31 / 67
第2章
ミミルside④火炙りの刑とはじまり
気が付けば、私は見覚えのない豪奢な天幕の下にいた。
黒々とした煙、火の魔法でより激しく燃え盛る業火に包まれていた筈なのに、うってかわり静寂の中柔らかな布団の上に横たわっていた。
随分頑丈な私の身体は、普段からちょっとした怪我の痛みはないし、すぐになおる。
だけど、あの時はその頑丈な身体が災いした。
普通の人ならまず煙で窒息して死に絶えそうな中でも、私は意識を手放せず、なのに鼻でも口でも息を吸えない絶望と喉や肌の焼ける激痛が永遠に続くのではないかという恐怖を今でもはっきり思い出せる。
私を悪魔だと言って石を投げた彼等の方が、よほど悪魔だ。
…それにしても、ここは何処はどこ?
「ーーどうして私、ここに居るんだろう…」
全身焼けただれているのではないかと心配をした。
恐る恐る手をかざしてみたけれど、もとの滑らかで美しい肌に戻っている。
まさかと思いながらも、ゆっくりと半身を起こして、目の前に置かれた鏡台が自分の姿を写すと、焼けた痕跡はない。
本当に、業火に焼かれたのだろうかと思うほどだった。
「目が覚めたか」
「あなたは…」
かけられた声のもとを辿ると、いつの間に扉を開け閉めしたのかわからないけど、閉ざされた扉の内側に、見覚えのある人が立っていた。
セレイア王国で一度対面した私の実父、トラビア王国の好色王と呼ばれる方だ。
「間一髪というものかな?息絶える前に、そなたをここへ召喚出来て良かった」
「私を…?じゃあここはトラビア王国?」
「いやーー ここはルア王国だ」
ルア王国というと…確か乙女ゲームの第2シーズンの舞台だ。
「どうも、余とそなたを貶めようとする者がいるようでな。
ここに身を隠しているんだ。だからそなたに奴らをこらしめるため協力して欲しいのだが」
「やっぱり!変だと思ったの、そんな悪い奴らがいるなんて」
「さぞ理不尽だと思っただろう。可哀想な我が娘よ」
そう言って王が私を抱きすくめる。
あんなに恐ろしい目にあわせた人達を、絶対に赦すことなどできない。
私を蔑み、痛めつけて焼き殺そうだなんて、私は何も悪くーー
『私の娘をこの手で死に追いつめることに加担させるとは』
ふと、記憶の中でそう言って私を見下ろし淡々と恨み言を述べるアルレシス公爵の眼を思い返すだけでも、背筋がゾワりとした。
そして、最後は牢屋に囚われの身になった私を助けに来てくれると信じていたバンリ殿下でさえも、最後まで現れなかったときの絶望感。
断罪時に見せたあの私を蔑む表情は、夢ではなかったのだと実感せざるをえず、これはゲームではなく現実なのだとより鮮明に悟らざるを得なかった。
「さぞ、あの連中を赦せないだろうな」
考えごとをしていたので、返事をするのが遅れてしまった。
私がされたことは、とても酷いことであることに変わりはない。
その仕打ちを赦せるかと聞かれたら間違えなく答えは決まっている。
「え…えぇ。勿論、赦せないわ」
抱きしめられた腕の服を掴んだ拳に、自然と力がはいる。
「よく言った、流石我が娘だ。誇りに思うぞ!
やられたらやり返すのが余の流儀だ。
そなたにも力を貸してもらいたい」
そんな私に気分を良くした王から、朗らかな声が降り注いだ。
「やりかえす?」
「やられたらやり返す。至極当たり前のことだな」
ニコニコ語りかけてくるので、軽い気持ちになるけれど、本当にそんなこと出来るのだろうか。
私はセレイア王国の民達から受けたこの仕打ちを、やり返すことが。
「でも……、どうやったらそんなことが出来るのかわからないわ」
「ははは。
そんなこと余とそなたが組めば容易いことよ。セレイア王国と戦争して勝てば良いんだ」
「ーー戦争?そんなの、どうやってするのかもわからないわ」
身を離して戸惑いを浮かべた表情をして見上げると、好色王は軽い口調で説明してくれた。
「ルア王国の王妃となれば、この国の国民はそなたの所有物だ。
諸外国から見ても違和感もなく自然な流れで戦争へ行けと国民に命じやすいだろう」
「へぇ…それで、戦争に勝つとなにができるの?」
「勝てばセレイア王国を属国にし、民を奴隷にでも何にでもすれば良い」
「セレイア王国の民を全て、私の奴隷に?そんなこと本当にできるのかしら…」
確か、この国の奴隷には奴隷紋が刻まれて、所有者はどのようにでも奴隷を扱える。
私と同じく業火で焼き殺そうが、その他の方法で痛めつけようが、奴隷は物であるから所有者の自由なのだ。
確かに、説明されたとおりそんなことが本当に出来るのなら、セレイア王国の民一人一人顔を見ながら私がされたことの復讐をしたい。
対象人数が多いから難しいと思っていたけれど、それなら何年もかけて少しずつ私の気の向くままにじっくりと復讐を叶えていけそうだ。
ただ本音を言えば、悪役令嬢の役割を果たさずに死んだせいだと思っているので、私の人生を狂わせたリディアへ1番復讐をしたいところだけどーー
彼女は既に死人だから、こればかりは何かしようもなさそうだ。
かわりにもならないけど…せめて、アルレシス公爵や私に石を投げつけた子供を含めたセレイア王国に住む民達を、全員私以上に苦しめてやらなくちゃ気がすまない。
