【完結】消滅した悪役令嬢

マロン株式

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第2章

ミミルside④火炙りの刑とはじまり


 


 

 気が付けば、私は見覚えのない豪奢な天幕の下にいた。

 黒々とした煙、火の魔法でより激しく燃え盛る業火に包まれていた筈なのに、うってかわり静寂の中柔らかな布団の上に横たわっていた。

 随分頑丈な私の身体は、普段からちょっとした怪我の痛みはないし、すぐになおる。

 だけど、あの時はその頑丈な身体が災いした。

 普通の人ならまず煙で窒息して死に絶えそうな中でも、私は意識を手放せず、なのに鼻でも口でも息を吸えない絶望と喉や肌の焼ける激痛が永遠に続くのではないかという恐怖を今でもはっきり思い出せる。

 私を悪魔だと言って石を投げた彼等の方が、よほど悪魔だ。


 …それにしても、ここは何処はどこ?


「ーーどうして私、ここに居るんだろう…」




 全身焼けただれているのではないかと心配をした。

 恐る恐る手をかざしてみたけれど、もとの滑らかで美しい肌に戻っている。
 
 まさかと思いながらも、ゆっくりと半身を起こして、目の前に置かれた鏡台が自分の姿を写すと、焼けた痕跡はない。

 本当に、業火に焼かれたのだろうかと思うほどだった。


「目が覚めたか」
「あなたは…」


 かけられた声のもとを辿ると、いつの間に扉を開け閉めしたのかわからないけど、閉ざされた扉の内側に、見覚えのある人が立っていた。

 セレイア王国で一度対面した私の実父、トラビア王国の好色王と呼ばれる方だ。

 
「間一髪というものかな?息絶える前に、そなたをここへ召喚出来て良かった」
「私を…?じゃあここはトラビア王国?」 


 
「いやーー ここはルア王国だ」


 ルア王国というと…確か乙女ゲームの第2シーズンの舞台だ。

 
 
「どうも、余とそなたを貶めようとする者がいるようでな。
ここに身を隠しているんだ。だからそなたに奴らをこらしめるため協力して欲しいのだが」

「やっぱり!変だと思ったの、そんな悪い奴らがいるなんて」

「さぞ理不尽だと思っただろう。可哀想な我が娘よ」



 そう言って王が私を抱きすくめる。

 あんなに恐ろしい目にあわせた人達を、絶対に赦すことなどできない。

 私を蔑み、痛めつけて焼き殺そうだなんて、私は何も悪くーー


『私の娘をこの手で死に追いつめることに加担させるとは』

 
 ふと、記憶の中でそう言って私を見下ろし淡々と恨み言を述べるアルレシス公爵の眼を思い返すだけでも、背筋がゾワりとした。

 
 そして、最後は牢屋に囚われの身になった私を助けに来てくれると信じていたバンリ殿下でさえも、最後まで現れなかったときの絶望感。

 
 断罪時に見せたあの私を蔑む表情は、夢ではなかったのだと実感せざるをえず、これはゲームではなく現実なのだとより鮮明に悟らざるを得なかった。



「さぞ、あの連中を赦せないだろうな」


 考えごとをしていたので、返事をするのが遅れてしまった。

 私がされたことは、とても酷いことであることに変わりはない。

 その仕打ちを赦せるかと聞かれたら間違えなく答えは決まっている。
 


「え…えぇ。勿論、赦せないわ」



 抱きしめられた腕の服を掴んだ拳に、自然と力がはいる。

 
「よく言った、流石我が娘だ。誇りに思うぞ!

やられたらやり返すのが余の流儀だ。
そなたにも力を貸してもらいたい」

 そんな私に気分を良くした王から、朗らかな声が降り注いだ。
 
「やりかえす?」
「やられたらやり返す。至極当たり前のことだな」

 ニコニコ語りかけてくるので、軽い気持ちになるけれど、本当にそんなこと出来るのだろうか。

 私はセレイア王国の民達から受けたこの仕打ちを、やり返すことが。

「でも……、どうやったらそんなことが出来るのかわからないわ」

 
「ははは。

そんなこと余とそなたが組めば容易いことよ。セレイア王国と戦争して勝てば良いんだ」


 
 
「ーー戦争?そんなの、どうやってするのかもわからないわ」



 身を離して戸惑いを浮かべた表情をして見上げると、好色王は軽い口調で説明してくれた。


「ルア王国の王妃となれば、この国の国民はそなたの所有物だ。
諸外国から見ても違和感もなく自然な流れで戦争へ行けと国民に命じやすいだろう」

「へぇ…それで、戦争に勝つとなにができるの?」

「勝てばセレイア王国を属国にし、民を奴隷にでも何にでもすれば良い」
「セレイア王国の民を全て、私の奴隷に?そんなこと本当にできるのかしら…」



 確か、この国の奴隷には奴隷紋が刻まれて、所有者はどのようにでも奴隷を扱える。

 私と同じく業火で焼き殺そうが、その他の方法で痛めつけようが、奴隷は物であるから所有者の自由なのだ。


 確かに、説明されたとおりそんなことが本当に出来るのなら、セレイア王国の民一人一人顔を見ながら私がされたことの復讐をしたい。  

 対象人数が多いから難しいと思っていたけれど、それなら何年もかけて少しずつ私の気の向くままにじっくりと復讐を叶えていけそうだ。
 
 ただ本音を言えば、悪役令嬢の役割を果たさずに死んだせいだと思っているので、私の人生を狂わせたリディアへ1番復讐をしたいところだけどーー

 彼女は既に死人だから、こればかりは何かしようもなさそうだ。

 かわりにもならないけど…せめて、アルレシス公爵や私に石を投げつけた子供を含めたセレイア王国に住む民達を、全員私以上に苦しめてやらなくちゃ気がすまない。


 勿論ーー王太子であるバンリもだ。

 私は彼を信じていた。

 なんだかんだで最後には私の味方であると信じていた。
 セレイア王国の学園では私を常に気にかけ、親切にしてくれたし、いつもリディアよりも優先してくれたのは知っている。

