【完結】辺境伯は元王子妃に恋をしている

マロン株式

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訪れたピンチに2 マーガレットside

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 「逃げる前に、奪った物は置いていけ。でなければ、わたしはおまえ達を捕まえなければならない。」


 それを聞いて、後退りかけた男達は悔しそうに顔を歪めた。逃げる者は1人もおらず、大きな声を上げて向かってくる。

 その者達の中には女騎士を気絶させた腕の立つ者が居て、加えて女騎士にしたように挟み撃ちにして不意をつき2度程、辺境伯に攻撃を与える事が出来た。

 辺境伯は右の顳顬に棍棒で殴られた跡が残ったが、その後同じ手を喰らう事なく全て投げ終わると、ダメージを与えられた部分を手でおさえながら男達は辺境伯を見上げて苦々し気な顔をした。



「…っ、これを返せばいんだろ!」


 男の1人は懐から先程マーガレットからとった巾着を辺境伯の足元に投げつけた。


「か、返したからな!俺達は何もとっていない!だからお、おってくるなよ!!」


 身を引きずりながらも、逃げようとする男達に、辺境伯は話かけた。

「待て、これを持っていけ。」
  
 辺境伯は1人の男に向かって、自らの手持ちにあった巾着を投げると、受け取った男はそれを受け止めて、中身を開いた。

「……金…?」
 

「わたしがおまえ達にくれてやるものだ。それで食べ物を買い、腹を満たした後、北の地へ迎うといい。最近、ミンデル子爵が腕の良い歩兵隊を募集している。」


「「「!!!」」」


「…追剝をする為に腕を磨いたのであれば、わたしは次こそおまえ達を捕まえる。」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー


 そうして男達が去ったあと、マーガレットはまだ目を覚さない女騎士を介抱すべく殴られていた頭を動かさないよう安静に横たえた後、少しでも楽に眠れるように、衣服をくつろげてサラシを緩め、辺境伯から借りたマントを掛けた。



 女騎士が介抱されている間、離れた場所に居るべく湖を眺めていた辺境伯の後ろ姿を見て、先程の事を思い返していた。

  小さく掠れていた私の言葉に、返事をしてくれた声が今も耳に残っている。


 『仰せのままに。』



「辺境伯様。」

 水面に浮かぶ魚の影を見ていた辺境伯は、自然と横に並び立つマーガレットに気付いて、少し動揺した様子だった。

「妃殿下…」

「何を見ていたのですか?」

「此処は不思議な場所ですね、湖の水が澄んでいるせいか魚が元気にくるくると回って泳いでいるのを見ているのが心地よいです。」

「ふふっ、そうでしょう?良く、リラと私が視察に行ったついでに立ち寄る場所なんです。少し息抜きをしたいときに、リラにはよく付き合って貰いました。」

「そうでしたか、確かに此処は、良い気晴らしになりますね。」

「ええ、リラとこうして来れるのも後半年だと思うと、王子妃でなくなる前に来ておきたくて…。辺境伯様は如何して此処へお立ち寄りになられたのですか?」

「わたしは、王命により本日付けで王子妃の護衛騎士となりました。」

「え?」

 「ですから一刻も早く着任の挨拶をする為、王宮にいる妃殿下の侍女にこの場所を伺って来たのですが、来て良かったです。」


「私の、護衛騎士?そんな王命を陛下が辺境伯様に?」

  彼は国境を守ると言う大事なお役目があると言うのに?後半年で王子妃で無くなる私の為わざわざ警護の人員配置を変えるのも驚きだけど、先日も手柄を立てた彼を、何故わざわざ…

 それに、王子妃の護衛騎士は女性だと相場は決まっていると言うのに。
 一体何がどうなっているのかしらー…。

 (!まさか、まだ陛下は彼と私を結びつけようと、このような無理な異動を??)

「も、申し訳ございません、辺境伯様!
陛下は辺境伯様に長らく想いを寄せている方がいる事を知らないのです!ですからー…」

「え、、」

「え?」

 マーガレットが慌てて言った言葉に、辺境伯の頬がブワッと赤くなる。


「何故、それを?」


「あ……実はこの間、社交界でその…
天幕の後ろにいたものですから、辺境伯様とアーバン夫人の会話を聞いてしまいまして…。
立ち聞きしてしまったこと、せつにお詫びいたします。」


 殊勝に頭を下げて、顔を上げたマーガレットの目の前には顔全体に赤みが広がり、口を、はくはくさせている辺境伯の姿があった。

 マーガレットはその様子に首を傾げたが、辺境伯の顳顬にある傷が目に入り、手を伸ばした。

「私の願いを聞き届けてくれた事で、余計な傷を負わせてしまいました。本当に私は、辺境伯様に迷惑をかけっぱなしで…。」

 この間まで、おいそれと触れられない距離でいた人の体温が感じられるほどに近く、顔横に添えられたマーガレットの白く綺麗な手。

 そして痛まし気に目を細めて見上げてくる姿に、辺境伯は心臓が煩く鳴り響くのをおさえきれず、思わず添えられていたマーガレットの手を握った。

「妃殿下。わたしは…」

「??」

「わたしは貴女に…。」


 (辺境伯様がとても言い辛そうにしているわ…)

「大丈夫です。辺境伯様の想い人の事は他言はしません。
もしよろしければ、お話していただければ私、何かお力になれるかもしれません。」

「???」

「ですがまず、陛下には辺境伯様に長年お慕いしている方がいる事を言ってもよろしいですか?
一度ちゃんと陛下には断ったのですが。
どうやら事情をちゃんと話さねば、私と辺境伯様が…その。そう言う仲にされてしまいます。」

「ん?」

「途切れ途切れでしたが、先日のアーバン夫人との会話で事情は聞きました。私のせいで、その方と上手くいって無いのですよね?何とお詫びして良いかわかりませんが…。」
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