【完結】で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?

Debby

文字の大きさ
27 / 27

27 で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?(最終話)

しおりを挟む
 サマーパーティーの後、フロスティ公爵邸では無事ジェードとクラレットのお茶会やり直しの逢瀬が行われた。

 あの場にクラレットが現れると思ってはいなかったジェードだが、あれがスカーレットの仕業であることはすぐに察することが出来た。
 それに関してはなんとも思っていないのだが、あれからクラレットの様子が少しおかしいのだ。

 クラレットにしてみればジェードとのダンスの後、突然スカーレットに着いて来るように言われた。
 勿論断るという選択肢はないためそのまま大人しく着いていくと、ジェードの後ろで控えているよう言われたのだ。
 不本意ながら、そのままジェードの話をするような形になってしまった。

 ジェードにしてもビアンカにしても思うところがないわけではなかったが、キャナリィがいつも言っている「恋に溺れる」とはこう言った人のことかもしれないなと他人事のように思った。
 取り敢えず、今回の件でキャナリィが心を痛めることがなかった。
 それがクラレットにとっての一番なのである。

「どこから立ち聞きしていたの?」
「ほとんど聞いておりません」

 いつもの笑顔でジェードがクラレットに問いかける。
 ジェードが実は「優しい」ことをクラレットは知っている。
 しかし令嬢たちから「優し気」だと評される笑顔は、クラレットにとっては何を考えているのか分からない、胡散臭いものだった。
 ジェードとクラレットは十年前に出会っていたのだが、婚約は早い者勝ちではない。
 正直、何故フロスティ公爵家の令息の婿入り先が何故自分なのかが分からず、ずっと不安だった。
 しかし、今回その不安がやっと払拭出来た──そう、払拭は、出来たのだ。
 ジェードが裏でクラレットが婚約出来ないよう暗躍していたことを含め、安心するべきか、怒るべきか彼女にはわからなかったが、ジェードがクラレットを望んでくれて婚約に至ったのだと分かったことは大きい。

 しかしクラレット本人が言うのもなんだが、ビアンカとの会話を聞く限りジェードもキャナリィが理解できないと言っていた「恋」に生きるタイプのように思う。
 クラレット的にはジェードの審美眼と知識は信頼しているのでジェードがどのようなタイプであろうと構わないのだけれど、問題はジェードの気持ちを立ち聞きしてしまったことを白状するべきなのか、そしてジェードに対するこの感情を伝えるべきなのか、だ。

(私もちゃんと貴方を好いているのですよ)

 絶対にジェードのとは重さが違うし、どこを、と問われると困るけれど。

 ──答えが出ぬまま、クラレットの苦悩はしばらく続くのであった。



 ★



 ある日の休日。
 キャナリィはお詫びと称してスカーレットの離宮にひとり招かれていた。

(また一人、「恋」によって学園から令嬢が姿を消してしまったのね)

 しかし、キャナリィも今回に限っては相応の処分であると思っている。

 ジェードを欲するあまりクラレットを蹴落とそうとして姿を消すことになったビアンカと、グレイを想うあまり自分以外の者をグレイに嫁がせようとしたスカーレット。
 キャナリィはきっと「恋」が理解できない自分にはやはりどちらの想いも一生理解が出来ないのだろうと、考えるのを止めた。

 スカーレットはグレイに気持ちを伝えたことですっきりした顔をしており、彼を手に入れるために日々積極的に動いているようだ。
 両国の国王夫妻もスカーレットを応援しており、二人が婚約する日も近いだろうと言われている。

 因みにスカーレットがシアンを頻繁に誘っていた件に関しては、王太子とのことを相談していた──となっている。
 あの時の関係者の言動からそうではないことは明らかだが、学園内のことであるし、それを知るのは特別クラスの面々のみ。ビアンカが学園から姿を消したことも相まって、その疑問を口にする者は皆無だった。



 色々ありはしたが、スカーレットはキャナリィの貴族としての覚悟やあの時の振る舞い、そして何よりスカーレットの恋を叶えた的確?なアドバイスにより、すっかり彼女を気に入ってしまっていた。
 それはシアンが嫉妬をするほどに。

 まずスカーレットはキャナリィと懇意にすることで、他国の王女からも認められているのだと周囲に知らしめ、彼女を次期公爵夫人として『甘い』『優しすぎる』と言った、何も知らない貴族家から上がる声を封じた。
 キャナリィは貴族令嬢としての覚悟と強い意志を持っている。
 そんな彼女の上辺だけ見て、その判断を『甘い』だの『優しい』だの言っている奴らの先は知れているのだ。

 そしてスカーレットは以前シアンを誘っていたように、キャナリィを学園でも頻繁に誘うようになったのだ。



-----------



「王女殿下は婚約者キャナと過ごす一年のために俺が努力していたことをご存じでしょう?
 その貴重な時間をこれ以上奪うのは止めてくれませんか?」

 それでなくともスカーレットの訳の分からない計画のために残りわずかな学園生活のひとときを邪魔されたのだ。
 学園でスカーレットとキャナリィがお茶をしていると、シアンが毎回やってきて苦情を言う。しかしスカーレットはどこ吹く風。
 本来王族に誘われれば断ることは出来ないが、名を呼ぶことを許されたキャナリィは正式な誘いでない限り、多少婚約者を優先させても不敬に取られることはない。しかし真面目なキャナリィは王族の誘いを断ることもない。
 スカーレットはそれを分かっていて敢えてキャナリィを誘う。
 そして駆けつけたシアンはスカーレットに文句を言いながら許可も取らずに毎回キャナリィの隣の席に座り、

