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13 知っていたの!?
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「きゃぁ!」
貴族令嬢がグラスの中身を自身より身分が上の者に向かって放つ。
物語などでは良くあるシチュエーションだが、現実ではなかなかその様なことが起こることは無い。幾人かの令嬢が驚いて小さな悲鳴を上げた。
シアンが咄嗟にキャナリィを自身の腕に抱き込むが、勢いよく放たれたグラスの中身を全て避けきれるとは思えなかった。しかし、結果としてキャナリィは無事だった。
何故ならキャナリィの目前には彼女を守るように立ちはだかり、代わりに被った飲み物の滴を前髪からを滴らせるロベリーがいたからだ。服の汚れが広がることを気にすることもなく前髪を掻き上げたロベリーは髪が濡れていることもあってか、いつもと違う色香が感じられた。
性を感じさせず、どこか中性的な彼はまるで物語に出てくる姫を守る騎士のよう──
緊迫した空気の中、取り囲む令嬢の幾人かがロベリーを見て頬を染め、「ほぅ」とため息をついた。
「何故・・・」
そんなロベリーを見たローズは小さくつぶやいた。
「やはりロベリー様は、ウィスタリア侯爵令嬢のことを──」
その言葉を皮切りに、夢が覚めたかのように周囲が騒ぎ出す。
それもそのはず、伯爵家の者が自国の侯爵家の者に飲み物をかけるのも問題だが、結果としてその飲み物は他国の公爵家の後継にかけた形となってしまった。これは王家を巻き込んだ外交問題に発展してもおかしくはない。何故なら公爵家には高頻度で王族が降嫁していたり、臣籍降下して起こした家であることが多く──高確率で王家に近しい血縁であるためだ。
「違っ!誤解だ。私はおん──」
ローズの言葉にロベリーが答えようとするも、その声は生徒のざわめきに掻き消された。
シアンの腕の中で身じろぎし、その腕から自由になったキャナリィは、ロベリーの背から数歩出た。
「ピルスナー伯爵令嬢。王家を巻き込んだ外交問題を起こした自覚はありますか?」
「・・・はい」
正気に戻り青くなったローズは一時の感情にまかせて行動してしまったことをひどく後悔した。
キャナリィがロベリーの肩を持ち耳元で何かを囁いた──その姿を見たとき、一瞬頭の中が真っ白になってしまったのだ。
ローズはどうなってしまうのか。
「私は構わな──」
──構わない。
ロベリーがそう言いかけると、キャナリィがピシャリとそれをはねつけた。
「そういう問題ではありません」
静かになった会場にロベリーとキャナリィの言葉が響く。
皆が静かに息を飲み、続くキャナリィの言葉を待つ。
しかし、キャナリィは皆に悟られぬようにひとつため息をつくと、自身を守り濡れてしまったロベリーに向き直り、耳を疑うようなことを言い放った。
「で、まずはあなたが私に嫌がらせをする理由をお聞かせいだいても宜しいかしら?
