【完結】で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?

Debby

文字の大きさ
14 / 17

14 嫌がらせには、嫌がらせで

しおりを挟む
「カーマイン家と言えども・・・いえ、だからこそ直前に留学先を教えられることなどありえません。前もって行く先の国のルールやマナーを学んでおくのは当然のこと。ならば何かの意図があって急遽この国にやって来たのは明白」

──ふふ。私、ストロベリー様はシアン様を追って来られたのかと最初はかなり警戒致しましたのよと、キャナリィは美しく微笑んだ。

 なのにストロベリーはシアンに接触するわけでもなく、男装した姿でキャナリィの所に来ては、隣でお茶を飲む姿を観察したり色々質問をしたり、二人きりでと買い物に誘い、何の参考にするのか刺繍入りのハンカチを欲しがる始末。

「お陰でかなりの方に不貞だとひどい誤解されましたわ。
 しかしご本人が秘密にしているかも知れないことを誤解を解くためとはいえ私が皆様に申し上げるわけにはいかないではありませんか。」

 嘘だなとクラレットは思った。
 勝手に秘密(にしているかもしれないこと)を明かすわけにはいかなかったというのは本当だろうが、シアンにさえ誤解されていなければ、有象無象に誤解されようがキャナリィが気にするわけがない。

 クラレットがそんなことを考えていた時、キャナリィが言った。

「これが嫌がらせ以外のなんだとおっしゃるの?」と。

 どうやらキャナリィは事実を言えなかったことでこんなことになってしまったローズを助けるため、今回の外交問題をストロベリーの『嫌がらせ』と言う形で強引に幕引きするつもりらしい。──王太子殿下が卒業された後だから出来る荒業だろう。
 先程、自分から「私は女」だと口にしようとしていたことだし、それくらいの瑕疵はストロベリーに背負ってもらっても良いと判断したらしい。

 そんな判断をしたキャナリィを前回同様世間は甘いと判断するかもしれないが、皆外交問題は避けたいだろうし、なによりシアンがキャナリィを見て愛おしそうに微笑んでいるから良しとする。世間がどう思おうと、彼がキャナリィを守ってくれるはずだから。

「い、嫌がらせ・・・」

 そう、口にするロベリーを一瞥したキャナリィは、クラレットを呼ぶと「このままではいけないわね。ストロベリー様にお着替えを──」と指示を出した。

「かしこまりましたわ。キャナ様。ではカーマイン様、私について来て頂けますか?」

 クラレットがロベリーを先導して会場を後にするのを見届けると、キャナリィはローズへと声を掛けた。

「ピルスナー様」

 ローズは肩をビクリと震わせた。





 キャナリィとシアンは給仕にその場の片付けを命じると。パーティーを再開させた。
 先程起きたあまりにもショッキングな出来事にはじめは皆ソワソワしていたが、時間が経つにつれ屋外という解放的な場の雰囲気にも助けられ、新入生もそれぞれ楽しめている様だった。






 汚れた格好のままあの場に留まるわけにはいかなかったのでクラレットについては来たが──ロベリーは着替えなど持ってきてはいない。

「あの、メイズ伯爵令嬢・・・私は着替えを持ってきてはいないのだけれど──」

 先を行くクラレットに声を掛けるが返事はない。
 そのまま歩き続けると、ある部屋に到着し、中に入るように促された。
 中に入ったロベリーはそこにいた意外な人物に、驚きのあまり声を上げた。

「あ、あなたは・・・」

「カーマイン様、お久しぶりでございます。その節は当店をご利用いただきありがとうございました」

 そこにいたのは、あの日キャナリィと出掛けた商会の支配人だった。

「ロベリー・カーマイン様。いえ、ストロベリー・カーマイン様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

「あなたのご実家の商会でしたか。──ではあなたも私の事をご存知だったわけなのですね」

 ストロベリーのこの問いにはさすがのクラレットも無言を貫くわけにはいかなかった。──クラレットはキャナリィに『嫌がらせ』をしたロベリーに怒りを覚えているのだ。

「知っていたのかと言われるとそうなのですが、正確に言うとあなたが来店される前から知っておりました。ですのであの日、支配人以外に男性の従業員はいなかった筈です」

 そういえば男性用の衣料を扱っているにもかかわらず、あの日男性の従業員を見なかった。
 男性客の採寸の際、女性従業員だけでなく男性従業員を数名配置するのは当たり前のことなのにと不思議に思ったことを思い出した。

「勿論シアン様もはじめからご存知だったと思います。あの方はご友人とはいえキャナ様が男性の名を呼ぶことを許すとは思えませんもの」

 そこへ大きな箱を抱えた女性従業員が入ってきた。

「キャナ様からの伝言です。『嫌がらせには、嫌がらせで返す主義ですの』だそうです」

 キャナ様がいつからそのような主義になったかは存じ上げませんがと、あまり表情の動かないクラレットが愉しそうに目を細めたのを見て、ストロベリーは嫌な予感がした。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

諦めていた自由を手に入れた令嬢

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。 これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。 実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。 自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。

寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるユーリアは、王国の王太子と婚約していた。 しかしある時彼は、ユーリアの侍女だった女性とともに失踪する。彼らは複雑な事情がある王国を捨てて、他国へと渡ったのだ。 そこユーリアは、第二王子であるリオレスと婚約することになった。 兄と違い王子としての使命に燃える彼とともに、ユーリアは王国を導いていくことになったのだ。 それからしばらくして、王太子が国へと戻ってきた。 他国で上手くいかなかった彼は、自国に戻ることを選んだのだ。 そんな彼に対して、ユーリアとリオレスは言い渡す。最早この国に、王太子の居場所などないと。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

王家の血を引く私との婚約破棄を今更後悔しても遅いですよ。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の養子であるラナーシアは、婚約者となった伯爵令息ハウガスから婚約破棄を告げられる。 彼女は伯爵家の血を引くものの父親がわからなかった。ハウガスはそれを理由にラナーシアを糾弾し罵倒してきたのである。 しかしその後日、ラナーシアの出自が判明することになった。 ラナーシアは国王の弟の子供であったのだ。彼女の父は王位争いの最中に亡くなっており、それに巻き込まれることを危惧して周囲の者達はその出自を伏せていたのである。 ラナーシアは、国王の取り計らいで正式に王家の血を引く者とされた。彼女は社交界において、とても大きな力を持つことになったのだ。 そんな彼女に、ハウガスはある時懇願してきた。 自分の判断は誤りであった、再び自分と婚約して欲しいと。 だがラナーシアにそれを受け入れる義理などなかった。 彼女は元婚約者からの提案を、端的に切り捨てるのであった。

処理中です...