、そう遠くない未来に愛人を囲い、その愛人が子を産み正妻として振る舞いはじめるだろう。
そんなことを考えながらうんざりした気分でいると、図ったかのようにドアがノックされる。
「奥様、お客様がお見えです」
仏頂面で馴れ合うつもりもない様子の執事が、そう言って直ぐに退室していった。案内する気もないらしい。ため息をついて、エリザベートは立ち上がり、応接室に向かった。
事前の知らせもなく訪れてくる人物など、1人しかいない。
「ああ、エリザベート。我が愛娘よ」
待ち受けていたのはエリザベートの叔父である、ジュストであった。使用人が誰も付いて来なかったため、エリザベートは仕方なく応接室でジュストと2人きりとなって向き合った。
大袈裟に娘への愛情を示す台詞をのたまう様子は、あまりにも白々しい。何も準備が出来ていなかったエリザベートが、簡素なドレスに、赤いルビーのチョーカーのみの装いをしているのを見た彼はにやりと下卑た笑みを浮かべた。
「結婚生活はどうだ?」
「ええ“良くして”もらっています」
エリザベートは嫌味たっぷりに言った。その場に使用人が居らず、誰にもこの嫌味が伝わらないことが悔やまれる。
「そうか、それは良かったな。ところで、その首のは、夫からの贈り物か?」
「え、ええ……そうですわ……」
嫌なところに目をつけられてしまった。ジュストは本当に目ざとかった。しどろもどろの返事をしていると、ジュストはおもむろに立ち上がる。そして、少しずつこちらに近づいてきて、エリザベートはじりじりと距離を取ろうとした。
「ほう、案外いい関係を築けているようで良かったよ。以前、お前が結婚を破棄しようと考えていると知った時にはどうなるかと思ったが……ね!」
瞬間、ジュストの手が首元に伸びてきて、避ける間もなくぶち、と首の後ろに熱い感覚が走る。痛みで瞑った目を開け、彼の手元を見ると、引きちぎられたチョーカーが握られていた。
「…………!」
慌てて首筋を隠したけれど、それはもう遅かったようだった。
「お前は……!まだあの悪魔と通じているのか!」
首筋の吸血痕を見たジュストは突然大声を出し、エリザベートの胸ぐらを掴んだ。そして、思い切り突き飛ばされる。
「あっ……痛……」
ぶつかって尻もちをついた場所は、大きな壷の置かれた台座だった。バランスを崩した壺はガシャン、と大きな音を立てて落ちてきて、すぐ傍で割れた。頭の上に落ちてこなかったことだけは、幸いだったのかもしれなかった。
「やはり、怪しいと思ったんだ!ジャックの奴はお前と結婚しても余所の女に夢中だから、お前に贈り物などするはずが無いんだ!それに、あいつにそんな宝石を買えるような金はない!……お前はどうしてそうなんだ!不愉快だ!あの糞兄貴そっくりのお前を見ているといらいらする!くそっ……くそ……」
ジュストは狂ったように叫び、こちらに近づいてくる。エリザベートが倒れ伏したまま、逃げようとするとそこかしこに散らばった破片が、手足に刺さり皮膚を突き破る。次第に流れ出す血が、大理石の床に掠れた跡を残していく。
自身から流れる血も厭わず、目の前でチョーカーが踏みにじられる光景をエリザベートは悲痛な面持ちで眺めるしかなかった。
「叔父様、叔父様おやめ下さい……」
涙ながらに訴える。そうしているうちに、とてつもない腹痛に襲われ、エリザベートはがくんと気を失ったのだった。
一日のうちどこかで夫のジャックと顔を合わせることはあっても、最低限の会話のみで彼はすぐ自室に引きこもるし、しょっちゅう出かけては毎回同じ女物の香水の匂いを漂わせて帰ってきていた。この調子ではきっと、そう遠くない未来に愛人を囲い、その愛人が子を産み正妻として振る舞いはじめるだろう。
そんなことを考えながらうんざりした気分でいると、図ったかのようにドアがノックされる。
「奥様、お客様がお見えです」
仏頂面で馴れ合うつもりもない様子の執事が、そう言って直ぐに退室していった。案内する気もないらしい。ため息をついて、エリザベートは立ち上がり、応接室に向かった。
事前の知らせもなく訪れてくる人物など、1人しかいない。
「ああ、エリザベート。我が愛娘よ」
待ち受けていたのはエリザベートの叔父である、ジュストであった。使用人が誰も付いて来なかったため、エリザベートは仕方なく応接室でジュストと2人きりとなって向き合った。
大袈裟に娘への愛情を示す台詞をのたまう様子は、あまりにも白々しい。何も準備が出来ていなかったエリザベートが、簡素なドレスに、赤いルビーのチョーカーのみの装いをしているのを見た彼はにやりと下卑た笑みを浮かべた。
「結婚生活はどうだ?」
「ええ“良くして”もらっています」
エリザベートは嫌味たっぷりに言った。その場に使用人が居らず、誰にもこの嫌味が伝わらないことが悔やまれる。
「そうか、それは良かったな。ところで、その首のは、夫からの贈り物か?」
「え、ええ……そうですわ……」
嫌なところに目をつけられてしまった。ジュストは本当に目ざとかった。しどろもどろの返事をしていると、ジュストはおもむろに立ち上がる。そして、少しずつこちらに近づいてきて、エリザベートはじりじりと距離を取ろうとした。
「ほう、案外いい関係を築けているようで良かったよ。以前、お前が結婚を破棄しようと考えていると知った時にはどうなるかと思ったが……ね!」
瞬間、ジュストの手が首元に伸びてきて、避ける間もなくぶち、と首の後ろに熱い感覚が走る。痛みで瞑った目を開け、彼の手元を見ると、引きちぎられたチョーカーが握られていた。
「…………!」
慌てて首筋を隠したけれど、それはもう遅かったようだった。
「お前は……!まだあの悪魔と通じているのか!」
首筋の吸血痕を見たジュストは突然大声を出し、エリザベートの胸ぐらを掴んだ。そして、思い切り突き飛ばされる。
「あっ……痛……」
ぶつかって尻もちをついた場所は、大きな壷の置かれた台座だった。バランスを崩した壺はガシャン、と大きな音を立てて落ちてきて、すぐ傍で割れた。頭の上に落ちてこなかったことだけは、幸いだったのかもしれなかった。
「やはり、怪しいと思ったんだ!ジャックの奴はお前と結婚しても余所の女に夢中だから、お前に贈り物などするはずが無いんだ!それに、あいつにそんな宝石を買えるような金はない!……お前はどうしてそうなんだ!不愉快だ!あの糞兄貴そっくりのお前を見ているといらいらする!くそっ……くそ……」
ジュストは狂ったように叫び、こちらに近づいてくる。エリザベートが倒れ伏したまま、逃げようとするとそこかしこに散らばった破片が、手足に刺さり皮膚を突き破る。次第に流れ出す血が、大理石の床に掠れた跡を残していく。
自身から流れる血も厭わず、目の前でチョーカーが踏みにじられる光景をエリザベートは悲痛な面持ちで眺めるしかなかった。
「叔父様、叔父様おやめ下さい……」
涙ながらに訴える。そうしているうちに、とてつもない腹痛に襲われ、エリザベートはがくんと気を失ったのだった。
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