──ロベリー・・・いえ、ストロベリー・カーマイン公爵令嬢」
「「「「え?えええええーーーーーっ!!!」」」」
一瞬の静寂の後、予測のつかなかった展開に驚きの声が上がった。
「れ、令嬢・・・?」
呆然自失になっているローズの呟きが会場の喧騒に吸い込まれていく。
それはそうだろう。
ローズは女性に懸想した挙げ句、取り返しのつかない外交問題を起こしてしまったことになるのだ。
「知っていたの!?」
ストロベリーはキャナリィの顔をみると、ばつが悪そうに尋ねた。
「勿論ですわ。カーマイン公爵家に嫡子は一人。それも令嬢の筈ですのに、その方が男装で現れれば、人に言えない何かがあると思いますわよね。
大体、男性であれば私がシアン様抜きであなたと行動を共にする筈ないではありませんか」
確かにその通りだと、噂を信じていた生徒たちは思った。
貴族令嬢がグラスの中身を自身より身分が上の者に向かって放つ。
物語などでは良くあるシチュエーションだが、現実ではなかなかその様なことが起こることは無い。幾人かの令嬢が驚いて小さな悲鳴を上げた。
シアンが咄嗟にキャナリィを自身の腕に抱き込むが、勢いよく放たれたグラスの中身を全て避けきれるとは思えなかった。しかし、結果としてキャナリィは無事だった。
何故ならキャナリィの目前には彼女を守るように立ちはだかり、代わりに被った飲み物の滴を前髪からを滴らせるロベリーがいたからだ。服の汚れが広がることを気にすることもなく前髪を掻き上げたロベリーは髪が濡れていることもあってか、いつもと違う色香が感じられた。
性を感じさせず、どこか中性的な彼はまるで物語に出てくる姫を守る騎士のよう──
緊迫した空気の中、取り囲む令嬢の幾人かがロベリーを見て頬を染め、「ほぅ」とため息をついた。
「何故・・・」
そんなロベリーを見たローズは小さくつぶやいた。
「やはりロベリー様は、ウィスタリア侯爵令嬢のことを──」
その言葉を皮切りに、夢が覚めたかのように周囲が騒ぎ出す。
それもそのはず、伯爵家の者が自国の侯爵家の者に飲み物をかけるのも問題だが、結果としてその飲み物は他国の公爵家の後継にかけた形となってしまった。これは王家を巻き込んだ外交問題に発展してもおかしくはない。何故なら公爵家には高頻度で王族が降嫁していたり、臣籍降下して起こした家であることが多く──高確率で王家に近しい血縁であるためだ。
「違っ!誤解だ。私はおん──」
ローズの言葉にロベリーが答えようとするも、その声は生徒のざわめきに掻き消された。
シアンの腕の中で身じろぎし、その腕から自由になったキャナリィは、ロベリーの背から数歩出た。
「ピルスナー伯爵令嬢。王家を巻き込んだ外交問題を起こした自覚はありますか?」
「・・・はい」
正気に戻り青くなったローズは一時の感情にまかせて行動してしまったことをひどく後悔した。
キャナリィがロベリーの肩を持ち耳元で何かを囁いた──その姿を見たとき、一瞬頭の中が真っ白になってしまったのだ。
ローズはどうなってしまうのか。
「私は構わな──」
──構わない。
ロベリーがそう言いかけると、キャナリィがピシャリとそれをはねつけた。
「そういう問題ではありません」
静かになった会場にロベリーとキャナリィの言葉が響く。
皆が静かに息を飲み、続くキャナリィの言葉を待つ。
しかし、キャナリィは皆に悟られぬようにひとつため息をつくと、自身を守り濡れてしまったロベリーに向き直り、耳を疑うようなことを言い放った。
「で、まずはあなたが私に嫌がらせをする理由をお聞かせいだいても宜しいかしら?
──ロベリー・・・いえ、ストロベリー・カーマイン公爵令嬢」
「「「「え?えええええーーーーーっ!!!」」」」
一瞬の静寂の後、予測のつかなかった展開に驚きの声が上がった。
「れ、令嬢・・・?」
呆然自失になっているローズの呟きが会場の喧騒に吸い込まれていく。
それはそうだろう。
ローズは女性に懸想した挙げ句、取り返しのつかない外交問題を起こしてしまったことになるのだ。
「知っていたの!?」
ストロベリーはキャナリィの顔をみると、ばつが悪そうに尋ねた。
「勿論ですわ。カーマイン公爵家に嫡子は一人。それも令嬢の筈ですのに、その方が男装で現れれば、人に言えない何かがあると思いますわよね。
大体、男性であれば私がシアン様抜きであなたと行動を共にする筈ないではありませんか」
確かにその通りだと、噂を信じていた生徒たちは思った。
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