【完結】消滅した悪役令嬢

マロン株式

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第2章

ミミルの記憶 ミミルside

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 前世の私は、瑠奈川 美々流 普通より綺麗な女子高生だった。

 自分で言うのも何だけれど、私のことを誰もが可愛いと褒め称えるくらいにはその美貌に自信があった。

 だからモテたし、友達に事欠くこともなくて、自分の思い通りにならないことなど何一つない日々が続いていたのだけれどーー


 高校に上がって狙っていた男子生徒が、私よりも冴えない女の子に鞍替えした。
 理由を聞くと。


「君は、思っていたのと違ったから…」


 そう言われた。

 私は彼のことが大好きだったのに、それじゃあ満足出来ないって、どう言うこと?
 誰もが私からの愛を求めているのに。

 私から振ることはあっても、振られるのは初めての経験で、屈辱だった。

 相手の女とはまだ付き合ってなかったみたいだから、付き合われる前に何とかしようと思い、彼女を学校に来れなくすれば良いと考えた。


 交友関係の広かった私は彼女の悪評を広めた。彼女に後ろめたいことは無いようだったので全部嘘だけれど、こう言うのは言ったもの勝ちである。

 くだらない噂を流しただけで、人は簡単に孤立する。

 それが分かった時、私は“世界はこんなにも軽い〟と笑った。

 案の定、放っておいても彼女は孤立していった。

 これでまた、価値の落とした彼女から、彼は私の元に戻ってくると思っていたのに、彼だけは彼女の側から離れることはなくて、更に惨めに感じた。


「どうして?
彼女にはもう価値はないじゃない。一緒にいたら、あなたまで価値を下げるわよ」


 そう言うと彼は私に言った。



「君のそう言うところが受け付けられないんだ。俺のことは放っといてくれよ」



 どうしてーー

 まだ、これでは足りないの?

 あの女が学校に来てるから?


 彼が一週間、熱で休んでいる間に、彼女の虐めを物理的に酷いものへと移行させた。


 結果、元々自信を失っていた女は自殺したーーまでは良かったのだけれど。


 彼も学校に来なくなって、私の元へは戻ってこなかった。



 その内、虐めの動画が匿名で投稿された。


 虐めたことがSNSで拡散されて、それだけで世界は一瞬で逆転した。


 私の家に嫌がらせの連絡や紙が貼り付けられる様になった。

 

 親は言った。


「美々流ちゃんは悪くないわ、私達が何とかしてあげるから」
「そうだぞ。気に病む必要はないからな、私達が守ってやるから」



 その言葉を聞いて、深く安心した。
 スマホを開いたら、私の友達からは連絡が来なくなっていて、こちらからラインをしても既読はつかない。

 一緒に彼女を虐めていた友人ですら、いっこうに返事をしてくれない。


 不安や不満が募る中、現実逃避をするように部屋に篭り、乙女ゲームをした。


 私と同じ名前のヒロインを囲う男達は、彼のように私を振ったりしない。周りは皆私の味方。
 それが決まっている世界に転生したい。


 そう願った時に、頭の中に声が聞こえた。






〝その願いーー余が聞き入れよう。
強欲なおまえに望む力を与える。

その代わり、其方は余の願いを叶えてくれるか?〟
 


(うん、もうこの世界はリセットしたいもの。何でも良いから叶えて)



 そう思った時、私は気を失った。






♢♢♢






 次に目を覚ましたとき、私は願い通り乙女ゲームのミミルになれた。

 希望を胸に宿して果たした転生ーー



 それなのに、胸の不安や不満は前よりも増えるばかり。

 魅了が無くても私を理解してくれる司祭も、私のやろうとしていることを止めようとするから魅了した。


 そうすると不愉快なことは無くなったけれど、胸のモヤモヤは増えてゆくばかり。

 前世と違い、私の親はこの世界でもトップの権力者なのに、思い出すのは〝美々流ちゃん〟と私を呼ぶ前世の親の声。



 SNSで私が誹謗中傷されているあの世界に、二度と帰りたくないと思うのに、誹謗中傷されても良いから二人に会いたいとも思う。


 愛されたい。
 でも、愛される方法をもう知らない。


 そんな私の心を見透かしたかの様に、目の前の女は目を見開いて、私へ問いかけた。




「ねぇ、ミミル。

貴女は本当に誰にも愛されたことがないの?」

「そんなのないわ。
あんた、一体なんなのよ」


 でも、光に包まれる中で思い出した両親の顔が頭から離れない。


「私は、ミミルーー貴女がこの世界へ来た時に貴女と同じ世界から呼び寄せられた魂。

私はきっと、この世界で〝悪役令嬢を消滅〟させる為に転生したんだわ」

「悪役令嬢を…消滅?」


 全ての存在が完璧でない様に、神はいつでも調整している。

 世界に異物が入った時ーーそれと対になる存在もまた入ってくるということだ。


「こうして触れてわかったけれど、この世界の魅了の力が貴女にくっ付いてるせいで戻れないのね。

なら、貴女の魂は異世界の日本へ。
魅了の力は地獄へ返すわ」


 リディアが剣の柄を持つ手に力を込めると、魂に食い込んでいた魅了の力との境目に亀裂が入る。



「や、やだ。私は戻りたくないわ!!!

だって、あそこは…この世界と違って、何処に行ってもリセットされないの。


何処に引越しても、直ぐに拡散されてーー」







「貴女はまず、異世界での贖罪が済んでから異世界に転生すべきだわ」


 

 
 
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