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第二章 追放編
朝ご飯のち九尾 1
『朝起きたらあの子にご飯をあげとくれ』
思いもよらぬ出会いと別れを経験して、一晩があけた。
九尾の遺言を聞き入れたアリスは、この家にある調味料や食材を確認して、朝食を作る準備をはじめる。
まず、敷地内の庭の一角に小さな区画があり、何を育てているかを示す立て札があった。
土には野菜が育っていて、そこからレタスやほうれん草、ラディッシュなどをとりだし、花壇の端に並んでいる小さな鉢からはイチゴやトマト、ブルーベリー等々を採取する。
(流石ーー数百年も生きていたというだけあって、生き物を育てる知恵も豊富にあったのね…)
台所の床下には多くの調味料が保存されており、全てにラベリングがしてあった。
まるで、誰がここを使用しても困らないために整頓しているかの様でーーアリスは九尾の残した小さな獣人への愛情に、胸が温かくなるのを感じながら、保管されていた水で食材を洗った。
♢♢♢
「おいしーい!」
起きてきた狸獣人の子供は、机に並べられた簡易的な朝食ーー作り置きされていたブイヨンをもとに野菜と塩胡椒で整えたスープやハム、目玉焼き、パン、サラダやイチゴの砂糖漬けを大層喜んで頬張ってくれるので、アリスはふわりと笑みを浮かべる。
(口に合うようで良かった。
私のお母様は〝前世の習慣〟というものがあるとかで、手作りを好む人だったから。
私も一緒にやるうちに、手作りをする習慣がついたのよね…それがこんな所で役立てるなんて。
こんなに喜んでもらえるなんてーー嬉しい)
「私はアリスって言うの。
これからよろしくね。
あなたのお名前は、なんて言うの?」
「ボクはコタ!」
「コタくんね」
「違うよ!コタだよ!」
「コタ、素敵なお名前ね」
コタは褒められたことで、嬉しそうに「えへへ~」と笑う。つられてアリスも笑った。
「歳は幾つなの?」
「みっつ!」
元気よく目の前で三本の指をだす。
アリスはかすかに抱いていた疑問が心の中で腑に落ちて、瞼をまたたく。
(見た目が、一歳程度と遜色ないほど小さいわりに、俊敏に動けるし、話も出来るから違和感を感じてたけれどーー。
三歳だったのね。
獣人と人の子は、姿が似ていても、やはり違う種族だものね)
実は友人の弟妹の成長を見てきたアリスは、コタの見た目と中身の成長のギャップが何故なのか考えていたのだ。
成人の狸ほどしか身長がないのに、意思疎通が容易なことに疑問を感じていたアリスは、これで漸く納得した。
「ねぇねぇ、ママは?」
「あ…」
「ママいつもはやおきなの」
「……ご飯を食べ終わったら、二人でママの様子見に行こうか」
「うん!」
元気よく返事をするコタに、アリスの胸は痛んだ。自分も早くに母親を亡くしたからこそ、尚更だ。
ましてやコタは自分が母を亡くした頃よりもずっと幼く、九尾しか頼れる相手がいない状況で生きていたのだ。
どの様に九尾の死について告げるのかーーアリスは考えあぐねていた。
(どう告げたとしても、こればかりは…どうしようもないわよね)
偶然とはいえ、乗り掛かった船だ。
突然現れた自分がコタに出来ることは少ない。
それでも、誰もここに訪れないで、コタが一人残される状況に陥らずに済んだだけでも幸いだったと思えた。
(そう考えたら、私が婚約破棄をされて、こうして此処へやってきたのは良いことだったのかも知れないわ)
アリスはそんな風に思い始めていた。
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