【完結】孤高の皇帝は唯一欲した

マロン株式

文字の大きさ
1 / 17
少女は少年を見ていた

1

しおりを挟む
 両手と首に鎖をつけられて、黄ばんだ服を着て何日も洗われて居ないボサボサの薄汚れた髪をした少女は

 下に藁が敷かれている馬車に揺られながら隅の方で壁に寄り掛かっていた。

 馬車には自分しか乗せられておらず、外で馬を走らせている男はぶつぶつと「まさかこの国がこんな事に…怖い怖い。もうこの国に用はねえし。巻き込まれたくねぇ。さっさと出てやる。」


そう呟いていた時だった。

 急に馬が嘶いたかと思うと、馬車は大きく揺れ、少女も馬車の中で転がる。

 何事かと、そう思って耳を済ませてみると、外で何か話をしている。
 ずりずりと、その身を引きずって、開いた隙間から外の様子を伺った。
そこには男の背中しか見えない。

「どけどけっオラァ急いでるんだ!!!」


「違法商人であろう。

わたしを連れて行けば、美味しい思いが出来るぞ。」

「あん?」

パサリと、何か被り物をとった音がした。

 何を見たのか、先程まで威勢の良かった男は怯んだように言葉を紡ぐ。

「その髪と眼…ー、ま、まさか…っ。」

「わたしの利用方法は貴殿に任せよう。
売るなり見せ物にするなりは、後で考えてくれ。」


「~…っ。」

男の混乱した様子が背中越しでも窺える。

 ギシギシと音がなって、誰かが荷台に登ってくる事がわかったので、思わず飛びのくと

 僅かしか隙間のなかった荷台の入り口が、勢いよく開いた。

 急に夕日が差し込んで、思わず目を細めてその姿を見上げる。

フードを被っているけれど、見上げていた少女にはその顔がはっきりと見えた。
目立つ黄金の髪に、翡翠の瞳。
白磁のように白い肌。


綺麗な少年だった。


 相手も驚いた表情を見せていたが、そのまま荷台に乗り込んでくる。


後ろからは男が慌てて少年を咎めるような声をあげた。


「お…おい!」


「急がねば、貴殿もこの国を抜けられなくなるぞ。
…わたしの使い道はこの国を出てから考えた方が身のためだ。

夢々奴らに引き渡そうなどと思うな。奴らに消されたく無ければな。」


「く…っ.あ~も~!!
よく分かんねぇ。後だあと!」



 男は入り口を勢いつけて閉めると、再び馬車は激しく揺れ動き、走り出す。

少年は少女と反対側の隅に行くと、外套で隠れていた腰にかけている剣を抱えて座り込む。

疲れているのか、落ちてしまいそうな瞼を閉じないようにしている様子だった。少女の気配が気になるのだろう。


「大丈夫、私は鎖で両手両足繋がれてるよ。貴方が寝ていても、貴方の方が分があるわ。」

思わず宥めるようにそう言うと、驚いた表情をして、暫くの沈黙の後に、やっと言葉を発した。

「いくつだ?」

「え?」

「年齢だ。見た目は4・5歳だが…」


栄養が足りていないせいか、少女の身体は発達が見た目よりも幼く見えていた。
けれど、しっかりした物言いに違うのかと疑念を抱いたのだろう。

「今年で7歳よ。貴方は?」

「わたしは今年で10になる。」

(私より年上かなとは思ったけど…)


それ以降、揺れが激しくなり会話どころではなくなった。
馬車内はガタガタ揺れて、おおよそまともな道は通っていない事はわかる。
闇商人達が、国境を越える際に使う闇ルートという場所を使っているのだ。


揺れも落ち着いた頃には

いつの間にか目の前にいる少年は寝息をたてていた。









しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

その婚約破棄お待ち下さい、保険適用外です!

東稔 雨紗霧
ファンタジー
王宮にある一室で今まさにオフィーリアがミゲル王子から婚約破棄を告げられそうになっていた時、そこに割って入る者がいた。 「お待ち下さい、その婚約破棄保険適用外です!」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

処理中です...