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第2部
王都に出立
「顔色が悪いな、何かあったのか?」
夕食中、どこか上の空になっているエミリアを気にしてカイルが話しかけて来た。
(何かあったというか・・)
隣の席で赤ちゃんを抱えているフェレ助を一瞥するが、赤ちゃんは普段と変わりなく、〝んくんく〟とひたすらミルクを飲んでいた。
(ラファエルはまだ文字が読めないのね・・赤ちゃんだから読めなくて当たり前なんだけれど。でも、言葉は少しわかっているから、言葉には気を付けないと)
「やはりーー勉学と仕事、育児の両立は難しいか?教師とカレンシア公爵令嬢を交えて予定を組みなおしても良いと思うが」
神妙な顔をして考え込んでいたエミリアの様子を勘違いしたのか、心配そうな声色を滲ませている。その面持ちは、どこか不安も混じっているようにも見えた。
「大丈夫よ、仕事と言っても絵を書くのは今に始まったことでは無いし、イザベラ様にも調整してもらっているの。それに、ラファエルはフェレ助やリサさんにも見て貰っているし・・あ、そうそう!
私今度、一週間ほど王都にいくから。その件は教育係の方にもこれから伝えるわね」
わざとらしく話題をずらしたことは直ぐにわかったが、その後続けられた言葉にカイルは思わずフォークとナイフを持つ手を止めた。
「王都って・・俺達は王都から疎開して来ているんだぞ?地理上敵国に近付くということだ」
「うんーーでも、今は一時期ほど危ない訳じゃないし。なんでも、貴族新聞の大手新聞社レッドを経営しているワイルズ商会長って方が主催するイベントに私も参加して欲しいんだって」
「あの・・漫画という仕事に関係しているのか?」
「うん。今ね、貴族でも漫画目当てにキルト新聞社もとるようになっているから、ワイルズ商会長のところでも何か連載して欲しいみたい。
イザベラ様にはお手紙で〝漫画の経済至上拡大に必要なことだから、必ず参加して握手とサインをして欲しい〟と言われてるの」
「握手?・・」
カイルは眉根を寄せて、怪訝な表情を浮かべる。
復唱された内容に、エミリアは頬を赤らめて照れたように頭を掻く。
「私のサインが欲しい人がいるかは、私も疑問なんだけど・・」
「いや、そっちの話じゃない」
「握手も、したい人いるかも分からないから・・あ、でも握手は嫌ならしなくて良いって」
「・・そうか」
ぽつり、と呟いた後、静寂が流れる。
ゆっくりとナイフを動かし始めたカイルは、何やら思案をするように手元の肉へ視線を落としたまま黙り込む。
(・・何が気になるのかしら?)
エミリアも手を動かして、食事の続きをはじめる。
その間、ミルクを飲み終わった赤ちゃんがまた新聞の裏面を読んでニコニコしていた。
♢♢♢
「カイルも一緒に王都へ来るの?」
「あぁ。領地は代行の者に任せてきたし、ラファエルも行きたいんだと。
良いだろ?」
王都への出発日、そんなことを言い始めた。
赤ちゃんのことはこの国の命運を握る大事な捕虜のため、人目につかないこの田舎の土地でカイルの監視下に居た方が良いと、イザベラに言われていたので、その様にするつもりだった。
けれど、カイルに抱えられている赤ちゃんはこちらに向かって手を伸ばし、抱っこをせがんでいた。
「みー。みぃ」
「みーって、私の事?」
エミリアが赤ちゃんを両脇から支えるようにそっと受け取ると、ほっとしたように頭をエミリアの肩に預けて目を閉じていた。
半時前ーーエミリアが自分を置いて王都へ出かけようとしていたことを察したのか、部屋の中で泣き叫びながら嵐を巻き起こしたらしく、カイルが「おまえも一緒に王都へ着いて行くか」と口にしてやっと収まったのだとか。
(泣き疲れちゃったのね・・
ラファエルは賢いから、敵国に居る危うい状況も、なんとなく察してるんだろうなぁ・・)
イザベラが寄越しくれた護衛に目配せしたが、特に言及する様子は無さそうだ。
迷うところだけれどーー普通の赤ちゃんと違う能力を持つラファエルが、泣き叫ぶどころか嵐を起こすのではこの邸宅の使用人の手に負えないのは明らかだった。
(ううん…イザベラ様の護衛もいるし、カイルもいるし…仕方ないか)
「わかった。皆で一緒に王都へ行こうか」
ぽんぽんと赤ちゃんの背を優しくたたく。すると、その後ろからフェレ助が叫んで駆けつけて来た。
「フェレ助も一緒に行くんだフェレ!!!」
(それは・・ちょっと、ラファエルがいる以上あまり目立つのも良くないし、どうしようかな)
困った顔でカイルをチラリと見る。どうやらカイルもフェレ助の動向には難色を示しており、戸惑っているようだった。
夕食中、どこか上の空になっているエミリアを気にしてカイルが話しかけて来た。
(何かあったというか・・)
隣の席で赤ちゃんを抱えているフェレ助を一瞥するが、赤ちゃんは普段と変わりなく、〝んくんく〟とひたすらミルクを飲んでいた。
(ラファエルはまだ文字が読めないのね・・赤ちゃんだから読めなくて当たり前なんだけれど。でも、言葉は少しわかっているから、言葉には気を付けないと)
「やはりーー勉学と仕事、育児の両立は難しいか?教師とカレンシア公爵令嬢を交えて予定を組みなおしても良いと思うが」
神妙な顔をして考え込んでいたエミリアの様子を勘違いしたのか、心配そうな声色を滲ませている。その面持ちは、どこか不安も混じっているようにも見えた。
「大丈夫よ、仕事と言っても絵を書くのは今に始まったことでは無いし、イザベラ様にも調整してもらっているの。それに、ラファエルはフェレ助やリサさんにも見て貰っているし・・あ、そうそう!
