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26 私怨
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サマーパーティーを終えた後すぐにルーベルム侯爵が呼び出され、宣言通りスカーレットがビアンカに勧められた二品を納品するように命じられた。
ビアンカが何をしたのか知らぬ侯爵はクラレット同様現在の状況をスカーレットに説明し、その場で話を断ってきた。
スカーレットはクラレットと同じ理由で断る判断をした侯爵を信用できると判断した。
ビアンカがその商品をメイズ伯爵家の商会に注文するようスカーレットに進言したこと、その送り先が王太子殿下であったことを伝え、ビアンカの処遇は侯爵に一任すると伝えたのだ。
侯爵は深く謝罪し、会場の一室にいたビアンカを連れ帰った。
侯爵はビアンカが昔からジェードを想っていたことは知っていた。しかしここまで執着しているとは思ってもみなかったらしい。
商会同士競合することはある。
今回はビアンカが具体的に何をしたのかが学生たちに伝わらなかったため、ルーベルム侯爵家の商会に直接的な被害こそはなかったが、私情に流されて他者を陥れるために、商会員や職人を犠牲にしようとしたビアンカをこのまま跡継ぎにするわけにはいかない。
今回はクラレットが断り現状を話したことで事なきを得たが、万が一誰かが依頼を受けていた場合、ビアンカが想像していた通りのことが起こっていたはずだ。
それによって様々な人々に被害が及び路頭に迷う者たちも出たかもしれないのだ。それを分かっていてクラレットを陥れようとしたのか。侯爵にそう聞かれたビアンカは、何も答えられなかったのだという。
ビアンカはそのまま廃嫡。修道院に送られたそうだ。
旅立つその時まで、ビアンカは泣き続けていたのだという。
こうして、目論み通りジェードはビアンカを視界から消すことに成功した。
──が、
「視界から消すって・・・まぁ、表現がアレだけれども、それであれば貴方がビアンカに言葉を掛ける必要もなかったのではなくて?」
後日、商談だと言ってジェードを離宮に呼びつけたスカーレットは疑問に思っていたことを尋ねた。
王太子妃を目指すことに決めたスカーレットは学園の生徒たち──次代の貴族家を担う者たちに見くびられるわけにはいかないためあのような形でビアンカを見せしめとして利用したが、ビアンカを物理的に遠ざけるだけであれば、ジェードがわざわざビアンカと話をする必要はなかったはずだ。
スカーレットはあの時のジェードとビアンカの会話をクラレットと共に全て聞いていた。
確かにジェードに対するビアンカの執着は聞いていて頭がおかしいのかと思うほどではあった。
しかし、ジェードもスカーレットがルーベルム侯爵に話をすることでビアンカが廃嫡となり、王都から物理的に遠ざけられるだろうことは容易に想像できていたはずなのだ。
そんなことを聞くためにわざわざ呼び出したのかとジェードは思ったが、相手は未来の王太子妃だ。
これからの付き合いもあるし、ビアンカを排除するために一役買ってもらった──ジェードがパーティーに参加するため学園長に一言添えてもらったのだ──恩も、多分ある。
あの日──スカーレットと話をするために公園にやってきたジェードはもうひとつ、スカーレットに頼みごとをしたのだ。
今後のためにもビアンカに利用されたままでは示しがつかないだろうと。
そしてビアンカに制裁を加えるのであれば、その時ついでに自分にビアンカと話をさせてほしいと。
ジェードが直接出向くとビアンカを喜ばせるだけだろうから偶然を装って・・・。
確かにスカーレットはビアンカにはあの二つの品を提示した理由を聞かなければならないとは思っていたが、ジェードにビアンカの名前は告げていないのだ。
スカーレットはどうも彼の手の内にいる──全てを見透かされているようでなんだか腹が立ったのだ。
だからスカーレットはあの時クラレットに声を掛けた。
何かしらジェードに意趣返しをしようと考えてのことだったが、まさかあそこまでジェードがクラレットに執着──いや、溺愛と言った方が良いのか?──しているとは思わず、不味い話を聞かせてしまったかと考えていた。
