8 / 27
第1章 表
8 レックス様と──
しおりを挟む
国内で大規模な水害が発生した。
ある領地が今までにない長雨に見舞われ、想定外の水量となってしまったため十分な対策をしていたにもかかわらず広範囲で災害が起きてしまったのだ。
災害が起こった地域には怪我人も多く病気も蔓延しやすくなるため、教会から『治癒』と『浄化』両方の神聖魔法の使い手が複数人派遣されることになっている。
「困っている人が大勢いるのでしょう?私に行かせてください!」
あの事故の後、カイエは学園のそばにある教会に身を移した。教会にも図書室があり一般には公開されていない蔵書も多いと聞き、神聖魔法の使い手は教会に住まなくてはならないと言われたカイエは二つ返事で了承した。
丁度学園は夏の長期休暇に入ったが、領地に帰ることが出来ない代わりに教会から頼まれる治癒の仕事をこなす以外は気のすむまま読書をして過ごして良いとのことだった。そんな折今までにない災害が発生したのだ。行かない理由はない。
「しかし災害に見舞われた地域は治安も悪くなる。君の身に何かあれば──」
「フォッセン公爵領なのでしょう?親友の家なんです。行かせてくれないというのなら金輪際神には祈りません!」
フォッセン公爵領はプレッサの実家だ。
人助けのためとはいえ「魔法使用禁止」の学園内で魔法を使ったカイエが規則を破ったことには変わりはない。あの日カイエの退学が決定した。
その決定が覆ったのは、助けた令嬢や模擬試合をしていた二人の実家と教会、そして公爵家のおかげと聞いている。
最近ゆっくりプレッサとは話せていないが、公爵家とはプレッサの実家なのではないかと思っている。
カイエに詰め寄られ、この教会の最高権力者の司教がどうしたものかと考えていると、ノックと共に手紙らしきものを手にした司祭が部屋に入ってきた。
「司教様、王城から──」
司教は「急ぎの手紙のようだ」とカイエから逃げるように席を立つと、そそくさと司祭の方へ移動した。そして大きく深呼吸をして手紙を受け取り封を開けると、そこには──
「カイエ・リーエング男爵令嬢。あなたをフォッセン公爵領に向かわせるようにとのことです」
ほっとしたのか、何も起こらなければよいという心配からか、今度は大きなため息をついた。
カイエは望んだ通りに事が運んだことに満足してにっこりと笑う。司祭は王城からと言っていた。もしかしたら何も言わずともカイエの気持ちを汲んでくれたレックス様の後押しがあったかもしれない。
プレッサの言う通り自分は治癒の神聖魔法に目覚めた。ならば浄化の神聖魔法にも目覚めるはずだ。
私が行けばたくさんの困った人を救うことが出来る。
それにプレッサの言うことが本当であれば、そうなることでレックス様と──。
カイエがフォッセン公爵領に向かってしばらくした後、今度は歴史上二人目となる『治癒』と『浄化』二つの神聖魔法の使い手が誕生したという話題が国中を席巻した。
ある領地が今までにない長雨に見舞われ、想定外の水量となってしまったため十分な対策をしていたにもかかわらず広範囲で災害が起きてしまったのだ。
災害が起こった地域には怪我人も多く病気も蔓延しやすくなるため、教会から『治癒』と『浄化』両方の神聖魔法の使い手が複数人派遣されることになっている。
「困っている人が大勢いるのでしょう?私に行かせてください!」
あの事故の後、カイエは学園のそばにある教会に身を移した。教会にも図書室があり一般には公開されていない蔵書も多いと聞き、神聖魔法の使い手は教会に住まなくてはならないと言われたカイエは二つ返事で了承した。
丁度学園は夏の長期休暇に入ったが、領地に帰ることが出来ない代わりに教会から頼まれる治癒の仕事をこなす以外は気のすむまま読書をして過ごして良いとのことだった。そんな折今までにない災害が発生したのだ。行かない理由はない。
「しかし災害に見舞われた地域は治安も悪くなる。君の身に何かあれば──」
「フォッセン公爵領なのでしょう?親友の家なんです。行かせてくれないというのなら金輪際神には祈りません!」
フォッセン公爵領はプレッサの実家だ。
人助けのためとはいえ「魔法使用禁止」の学園内で魔法を使ったカイエが規則を破ったことには変わりはない。あの日カイエの退学が決定した。
その決定が覆ったのは、助けた令嬢や模擬試合をしていた二人の実家と教会、そして公爵家のおかげと聞いている。
最近ゆっくりプレッサとは話せていないが、公爵家とはプレッサの実家なのではないかと思っている。
カイエに詰め寄られ、この教会の最高権力者の司教がどうしたものかと考えていると、ノックと共に手紙らしきものを手にした司祭が部屋に入ってきた。
「司教様、王城から──」
司教は「急ぎの手紙のようだ」とカイエから逃げるように席を立つと、そそくさと司祭の方へ移動した。そして大きく深呼吸をして手紙を受け取り封を開けると、そこには──
「カイエ・リーエング男爵令嬢。あなたをフォッセン公爵領に向かわせるようにとのことです」