私今度、一週間ほど王都にいくから。その件は教育係の方にもこれから伝えるわね」
わざとらしく話題をずらしたことは直ぐにわかったが、その後続けられた言葉にカイルは思わずフォークとナイフを持つ手を止めた。
「王都って・・俺達は王都から疎開して来ているんだぞ?地理上敵国に近付くということだ」
「うんーーでも、今は一時期ほど危ない訳じゃないし。なんでも、貴族新聞の大手新聞社レッドを経営しているワイルズ商会長って方が主催するイベントに私も参加して欲しいんだって」
「あの・・漫画という仕事に関係しているのか?」
「うん。今ね、貴族でも漫画目当てにキルト新聞社もとるようになっているから、ワイルズ商会長のところでも何か連載して欲しいみたい。
イザベラ様にはお手紙で〝漫画の経済至上拡大に必要なことだから、必ず参加して握手とサインをして欲しい〟と言われてるの」
「握手?・・」
カイルは眉根を寄せて、怪訝な表情を浮かべる。
復唱された内容に、エミリアは頬を赤らめて照れたように頭を掻く。
「私のサインが欲しい人がいるかは、私も疑問なんだけど・・」
「いや、そっちの話じゃない」
「握手も、したい人いるかも分からないから・・あ、でも握手は嫌ならしなくて良いって」
「・・そうか」
ぽつり、と呟いた後、静寂が流れる。
ゆっくりとナイフを動かし始めたカイルは、何やら思案をするように手元の肉へ視線を落としたまま黙り込む。
(・・何が気になるのかしら?)
エミリアも手を動かして、食事の続きをはじめる。
その間、ミルクを飲み終わった赤ちゃんがまた新聞の裏面を読んでニコニコしていた。
♢♢♢
「カイルも一緒に王都へ来るの?」
「あぁ。領地は代行の者に任せてきたし、ラファエルも行きたいんだと。
良いだろ?」
王都への出発日、そんなことを言い始めた。
赤ちゃんのことはこの国の命運を握る大事な捕虜のため、人目につかないこの田舎の土地でカイルの監視下に居た方が良いと、イザベラに言われていたので、その様にするつもりだった。
けれど、カイルに抱えられている赤ちゃんはこちらに向かって手を伸ばし、抱っこをせがんでいた。
「みー。みぃ」
「みーって、私の事?」
エミリアが赤ちゃんを両脇から支えるようにそっと受け取ると、ほっとしたように頭をエミリアの肩に預けて目を閉じていた。
半時前ーーエミリアが自分を置いて王都へ出かけようとしていたことを察したのか、部屋の中で泣き叫びながら嵐を巻き起こしたらしく、カイルが「おまえも一緒に王都へ着いて行くか」と口にしてやっと収まったのだとか。
(泣き疲れちゃったのね・・
ラファエルは賢いから、敵国に居る危うい状況も、なんとなく察してるんだろうなぁ・・)
イザベラが寄越しくれた護衛に目配せしたが、特に言及する様子は無さそうだ。
迷うところだけれどーー普通の赤ちゃんと違う能力を持つラファエルが、泣き叫ぶどころか嵐を起こすのではこの邸宅の使用人の手に負えないのは明らかだった。
(ううん…イザベラ様の護衛もいるし、カイルもいるし…仕方ないか)
「わかった。皆で一緒に王都へ行こうか」
ぽんぽんと赤ちゃんの背を優しくたたく。すると、その後ろからフェレ助が叫んで駆けつけて来た。
「フェレ助も一緒に行くんだフェレ!!!」
(それは・・ちょっと、ラファエルがいる以上あまり目立つのも良くないし、どうしようかな)
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