リオの偽筆と真っ赤な真実

谷 亜里砂

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第14話:初頭村の場所

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 しばらくそうしてじりじりと焦げ付いていると、リオ宛てに一通の手紙が届いた。



 差出人はなく、やたらと分厚い。処刑場への案内かもしれない。意を決して開けると、広い部屋いっぱいになるほどの地図が折りたたまれていた。ここより山脈という山脈を越えた先の山中に丸がされて、『初頭村』と書かれている。



「カトラ、カトラ!」



 リオはすっかり興奮して、気まずい思いも忘れてカトラを呼んだ。リオの話など聞きたくなさそうに顔をしかめていたカトラも、地図を見ると叫んだ。



「すごい! でもこれ、誰が?」



「わかんない!」



 カトラは捨て置かれた封筒を拾い、じっと見入って言った。



「大きな神さんのところからだ」



「なんでわかるの?」



「この封筒、ここに金の線が入ってるでしょ? 大きな神さんの、零の位様しか使えない、特注の紙でできてる……」



 リオは言葉に詰まった。それから、やっと言った。



「どういうこと?」



 鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪。



 十二の神はそれぞれ、一から百八までの位の巫女を抱えている。その十二の神を統べる大神は、たった一人の巫女だけを愛する。それが零の位様だ。



 その彼女から、リオだけに呼び出しがかかった。とにかく礼を言わなければ。どんな言葉を選べば、この気持ちが伝わるだろうか。



 場所がわかったことで、国からの使いが初頭村へ行っているはずだ。彼らはリオの家族や、村に財産を与え、富を約束しているだろう。リオは今や、兎の神様に仕える三の位様の側付きだ。



 リオはそのことで夢見心地だった。彼らはもう、トウモロコシの汁をごちそう扱いするのをやめて、モグラのそれよりマシな正月を迎えられる。七十になろうが九十になろうが、旅に出る必要もない。



 ウトは褒めてくれるだろうか。千匹の『おかし魚』よりも役に立つ富が、初頭村に降ってくる。



 零の位様の屋敷の門には、柱という柱に彫刻が施されていた。



 目を凝らしてよく見ると、それは天に昇る龍であり、跳ねる兎であり、吠える虎であり、とぐろを巻く蛇だった。十二の干支すべてが生き生きと躍動し、そしてその中心にあるのは、万物を照らす太陽だ。それらは単なる装飾ではなく、この場所が世俗とは切り離された神域であることを、無言のうちに示していた。



 門をくぐった瞬間、むっとするような濃厚な空気に全身が包まれた。肌着が一瞬にして湿り気を帯び、リオは少し汗ばむのを感じた。



 火鉢をいくつ並べたところで、屋外の空気まで暖めることはできない。しかしこの場所は、晴れた春のような陽気だ。これが、大神様が零の位様に与える加護の一つなのか。



 屋敷の中には、何人もの側付きが音もなく控えていた。光る貝をあしらった戸は、陽光を受けて虹色に輝き、まるで別世界の入口のようだ。



 いまだかつて足を踏み入れたことのない、宮の最奥にある零の位の屋敷だ。緊張で体を強張らせたリオは、案内された広間の入口で平伏した。畳の縁の模様さえ、見たこともない高貴な紋様だ。視線をどこにやっていいのかもわからず、ただ自分の手の甲を見つめるしかない。



 御簾の向こうから、鈴を転がすような、水琴窟の響きのように涼やかな声が届いた。



「面を上げなさい、古巣リオ」



 おそるおそる顔を上げる。さらさらと御簾が巻き上げられた。



 そこにいたのは、国の巫女の頂点というには若く、可愛らしい人だった。金糸銀糸があしらわれた分厚い座布団の上で、少女のようににこにこしている。桃色の頭巾をして、目尻の下がった優しい垂れ目に、白い肌は陶器のようだ。



「兎の石像を割ったそうねえ」



 世間話でもするような、のんびりした言い方だったが、リオの心臓は跳ね上がった。



 反射的に再び額を畳に擦り付ける。顔から火が出るような恥ずかしさと恐ろしさが、あの乾いた破砕音、二の位の悲鳴、カトラの絶望した顔をありありと呼び起こす。



「申し訳ございません! あれは、その……わざとではなく、ただ必死に……」



「ふふ、よいのです。おかげでわかったのですから。ねえ、顔を上げてちょうだい。お話ししたくて呼んだのよ?」



 咎める響きのない、むしろ楽しげな声色だ。リオは呆気にとられた。



「あの事件があったから、あなたが必死で村の場所を探しているとわかったの。あの硬い石像を内側から割るほどの願い。それはよほどの執念か、あるいは純粋な想いか。それで、わたくし、大神様に聞いてみたのよ」



 リオは言葉を失った。大神様といえば、十二の神々を統べる神、この国の頂点に立つ存在だ。そんな雲の上の、伝説の中にしかいないような存在に、自分の村のことを? ただの雑草のような貧しい村のことを?



 時が止まったようだった。



 リオの目から、堰を切ったように涙が溢れた。畳を汚すわけにはいかないが、どうにも止められない。



 役所にも相手にされず、地図のどこにも載っておらず、カトラと二人でどれだけ探しても見つからなかった故郷だった。存在さえ疑われ、夢物語だと笑われたあの場所が、目の前の女性のおかげで、確かな輪郭を持って見つけ出された。



「ありがとうございました! あの、ありがとうございます! ずっと探していて、初頭村にはお腹を空かせた弟たちがいて……これも全て、零の位様のおかげです!」



 衣擦れの音が近づいてくる。零の位が立ち上がり、足を引きずるような独特の歩調でリオに近づく気配がした。不自由な足取りだが、そこには奇妙な舞のような優雅さがあった。



「お礼なんていいのよ」



 ふわりと漂うのは、濃厚で甘い花の香りだ。



「ねえ、リオ。わたくしとお友だちになってくださらない?」



 彼女はリオの手を取り、優しく微笑んだ。



「ええ。あなたの書いた『貧乏村物語』、とても面白いわ。貧しさの中にある輝き、泥の中の蓮のような美しさ。わたくしのためにも、あんな素敵な物語を紡いでほしいの」



 リオの書いた初頭村の物語は、今や『貧乏村物語』として名前を得ていた。家族を見つけてくれた大恩人が、自分の唯一の取り柄である、物語を書くことまで認めてくれている。自分のような者の落書きを、国の頂点にいる巫女が求めてくれている。



「もちろんです! 私でよろしければ、なんでも書かせていただきます!」



 忙しさは以前の比ではなくなった。二の位となったカトラの身の回りの世話に加え、零の位様の屋敷へも頻繁に足を運ぶことになったからだ。睡眠時間を削るしかなかった。それでも、リオは生き生きと輝いていた。



 初頭村を見つけてもらえた。三の位に就いたカトラでさえできなかったことを、零の位様は簡単にやってのけた。その彼女が、自分の書いたものを読みたがっている。



 とても恩に見合うとは思えないが、精一杯やろう。冷たい廊下も、目の下のクマも、すべては輝かしい修行の一部のようだ。
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