(前回は深読みしすぎていたが拗らせた初恋に巻き込まれただけ──今度は一体どういうつもりなんだ)

 と、スカーレットの真意を探ろうとしていた。
 スカーレットはその様子を見てニコニコと笑って眺めているのだ。

「わたくしにとっても友人と過ごす最後の学園生活は貴重なのよ」

「その残り数ヵ月の貴重な学園生活をご友人と過ごすために元の学園に戻ってはいかがですか?」

 開き直ったスカーレットと不機嫌なシアン──学園でのこのお茶会嫌がらせは、二人の卒業まで続くことになる。



-----------



「ひとつスカーレット様にお伺いしたいことがあるのですが──」

 離宮でこの日のお茶会のために用意された紅茶とお菓子を楽しんでいたところ、キャナリィが不意に思い出したかのようにスカーレットに伺いを立てた。

「許します──今この場での発言に限り不敬には問わずにおくわ」

 スカーレットが、ニコニコと笑いながらキャナリィにいつしかと同じ言葉をかけた。

 キャナリィは少し呆れたようにスカーレットを見ると、彼女もまた、いつしかと同じ言葉を口にした。

「──で、あなたスカーレット様が未だにシアン様に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」



 シアンとスカーレットの学園生活はあとわずかだが、キャナリィの学園生活はその後も続く。

 穏やかな恋、燃えるような恋、成就することのない悲しい恋──そして好いた相手の幸せを願う者、人を陥れてでも手に入れようとする者、また努力し勝ち取りに行く者・・・。
 恋は人の数だけ形が──想いがある。

 本当は誰一人として自身の「想い」を理解できている者はいないのかもしれない。
 そんな「想い」を他人が理解することなどはじめから出来るはずもないのだ。

 あの日シアンとの別れを覚悟しながらもスカーレットを「そそのかして」しまったキャナリィにも彼女だけの「想い」がある。

 いつか、キャナリィも自身の中に確かにある「想い」に気付く日が来るのかもしれない。





(おしまい)



 -----------



 読んでいただきありがとうございました(*´▽`人)アリガトウ

 実はこの作品の投稿中扁桃腺摘出手術を受けるため入院してました。
 皆さんからのいいねやエール、感想を見ながらテンションを上げて頑張ってました。
 明日無事に退院します!

 シリーズ3作とも沢山の方に読んでいただけたのでとてもうれしかったです。
 他の作品もみなさんの目に触れるよう頑張っていきたいので、またお目に掛かれたらうれしいです。
 ありがとうございました!

 Debby(*´︶`*)ノ"
しおりを挟む
感想 14

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

sawagumi
2025.08.15 sawagumi

手術のこと書き忘れました汗
無事に退院され、何よりです。
今後の作品も楽しみにしていますので、くれぐれもご自愛ください!

2025.08.15 Debby

重ね重ねありがとうございます!(食事が取れず減っていた体重が、無事戻りました(*T^T))
今後とも皆さんに読んでいただけるように頑張りたいと思いますので、目に留まった際はよろしくお願いいたします(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

解除
sawagumi
2025.08.15 sawagumi

三部作サイコーでした!
大庭ソト先生の作画でコミカライズされないかなぁw
(大庭先生の関係者ではありません\(//∇//))

2025.08.15 Debby

三作とも読んでいただき、感想までいただいてありがとうございます(*´▽`人)アリガトウ
そう言ってくださり、とても嬉しいです!

解除
ぱんださん
2025.07.28 ぱんださん
ネタバレ含む
2025.07.28 Debby

ぱんださん、たくさんのコメント、ありがとうございました。嬉しかったです(*´▽`人)
続きはシアンの卒業前に何かしら伏線を思い付けば──とは思ってますがナカナカ・・・σ( ̄∇ ̄; )
またお会いできる機会が持てるよう頑張りますね(๑•̀ㅂ•́)و✧

解除

あなたにおすすめの小説

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

(完結)相談女とお幸せに!(なれるものならの話ですけども。)

ちゃむふー
恋愛
「私は真実の愛に目覚めたんだ!ミレイユ。君は強いから1人で大丈夫だろう?リリアンはミレイユと違って私がいないとダメなんだ。婚約破棄してもらう!!」 完全に自分に酔いしれながらヒーロー気分なこの方は、ヨーデリア侯爵令息のガスパル。私の婚約者だ。 私はミレイユ・ハーブス。伯爵令嬢だ。 この国では、15才から18才まで貴族の令息令嬢は貴族の学園に通う。 あろう事かもうすぐ卒業のこの時期にこんな事を言ってきた。 できればもう少し早く言って欲しかったけれど…。 婚約破棄?大歓迎ですわ。 その真実の愛とやらを貫いてくださいね? でも、ガスパル様。 そのリリアンとやらは、俗に言う相談女らしいですわよ? 果たして本当に幸せになれるのかしら…?? 伯爵令嬢ミレイユ、伯爵令嬢エミール2人の主人公設定です。 学園物を書いた事があまり無いので、 設定が甘い事があるかもしれません…。 ご都合主義とやらでお願いします!!

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

婚約破棄は夜会でお願いします

編端みどり
恋愛
婚約者に尽くしていたら、他の女とキスしていたわ。この国は、ファーストキスも結婚式っていうお固い国なのに。だから、わたくしはお願いしましたの。 夜会でお相手とキスするなら、婚約を破棄してあげると。 お馬鹿な婚約者は、喜んでいました。けれど、夜会でキスするってどんな意味かご存知ないのですか? お馬鹿な婚約者を捨てて、憧れの女騎士を目指すシルヴィアに、騎士団長が迫ってくる。 待って! 結婚するまでキスは出来ませんわ!

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。