 それなのに突然、バグなのかなんなのかわからないけど、私を悪だと断罪し始めた。

 前世では推しとして彼のルートをすべてやり込むため、必要アイテムに沢山課金もした。

 間違いなく、誰よりも私がこの世で1番彼をしりつくし愛していたし、愛されたはずだ。


 ーーだというのに、最後まで彼は目を覚ますこともなく、私を助けにこなかった。

 それにどれほど私の心が傷ついたのか、彼にわからせないと気がすまない。

 彼を私の奴隷に出来るというのなら、ずっと手元において私が受けた屈辱を味合わせてやることができる。
 
 トラビア王国の好色王は、確か一代で大国にしたほどに、戦さ上手なはずだ。

 そんな王様が私の味方なら、絶対セレイア王国に勝てる。

 それに、私はまた一国の王妃になれるチャンスを手にしたというのだ。


 セレイア王国では変な方向に話が進んでしまったけれど。

 この男が導いてくれるなら、今度こそ上手くいくはずだ。

 だって私、本当は大国の王女なのだもの。

 セレイア王国よりもルア王国は力のない小国だ。
 
 毎年民の一部をトラビア王国に献上している国からしてみれば、大国の王女である私と王族との婚姻は幸運である。(今はまだ伏せられてるけど…)

 最後には大国の後ろ盾を得ることが出来るのだから、Win-Winというやつだーー




 希望を見出して高揚するミミルの表情を見て、この提案にかなり乗り気であることを察した好色王は述べた。



「だがまず、そなたは己の力をきちんと自覚し、扱えるようにならなければな」

「私の力?」

「1度魅了を解かれた者には2度と魅了はきかぬ。

ーーつまりセレイア王国では、そなたの力はもはや無力も同じだ。
だからこそ、また同じことになっては面倒で困る」




 そう言って、私の実父はーー好色王は、微笑んだ。


 
「余がそなたの復讐に協力しよう。

なーに。教える通りにやれば、何の心配もない」



 


♢♢♢





 

 あれから、幾つ月も経ち、私は好色王のつてでルア王国の平民の子供として、ルア王国の学校に編入をした。



 その間、好色王から色々と事情を聞いたところ、彼は狡猾な誰かに命を狙われていて、それが誰なのかはっきりするまではルア王国に身を潜めなければならず、表立って動けないそうだ。


 だからトラビア王国の王女としては編入出来なかった。
 
 このゲームは第1も第2も成り上がりストーリーだったので、予想の範囲内だけれど、王女ならば早い話なのにと残念である。

 しかし、こればかりは私にはどうしようもない。
 バッドエンドを迎えてしまったゲームを1からやり直せるのだからと、その辺りはすぐ諦めもついた。

 
 
 そんな私が学園へ通い始めて初めて話しかけたのは、第2シーズンの悪役令嬢の腹違いの弟、ロイ・ナイアス。

 
 彼は現在司祭をしているが前は侯爵家の後継者だった。

 ルア王国は男子しか家系を継げない。

 故に侯爵家の正妻が産んだローズマリアは女なので、跡取りにはなり得ず、そんな侯爵家に、婚外子のロイは跡取りとして引き取られた。



 しかしーーそこでロイは腹違いの姉であるローズマリア侯爵令嬢に虐められる日々がはじまる。

 理由は彼自身魔力は少なく、しかも婚外子であるからだ。

 実力も血筋の正当性も全てがローズマリアに劣っているのに後継者として連れてこられた彼を、ローズマリアはとても疎んだ。

 男であれば、膨大な魔力を保持し資質を持つローズマリアが跡取りになれたはずなのは明白。

 女故に、王太子の婚約者となり将来王家に嫁ぐことになり、まだ幼く勝気な彼女には耐え難い現実だった。

 …これは余談だけれど、好色王曰くこの国が弱い大元の原因は、魔力よりも性別なんかに拘ってるせいで弱いと言っていたけれどそれは置いておきましょう。

 ーー要するに、ローズマリアはロイの存在が気に食わなかったのだ。

 だが結局、ロイが侯爵家に引き取られてからほどなくして正妻に男児が誕生してしまい、彼はお払い箱になる。

 その後ロイは侯爵夫人やローズマリアから身を守るため、侯爵家を出て司祭となり、教会に住むようになるが、一応侯爵家のスペアとも言える存在でもあるので学校へ通うことを義務付けられている。

 彼は魔力も少ないし、侯爵家の本物の跡取りではないので、わかるかもしれないがーー

 ロイは攻略対象者ではない。

 だけどーー彼の経歴を知っているだけで、私が魅了などつかわずとも、私の味方をしてくれるという確信が抱けた。


 きっと、悪役令嬢ローズマリアを不幸に出来るなら、彼は幾らでも協力してくれる。



 私達は悪役令嬢に嫌な思いをさせられた同士、心強い仲間になれる。






 そうーー魅了なんて力を使わなくても。






 だからこそ、私はとびっきりの笑顔を浮かべ、1番初めに彼へ声をかけた。
 





「はじめまして、私はミミル。よろしくね」

  












 



 
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