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お嫁様は口付けを受け入れる2
しおりを挟む「やっぱりこんな所に居たんだね。もう夜なのだから、程々にしないと身体を冷やしてしまうよ。」
後ろから掛けられた声に、マーガレットは反応して振り返った。
「私が此処に居ると、よく分かりましたね。クリス殿下。」
「此処は城下町を1番よく見渡せるから。儀式の前日、君は必ず此処に来ていると思ったよ。」
王子は話ながら歩みを進めて、マーガレットの横に並びたつ。
「ふふっ、長く共にいると3年に1度の事でも把握されてしまうものですね。」
笑い声を漏らしたマーガレットの頬に王子はそっと手を添えた。
「明日の儀式、緊張しているの?」
そう問いかける不安気な碧眼の瞳を見て思い出す。
初めて王妃の代理として儀式に出る事になった前夜祭、緊張して胃がきりきり痛む程具合が悪くなりずっと顔色が悪かった。
1人で行かなければならない初めての華園廻り。王子は私の儀礼服にしがみ付いて『一緒に行く』と駄々をこねて、なかなか離さなかった。
皆はその時幼かった王子が、親代わりのように接している私に甘えているものだと思っていたが。
王子はあの時、具合の悪い私を1人で行かせる事が心配だったのだと後になって気付いた。
あの時、初めての華園廻りを終えて、私は帰りに華園の一つで長らく休憩してから王宮への帰路につこうと歩みを進めた。
すると、王宮に居るはずの幼い王子が一本道の先から私目掛けて走ってきて、ダイブする勢いで、私の儀礼服を掴んで抱きついた。
驚いた私は、しがみ付いてスリスリしてくる王子の肩を掴み、引き剥がして言った。
『ダメですよ王子、王宮を抜け出して来たのでしょう。』
『マーガレットが帰ってこないせいだよ。ぐあいがわるいならどうして直ぐに帰ってこないんだ。』
その目に涙をいっぱい溜めていた姿に、私が王子を、いたく心配させ、不安にさせていたのだと悟った。
王子の手を引いて王宮に戻ると、王宮の使用人達が皆青ざめた顔をして王子を探し回っていた。
賓客の挨拶に連れまわされていた筈の王子が、いつの間にか居なくなったと大騒ぎになったのだとか。
後で叱られると分かって居ながら、私の身が心配で抜け出してきた王子。
(今も、あの時のように心配してくれているのね。こう言う所は変わらない…。)
添えられた手に、マーガレットは目蓋を伏せ、そっと自分の手を重ねて頬をすり寄せた。
「ありがとう。心配してくれているのね。」
頬をすり寄せるマーガレットの姿を、王子は動揺を瞳に宿した後、僅かに頬を朱らめながら、愛おしそうに目を細めた。
「マーガレットなら、今回も上手くやれるよ。」
そう言って、マーガレットの頬に手を添えたまま顔を近づけて来た王子に、マーガレットは抵抗する事なく目を閉じて優しい唇同士の触れ合う口付けを受け入れた。
その数秒間、マーガレットは心の中で密かに思う。
(時が、このまま止まればいいのに。)
頬を撫でる風に切なさを感じた頃、目をゆっくり開くとそこには、作り物の如く綺麗な碧眼の瞳が熱っぽく自分を見つめている。
マーガレットは、ポツリと言った。
「クリス殿下、華祭りの後、大切な話があるのです。」
「話?」
「はい、大切な、本当に大切な話なんです。聞いて、くれますか?」
それは、季節の風が心地よく頬を撫でつけ、なのに何故か。何処か物悲しさをも感じる。
甘くも切ない夜の事だった。
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