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はじめまして
しおりを挟むユウフェは、ついに〝本編の勇者パーティー〟と顔を合わせる時が来たことに、落ち着かない息を吐いた。
ヨークシティから戻ったばかりではあるが、勇者が「正式に仲間へ挨拶させたい」と言ってくれたためだ。
胸の奥がそわそわと熱くなる。
物語の読者だった自分が、今から小説の主要キャラたちと対面する──そんな現実味のない事態に、足取りが自然と軽くなる。
勇者一行のメンバーは主に、勇者、巫女、弓使い、魔法使いの計4人だ。
物語の正ヒロインはそのうち──伝承の巫女、マユラ。
♢♢♢
勇者の邸宅にパーティーメンバーが集まって数時間が経った。
初めこそ王から下賜された屋敷に興味津々だったが、勇者の帰りを待つうちに、ロイドはソファーで横になり、オルフェは窓辺で外を眺めながら弓の手入れをしていた。
「勇者がこんな立派な屋敷を持つなんてね。……まぁ本人は落ち着かないって言ってたけど」
弓使いが苦笑混じりに呟く。
「だろうね。レイはこういう場所、好きじゃなさそうだし」
魔法使いは眠そうに目元をこすりながら答えた。
ゆったりとした空気が流れていたその時――
部屋の扉がカチャリと開き、勇者が入ってきた。
「お、帰ってきたね」
「……ロイド、寝てただろ」
「ちょっとだけだよ」
勇者は軽くため息をつきつつ、横に立つ少女へ視線を向ける。
「皆に紹介したくてさ。彼女は――」
「ユウフェ・ヴィクレシアと申します!」
勇者より前に出たユウフェが、少し前のめりで挨拶した。
緊張のせいか、声が勢いよく響く。
オルフェが柔らかく微笑んだ。
「こんにちは、公女様。初対面なのに、ずっと前から知っていたみたいな挨拶だね」
「もちろんです!皆様のことは――えっと、まず貴方が弓使いのオルフェ様。そしてこちらが魔法使いのロイド様。そして……」
ユウフェの視線が巫女の少女で止まる。
赤毛に金色の瞳。両サイドの髪を組紐で結い、後ろ髪は軽いボブ。
巫女衣装は原作イラストそのまま、二次元的に可愛くアレンジされた姿──ユウフェが知る“正ヒロインそのまま”だった。
「貴方が、伝承の巫女ーーマユラ様ですね?」
紹介されたマユラは少し驚いたように瞬きをしたが、礼儀正しく会釈した。
「ええ、はじめまして…公女様は私をご存知なのですか?」
紹介されたマユラは少し驚いたように瞬きをしたが、礼儀正しく会釈した。
「当然です!勇者様のパーティーメンバーですから!」
「と、当然……なんだ」
オルフェが小さく笑い、ロイドは「貴族ってそういうものなのかな」とぼそりと呟いた。
ユウフェとマユラはすぐに会話を弾ませ始めた。
マユラも最初こそ敬語だったが、ユウフェの距離感に引っ張られ、いつの間にか砕けた口調になっていた。
その様子を少し離れたところで見ながら、勇者は言いようのない感覚に襲われていた。
(……仲が良くなるのは嬉しいけど。なんだろう、この感じ)
言葉にできないモヤのようなものが胸の奥で揺れる。
オルフェはそんな勇者の様子に気付くことはなく、勇者の肩に腕を回して言った。
「おいレイ、俺達は俺達で話そう」
ロイドも珍しく興味を示している。
「そうそう。公女様のこと、いろいろ聞きたい」
「おまえらなぁ…」
勇者は観念したように苦笑した。
♢♢♢
各々自己紹介を終え、使用人が長机にティーカップを並べてゆく。
ユウフェがそれを口に含み、ほっと息をついて微笑んだ瞬間――「くしゅん!」と大きなくしゃみをした。
夕方になり、僅かに開いた窓から入ってきた涼しい風が、ユウフェの鼻をくすぐったらしい。
思いがけず盛大にくしゃみが出てしまい、憧れの勇者一行の前ということもあり、羞恥心で顔が一気に熱くなる。
「すみません、私としたことが、人前で……」
両手で顔を覆って赤面するユウフェを見て、勇者は窓を閉め、自分の上着をそっと肩にかけてやった。自然とその目線に合わせるように身をかがめながら。
「外出して疲れてない?
こいつらは突然来ただけだし、無理にもてなさなくていいんだよ。
俺も行くから、部屋で休んでこよう」
「おいおい。俺達だって好きで押しかけたわけじゃないぞー」
オルフェが苦笑すると、ロイドがぽつりと呟く。
「勇者って……こんな気遣いできるんだ」
それにマユラが、ぴくりと反応した。
(――私が旅先で風邪を引いた時は、看病をオルフェに任せきりだったのに)
勇者は、ときおり「大丈夫?」と聞く程度だった。
思い出すほどに、胸の奥がじわりと熱くなる。
マユラは小さく、きゅっと唇を結んだ。
「ご心配おかけしてすみません! 勇者様はお仲間さん達とお話ししててください!!」
両手で顔を覆ったまま、ユウフェは脱兎のごとく部屋の外へ駆け出していく。
「ユウフェ!」
追いかけようとした勇者の腕を、オルフェが掴んだ。
「だからー、俺達だって好きで押しかけたわけじゃないの。おまえに話があるのに、いないと進まないだろ」
「じゃあ、せめて部屋まで見届けて――」
「――とんだ過保護だな」
ロイドが呆れ混じりに言うと、勇者は本気で悩んでいる様子で続ける。
「俺が長く連れ回したから、体調崩したのかもしれない。
俺達と体力が違うのに……楽しくて、無理させたのかも」
「くしゃみ一つでそこまで心配するか?」
「俺達のくしゃみと違うんだよ! ユウフェは人前でくしゃみなんてしないんだ!」
「あー、貴族の令嬢はそうだよね。でも邸宅内だし、使用人もいるから大丈夫大丈夫。話進めるぞー」
そのやりとりを見ていたマユラの胸のあたりに、
ふと、ひそかな疼きが走った。
(……あれ? どうしたんだろ、私)
理由がわからず、目を伏せる。
気づけば、呼吸が少しだけ浅くなっていた。
「ん? マユラ、顔色悪くない?
どっか痛むの?」
ロイドが覗き込む。
「えっ……あ、ううん。なんでもないの」
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