勿論ーー王太子であるバンリもだ。
私は彼を信じていた。
なんだかんだで最後には私の味方であると信じていた。
セレイア王国の学園では私を常に気にかけ、親切にしてくれたし、いつもリディアよりも優先してくれたのは知っている。
それなのに突然、バグなのかなんなのかわからないけど、私を悪だと断罪し始めた。
前世では推しとして彼のルートをすべてやり込むため、必要アイテムに沢山課金もした。
間違いなく、誰よりも私がこの世で1番彼をしりつくし愛していたし、愛されたはずだ。
ーーだというのに、最後まで彼は目を覚ますこともなく、私を助けにこなかった。
それにどれほど私の心が傷ついたのか、彼にわからせないと気がすまない。
彼を私の奴隷に出来るというのなら、ずっと手元において私が受けた屈辱を味合わせてやることができる。
トラビア王国の好色王は、確か一代で大国にしたほどに、戦さ上手なはずだ。
そんな王様が私の味方なら、絶対セレイア王国に勝てる。
それに、私はまた一国の王妃になれるチャンスを手にしたというのだ。
セレイア王国では変な方向に話が進んでしまったけれど。
この男が導いてくれるなら、今度こそ上手くいくはずだ。
だって私、本当は大国の王女なのだもの。
セレイア王国よりもルア王国は力のない小国だ。
毎年民の一部をトラビア王国に献上している国からしてみれば、大国の王女である私と王族との婚姻は幸運である。(今はまだ伏せられてるけど…)
最後には大国の後ろ盾を得ることが出来るのだから、Win-Winというやつだーー
希望を見出して高揚するミミルの表情を見て、この提案にかなり乗り気であることを察した好色王は述べた。
「だがまず、そなたは己の力をきちんと自覚し、扱えるようにならなければな」
「私の力?」
「1度魅了を解かれた者には2度と魅了はきかぬ。
ーーつまりセレイア王国では、そなたの力はもはや無力も同じだ。
だからこそ、また同じことになっては面倒で困る」
そう言って、私の実父はーー好色王は、微笑んだ。
「余がそなたの復讐に協力しよう。
なーに。教える通りにやれば、何の心配もない」
♢♢♢
あれから、幾つ月も経ち、私は好色王のつてでルア王国の平民の子供として、ルア王国の学校に編入をした。
その間、好色王から色々と事情を聞いたところ、彼は狡猾な誰かに命を狙われていて、それが誰なのかはっきりするまではルア王国に身を潜めなければならず、表立って動けないそうだ。
だからトラビア王国の王女としては編入出来なかった。
このゲームは第1も第2も成り上がりストーリーだったので、予想の範囲内だけれど、王女ならば早い話なのにと残念である。
しかし、こればかりは私にはどうしようもない。
バッドエンドを迎えてしまったゲームを1からやり直せるのだからと、その辺りはすぐ諦めもついた。
そんな私が学園へ通い始めて初めて話しかけたのは、第2シーズンの悪役令嬢の腹違いの弟、ロイ・ナイアス。
彼は現在司祭をしているが前は侯爵家の後継者だった。
ルア王国は男子しか家系を継げない。
故に侯爵家の正妻が産んだローズマリアは女なので、跡取りにはなり得ず、そんな侯爵家に、婚外子のロイは跡取りとして引き取られた。
しかしーーそこでロイは腹違いの姉であるローズマリア侯爵令嬢に虐められる日々がはじまる。
理由は彼自身魔力は少なく、しかも婚外子であるからだ。
実力も血筋の正当性も全てがローズマリアに劣っているのに後継者として連れてこられた彼を、ローズマリアはとても疎んだ。
男であれば、膨大な魔力を保持し資質を持つローズマリアが跡取りになれたはずなのは明白。
女故に、王太子の婚約者となり将来王家に嫁ぐことになり、まだ幼く勝気な彼女には耐え難い現実だった。
…これは余談だけれど、好色王曰くこの国が弱い大元の原因は、魔力よりも性別なんかに拘ってるせいで弱いと言っていたけれどそれは置いておきましょう。
ーー要するに、ローズマリアはロイの存在が気に食わなかったのだ。
だが結局、ロイが侯爵家に引き取られてからほどなくして正妻に男児が誕生してしまい、彼はお払い箱になる。
その後ロイは侯爵夫人やローズマリアから身を守るため、侯爵家を出て司祭となり、教会に住むようになるが、一応侯爵家のスペアとも言える存在でもあるので学校へ通うことを義務付けられている。
彼は魔力も少ないし、侯爵家の本物の跡取りではないので、わかるかもしれないがーー
ロイは攻略対象者ではない。
だけどーー彼の経歴を知っているだけで、私が魅了などつかわずとも、私の味方をしてくれるという確信が抱けた。
きっと、悪役令嬢ローズマリアを不幸に出来るなら、彼は幾らでも協力してくれる。
私達は悪役令嬢に嫌な思いをさせられた同士、心強い仲間になれる。
そうーー魅了なんて力を使わなくても。
だからこそ、私はとびっきりの笑顔を浮かべ、1番初めに彼へ声をかけた。
「はじめまして、私はミミル。よろしくね」
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」