しかしジェードは何も気にしていない様子。
まぁ、振り向き様にクラレットが目の前にいるのを見つけた時の、ジェードのあの驚愕した顔を見ることが出来たのだから、少しは溜飲が下がると言うものだ。
「彼女と話したのは勿論メイズ伯爵家の商会に手を出そうとしたことへの制裁ですよ。
彼女が私に執着していることは知っていたので一番の罰になるのではないかと思いまして。
それに──ビアンカのお陰でクラレットとの茶会の予定がひとつ消えたんですよね」
──それはわたくしがルーベルム侯爵令嬢に薦められ商談があるとメイズ伯爵令嬢を離宮に呼んだ、あの日のことかしら・・・
絶対に後者が直接的な理由に違いない。
商会に手を出したことへの制裁はついでだ。
──完全なる私怨。
そういえばこの男は婚約者との時間を奪われることを嫌うのだったわね。
大切に想われているのだと羨ましいと思ったこともあったがこれでは──スカーレットはクラレットに少し同情した。
★
跡継ぎを失ったルーベルム侯爵家の今後だが、現在商会で働いているビアンカの従姉に当たる令嬢を養女とし、ビアンカの元婚約者の令息と婚約させ、共に跡を継がせることにしたそうだ。
後日ルーベルム侯爵が訪れメイズ伯爵に謝罪し、そう説明したそうだ。
本来ならば、王族を謀ったビアンカがその程度の罰で許されることはない。
しかし、別途話を聞いたスカーレットもこの国の王太子妃を狙う身として、国内二位の商会を留学中に潰すわけにはいかないため、それで納得したのだという。
あの時のジェードとビアンカの話はダンス曲が流れていたことや始まってすぐにスカーレットとクラレットがそばに来たため、皆一歩も二歩も後退し遠巻きにして見守っていた。
そのため細かい内容は殆ど聞こえていなかったようで混乱は起きなかった。
そしてパーティーの途中でエスコートの手を離れることになるためスカーレットは前もってグレイに簡単に事情を説明していた。
大事にしたくないので任せてくれるよう頼んだスカーレットに、グレイは「祝賀パーティーを思い出すな」と苦笑し、パーティーの方は任せてくれと言った。
スカーレットはグレイのその言葉で、キャナリィは『甘い』のではなく、何かしらの事情があったのではと察することとなった。
ビアンカが何をしたのか知らぬ侯爵はクラレット同様現在の状況をスカーレットに説明し、その場で話を断ってきた。
スカーレットはクラレットと同じ理由で断る判断をした侯爵を信用できると判断した。
ビアンカがその商品をメイズ伯爵家の商会に注文するようスカーレットに進言したこと、その送り先が王太子殿下であったことを伝え、ビアンカの処遇は侯爵に一任すると伝えたのだ。
侯爵は深く謝罪し、会場の一室にいたビアンカを連れ帰った。
侯爵はビアンカが昔からジェードを想っていたことは知っていた。しかしここまで執着しているとは思ってもみなかったらしい。
商会同士競合することはある。
今回はビアンカが具体的に何をしたのかが学生たちに伝わらなかったため、ルーベルム侯爵家の商会に直接的な被害こそはなかったが、私情に流されて他者を陥れるために、商会員や職人を犠牲にしようとしたビアンカをこのまま跡継ぎにするわけにはいかない。
今回はクラレットが断り現状を話したことで事なきを得たが、万が一誰かが依頼を受けていた場合、ビアンカが想像していた通りのことが起こっていたはずだ。
それによって様々な人々に被害が及び路頭に迷う者たちも出たかもしれないのだ。それを分かっていてクラレットを陥れようとしたのか。侯爵にそう聞かれたビアンカは、何も答えられなかったのだという。
ビアンカはそのまま廃嫡。修道院に送られたそうだ。
旅立つその時まで、ビアンカは泣き続けていたのだという。
こうして、目論み通りジェードはビアンカを視界から消すことに成功した。
──が、
「視界から消すって・・・まぁ、表現がアレだけれども、それであれば貴方がビアンカに言葉を掛ける必要もなかったのではなくて?」
後日、商談だと言ってジェードを離宮に呼びつけたスカーレットは疑問に思っていたことを尋ねた。
