モブ令嬢と敵国赤ちゃんの育児日記〜婚約破棄寸前ですが後の皇帝に国が滅ぼされないよう頑張ります〜

マロン株式

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第2部

パレードの捕虜兵

 結局フェレ助も同行することになった。

「それでは質問です!フェレ助、貴方は王都についたらどう言う設定になりますか?」
「魔石で動く可愛い人形フェレ!リュックから顔だけ出しておくフェレ!」
「正解!」

 馬車の中でのエミリアとフェレ助のやり取りに、カイルは(少し無理がある気もするが、まぁ良いか)と心の中で呟いていた。

 イザベラの手配してくれた護衛は、馬に跨って馬車の外側を固めている。最初は護衛まで頼むのは気が引けたが、赤ちゃんが同行する今となっては、手厚さがありがたかった。

(もしかしたら、イザベラ様はこうなる可能性も考えていらっしゃったのかしら…)

 馬車の中で揺られながら、赤ちゃんに目を落とすが、今はエミリアの腕の中ですやすや眠っている。

 暫く揺られているうちに目を覚ましてミルクを与えたり、馬車の中で歌を歌ったりして過ごしていると、御者から「王都に入りましたよ」と声をかけられて小窓を開けた。

(久しぶりだけど、街並みの様子は少しかわってるわ…ん?)

 通り沿いの建物には、いつの間にか王家の紋章が刻まれた旗が掲げられ、白と金の布が、街路樹や街灯に巻きつけられている。

 まるで、祝祭の準備でもしているみたいに。
 
「何かあるのかしら?」

 その声に応えたのは御者だった。

「明日、パレードがあるんですよ」
「パレード?」
「局地戦に勝ったお祝いだとか…所謂、活気づけですかね」
 

「活気づけ…」
「屋台や音楽隊も来るらしいですよ。お泊まりになる宿屋の近くも通るみたいなので、明日見に行かれては?」
「明日なら準備だけだから時間はあるけど…」

 イザベラが手配してくれた宿屋はエミリアが参加するイベント会場から近く、エミリアの要望により平凡なところだ。

「あ!宿!!」

 そこで、部屋の数がひとつしかとっていないことに気がつく。
 ちらりとカイルを見ると、カイルもその点には気付いていたようで、目を閉じる。

「当日でも、もうひとつ部屋を取れるかと思ったんだが…パレードがあるのは誤算だったな…」



♢♢♢


 ドタバタとした出発をしたけれど、無事に朝を迎えられた。

 カイルは護衛の人と同じ部屋で泊まることで落ち着いて、時間になったらイザベラ様と約束しているお店で合流予定だ。

(イザベラ様、お会い出来るのはお忙しいからお昼なのよね。まだ時間があるなぁ…)


 すると、開けた窓から、太鼓の音が響いてきた。
 続けてどん、どん、と腹の奥に響く低い音に混じって、笛やラッパの軽やかな旋律が重なる。

(そう言えば、パレードしてるんだっけ…?)

「きゃあ!あう!あー!」

 初めて聞く旋律と、聞こえてくる人々の歓声に楽しくなってしまったのか、赤ちゃんはお座りした姿勢で窓の方を見ながら、体を揺らして、ぱちぱちと手を叩いている。

「ラファエルも、パレードに興味ある?」
「きゃい!」
「じゃあ、少しだけ覗いてこようか」



♢♢♢



 少しだけと思っていたものの、次々と人がやってきてあっという間にひとだかりが出来た。


 エミリアは、人混みに押されないよう、腕の中のラファエルをしっかりと抱き直す。
 
 沿道を埋め尽くした民衆は、建物の二階からも身を乗り出し、王家の紋章が刻まれた白と金の旗を狂ったように振っている。

 空からは、雪かと思うほど大量の花弁が、甘い香りを振りまきながら舞い落ちていた。



「来たフェレ!あれが王様フェレ?」


 リュックから顔だけ出した〝魔石人形〟のフェレ助が、エミリアの耳元で興奮した声を殺して囁く。

 やがて、通りの向こうからひときわ大きな地響きと共に、白銀の甲冑に身を包んだ精鋭騎士団が現れた。その中央、一頭の巨大な白馬が悠然と歩を進めてくる。

 そこに跨っていたのは、この国の頂点――王その人だった。

 王がゆっくりと右手を掲げると、民衆の熱狂は爆発した。

 陽光を真っ向から受けた王冠が、直視できないほどの黄金の輝きを放ち、王の顔に深い陰影を落としている。その姿は、まるでおとぎ話から抜け出してきた神の化身のように完璧で、神々しかった。

「…………」



 そうして、歩兵隊が通り過ぎていく。
 揃えられた足並み。
 磨かれた鎧、掲げられた王国の旗。

 陽光を跳ね返す軍装の輝きに、民衆の熱狂は最高潮に達し、歓声が一段と大きくなる。

「んきゃああ」

 つられて、赤ちゃんも声をあげたが…、熱気にやられたせいなのか、蒸気して、頬が赤らんでいることに気がついた。

「あれ?ラファエル。もしかしてお熱があるんじゃ」

 エミリアが赤ちゃんのおでこに手をつけると、やはりいつもより熱い。

「…長旅させちゃったね。もう充分に見たから、宿に戻ろうか」




 ——だが、その、すぐ後、民衆の雰囲気が一変して、歓声の中にどよめきも入り混じり、人々は前後に揺れ動く。

「…っ」

 前に押し出されたエミリアは、今抜けようとしたら人混みでもみくちゃにされる想像をして、落ち着くまで待つことにした。

(一体何を見てこんな熱狂してーー)


 パレードに視線を戻すと、エミリアの動きが、ふと止まった。

 鎖の音。

 じゃら、と乾いた金属音が、華やかな音楽に混じって不協和音のように響く。

 歓声の中にいながら、そこだけ空気が違って見える。



 行進の最後尾に現れたのは、異質な一団――獣人の捕虜兵たち。



 エミリアは、その中の1人と、目が合った気がした。
 

 


 
 

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