ほっとしたのか、何も起こらなければよいという心配からか、今度は大きなため息をついた。
カイエは望んだ通りに事が運んだことに満足してにっこりと笑う。司祭は王城からと言っていた。もしかしたら何も言わずともカイエの気持ちを汲んでくれたレックス様の後押しがあったかもしれない。
プレッサの言う通り自分は治癒の神聖魔法に目覚めた。ならば浄化の神聖魔法にも目覚めるはずだ。
私が行けばたくさんの困った人を救うことが出来る。
それにプレッサの言うことが本当であれば、そうなることでレックス様と──。
カイエがフォッセン公爵領に向かってしばらくした後、今度は歴史上二人目となる『治癒』と『浄化』二つの神聖魔法の使い手が誕生したという話題が国中を席巻した。
40
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました
鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。
絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。
「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」
手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。
新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。
そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。
過去に傷ついた令嬢が、
隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。
――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。
辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます
放浪人
恋愛
「何の取り柄もない姉はいらない。代わりに美しい妹をよこせ」
没落伯爵令嬢のアリアは、婚約者からそう告げられ、借金のカタに最愛の妹を奪われそうになる。 絶望の中、彼女が頼ったのは『氷の公爵』と恐れられる冷徹な男、クラウスだった。
「私の命、能力、生涯すべてを差し上げます。だから金を貸してください!」
妹を守るため、悪魔のような公爵と契約を結んだアリア。 彼女に課せられたのは、地獄のような淑女教育と、危険な陰謀が渦巻く社交界への潜入だった。 しかし、アリアは持ち前の『瞬間記憶能力』と『度胸』を武器に覚醒する。
自分を捨てた元婚約者を論破して地獄へ叩き落とし、意地悪なライバル令嬢を返り討ちにし、やがては国の危機さえも救う『国一番の淑女』へと駆け上がっていく!
一方、冷酷だと思われていた公爵は、泥の中でも強く咲くアリアの姿に心を奪われ――? 「お前がいない世界など不要だ」 契約から始まった関係が、やがて国中を巻き込む極上の溺愛へと変わる。
地味で無能と呼ばれた令嬢が、最強の旦那様と幸せを掴み取る、痛快・大逆転シンデレラストーリー!
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私の絶品ご飯に夢中なようです〜
咲月ねむと
恋愛
「君との婚約を破棄する!」
料理好きの日本人だった前世の記憶を持つ公爵令嬢レティシアは、ある日、王太子から婚約破棄を言い渡される。
身に覚えのない罪を着せられ、辺境のボロ別荘へ追放……と思いきや、レティシアは内心ガッツポーズ!
「これで堅苦しい妃教育から解放される! 今日から料理三昧よ!」
彼女は念願だったカフェ『陽だまり亭』をオープン。
前世のレシピと、本人無自覚の『魔力回復スパイス』たっぷりの手料理は、疲れた冒険者や町の人々を瞬く間に虜にしていく。
そんな店に現れたのは、この地を治める「氷の騎士」こと辺境伯ジークフリート。
冷徹で恐ろしいと噂される彼だったが、レティシアの作った唐揚げやプリンを食べた瞬間、その氷の表情が溶け出して――?
「……美味い。この味を、一生求めていた気がする」
(ただの定食なんですけど、大げさすぎません?)
強面だけど実は甘党な辺境伯様に胃袋を掴んで求婚され、拾った白い子犬には懐かれ、レティシアの辺境ライフは毎日がお祭り騒ぎ!
一方、彼女を捨てた王太子と自称聖女は、レティシアの加護が消えたことでご飯が不味くなり、不幸のどん底へ。
「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、もう知りません。
私は最強の旦那様と、温かいご飯を食べて幸せになりますので。
※本作は小説家になろう様でも掲載しています。ちなみに以前投稿していた作品のリメイクにもなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる