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少女は少年を見ていた
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しおりを挟むそれからの少年は、先代皇帝遺言通りの道を歩んだ。
アウステル皇国の一部の部族と、フロイス皇国に点在する味方の兵を集めて、機会を伺う。
そして、天の導きとばかりに、それは直ぐにも訪れた。
フロイス皇国は長らく混沌とした状態が続き、領土拡大の好機とばかりに隣国の レヴァネル国に攻め入られ殲滅するため、火の海となっていた。
それを鎮火し、形勢を逆転しに現れたのが、12歳の少年が引き連れた軍隊。
地の利をいかして、瞬く間に事態は収束した。
そしてそのまた1年後
13歳の少年がフロイス皇国の皇帝として、玉座につく事が決まった。
民に望まれ
花冠式が盛大に行われるので、長らく滞在していたフロイス皇国の田舎の公爵領を出立する事となる。
出立する前日、少年は丘の風に当りながら、隣にいる少女に言う。
「この夕日、君と出会った頃に見た物と同じだ。」
懐かしむように、うっとりと目を細める。
夕焼けの日差しが、黄金の髪を紅く光り輝かせた。
少女は夕日よりも、憑物が落ち、凛とした面持ちの少年の横顔に見惚れていた。
(何て、綺麗なのだろう…
金色に輝くその様は、何て気高い…)
やはり、この人は皇帝になるべく産まれたのだ。
そう痛感した。
「今まで、本当に…本当に、良く頑張って来たね。」
少女の言葉に振り返ると、その瞳は涙が溢れ落ちそうな程に潤んでいる。
「ーー…有難う。
わたしは、君が居たから、此処までこれた。」
「皆が貴方を認めた。
これから、忙しいわよ。」
(貴方は、もう大丈夫。)
少女の笑みを浮かべながらも、片目から伝う滴を、少年は己の指でそっと拭う。
「ぁあ。そうだな。」
長きにわたる混乱で、荒れ果てた広大な大地に、再び芽を植えて水をやらねばならない。
きっと今までよりもっと、時間のかかる事だろう。
壊すのは簡単だが、生み出し、発展させ、整えるのに時間がかかるのは至極当然。
だけど、今なら何でも出来る気がした。
やっと、此処までこれたのだ。
後は己の手腕にかかっている。
自信はある。何せ、これまで積み重ねた経験で得たものは生半可なものではない。
翌朝、豪奢な馬車が迎えに来た。
公爵領に住まう人々が歓迎して見送ろうと群がる。
少年は敬礼する兵士達の前を、幼いながらも、かつての様に堂々と威厳を持ち歩く。
馬車に乗り込んで、少女も乗りやすくする為にと、手を差し伸べようと振り返った。
けれども、
その後ろに少女は居ない。
少年は辺りを見渡した。
「閣下?」
兵士の1人が呼びかける。
「……ー。」
少女の姿は何処にも見当たらない。居ればどれ程群がる群衆の中でも、見つけられる自信は有るのに。
「連れの準備がまだなようだ。
暫し待とう。」
そう言った時、ある日の使者が少年の前に歩み出て告げる。
「かの者は、先に行っていると。
先に行って、驚かせたいのだと言っておりました。ここに手紙が。
驚かせたいから、必ず城についてから読むようにと。」
使者が差し出した手紙には、少年の名前が書かれている。
線の細く綺麗な、少女の字に間違いなかった。
「また…あやつは本当に、いつもわたしの想像斜め上の事を…」
困ったように、ため息をついたが、口元には笑みが浮かんでいる。
少年は馬車に乗り込み、少女の待つ王都に急ぐよう伝える。
少女が思うよりも早くについて、自分もまた驚かせてやろうと思っていたからだ。
王都についた頃、直ぐに馬車から降りた少年は、王宮の何処かに少女が隠れて居るのでは無いかと探し回る。
けれども王宮は広くて、なかなか見つからなかった。
(そうか、この手紙はヒントが載っているのか。)
そう思って、出立前に使者から貰い受けた手紙を広げる。
その内容に、少年の手は徐々に震えた。
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