王太子妃を目指すことに決めたスカーレットは学園の生徒たち──次代の貴族家を担う者たちに見くびられるわけにはいかないためあのような形でビアンカを見せしめとして利用したが、ビアンカを物理的に遠ざけるだけであれば、ジェードがわざわざビアンカと話をする必要はなかったはずだ。
スカーレットはあの時のジェードとビアンカの会話をクラレットと共に全て聞いていた。
確かにジェードに対するビアンカの執着は聞いていて頭がおかしいのかと思うほどではあった。
しかし、ジェードもスカーレットがルーベルム侯爵に話をすることでビアンカが廃嫡となり、王都から物理的に遠ざけられるだろうことは容易に想像できていたはずなのだ。
そんなことを聞くためにわざわざ呼び出したのかとジェードは思ったが、相手は未来の王太子妃だ。
これからの付き合いもあるし、ビアンカを排除するために一役買ってもらった──ジェードがパーティーに参加するため学園長に一言添えてもらったのだ──恩も、多分ある。
あの日──スカーレットと話をするために公園にやってきたジェードはもうひとつ、スカーレットに頼みごとをしたのだ。
今後のためにもビアンカに利用されたままでは示しがつかないだろうと。
そしてビアンカに制裁を加えるのであれば、その時ついでに自分にビアンカと話をさせてほしいと。
ジェードが直接出向くとビアンカを喜ばせるだけだろうから偶然を装って・・・。
確かにスカーレットはビアンカにはあの二つの品を提示した理由を聞かなければならないとは思っていたが、ジェードにビアンカの名前は告げていないのだ。
スカーレットはどうも彼の手の内にいる──全てを見透かされているようでなんだか腹が立ったのだ。
だからスカーレットはあの時クラレットに声を掛けた。
何かしらジェードに意趣返しをしようと考えてのことだったが、まさかあそこまでジェードがクラレットに執着──いや、溺愛と言った方が良いのか?──しているとは思わず、不味い話を聞かせてしまったかと考えていた。
しかしジェードは何も気にしていない様子。
まぁ、振り向き様にクラレットが目の前にいるのを見つけた時の、ジェードのあの驚愕した顔を見ることが出来たのだから、少しは溜飲が下がると言うものだ。
「彼女と話したのは勿論メイズ伯爵家の商会に手を出そうとしたことへの制裁ですよ。
彼女が私に執着していることは知っていたので一番の罰になるのではないかと思いまして。
それに──ビアンカのお陰でクラレットとの茶会の予定がひとつ消えたんですよね」
──それはわたくしがルーベルム侯爵令嬢に薦められ商談があるとメイズ伯爵令嬢を離宮に呼んだ、あの日のことかしら・・・
絶対に後者が直接的な理由に違いない。
商会に手を出したことへの制裁はついでだ。
──完全なる私怨。
そういえばこの男は婚約者との時間を奪われることを嫌うのだったわね。
大切に想われているのだと羨ましいと思ったこともあったがこれでは──スカーレットはクラレットに少し同情した。
★
跡継ぎを失ったルーベルム侯爵家の今後だが、現在商会で働いているビアンカの従姉に当たる令嬢を養女とし、ビアンカの元婚約者の令息と婚約させ、共に跡を継がせることにしたそうだ。
後日ルーベルム侯爵が訪れメイズ伯爵に謝罪し、そう説明したそうだ。
本来ならば、王族を謀ったビアンカがその程度の罰で許されることはない。
しかし、別途話を聞いたスカーレットもこの国の王太子妃を狙う身として、国内二位の商会を留学中に潰すわけにはいかないため、それで納得したのだという。
あの時のジェードとビアンカの話はダンス曲が流れていたことや始まってすぐにスカーレットとクラレットがそばに来たため、皆一歩も二歩も後退し遠巻きにして見守っていた。
そのため細かい内容は殆ど聞こえていなかったようで混乱は起きなかった。
そしてパーティーの途中でエスコートの手を離れることになるためスカーレットは前もってグレイに簡単に事情を説明していた。
大事にしたくないので任せてくれるよう頼んだスカーレットに、グレイは「祝賀パーティーを思い出すな」と苦笑し、パーティーの方は任せてくれと言った。
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