【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい

Debby

文字の大きさ
13 / 27
第2章 裏

13 未知の力

しおりを挟む
 もしかしたらフィオレは、自らの身体を張って未知の力の確認をするなんて無茶をしたレックスに少し怒っているのかもしれない。
 
 フィオレには学園で魔法を使われているとは考え難い、しかし魔法による精神干渉としか思えないと、未知の力のことは話していた。
 心配してくれているのは分かるがこのまま放っておくわけにはいかず、その力を確認できるのがレックスだけであるのなら率先して解明のために動くべきだろう。

 フィオレは面倒なことに煩わされることを嫌うが、それは決して怠惰だからではない。
 国や公務に関わる問題であればが真摯で労力を惜しまない性分だ。発生した問題を精査し、どの問題には手を出し、どの問題には無関心を貫くかを、きちんと線引きしているだけなのだ。

 そして今回の問題は無関心を貫くという結論に達したらしい。
 未知の力が働いているのだ。フィオレにまで未知の力の影響があっては大変だ。安全面から言ってもカイエには近付くべきではない。

 ただ、フィオレの自分に対する気持ちを疑ったことはないけれど、その怒りの原因がカイエに対するレックスの言動に嫉妬してくれているからであればいいと思うレックスだった。





 ある日図書館での調べものを終えて生徒会室に戻っている途中、先頭を歩いていたエディが令嬢にぶつかった。
 普通、曲がり角を確認もせずに鋭角に曲がってくる令嬢などいない。
 令息は内回り、令嬢は優雅に大回りしてくるのが暗黙のルールだ。
 ぶつかったエディは咄嗟に令嬢が倒れないように片手で身体を支えたようだが、意外と重量がある令嬢だったのか、エディが更に腕に力を込めたのがわかった。
 本来ならそれは学園内での護衛であるフリンツの役目なのだが現在役に立たないため、エディが学園内の護衛をしていた。
 エディは護衛が入れないような場所にも同行できるように生徒会役員をしているだけで、本来の専属護衛は彼である。しかし王太子であるレックスが護衛を連れ歩かないのは不自然であるため名目上、同級生で剣の腕の立つフリンツがその任に就いたのだ。

 エディの腕の中を見ると、手に持った複数の本と書類を落とすまいと必死に抱き込んでいるカイエだった。転倒を覚悟してか、ギュッと目は閉じられている。

「本が好きなのはわかったが、令嬢が怪我をしては人生を左右してしまう事態になりかねないよ」

 カイエを抱き留めたまま、エディが呆れたように言う。
 その声に目を恐る恐る開いたカイエはみるみるうちに羞恥で顔を真っ赤に染めた。

「あ、失礼。令嬢の身体に許可なく触れて申し訳なかった」

 その様子に気付いたエディは、カイエを支えていた手をパッと離すとそう言った。カイエもハッとしてお礼と詫びを口にした。

「い、いえ、私こそ前をよく見ていなくてすみません・・・助けていただいてありがとうございます」

 それにしても普通に令嬢が持ち歩く本の量ではない。
 レックスがそのことをカイエに尋ねると講師に頼まれ図書室まで運んでいるのだという。

(令嬢一人に頼むことだろうか)

 フリンツの様子やカイエを前にしたときのレックスの言動も含め、ここでも見えない何かの意図を感じたレックスだったが、とりあえずか弱い令嬢にこのまま持たせておくものではないとカイエの腕の中の本を受け取った。
 レックスがカイエの本を手に取ると、フリンツが無言で手を差し出してきた。カイエの荷物は自分が持つとでも言いたいのだろうか。更にカイエを抱き留めたエディを睨んでいるのは気のせいか。
 そもそも護衛が荷物で手をふさいでどうするつもりなのか・・・。
 レックスは呆れ、フリンツの手に気付かないふりをして本をイベルノとジャザへ渡すと、再び図書館への道を戻っていった。
 この時カイエの手の中にある書類も回収しておけばカイエを伴って歩くこともなかったのだが、何故か誰もそのことに気付けないでいた。



 カイエに出会ってから生徒会の仕事が滞るようになった。
 そのため授業以外の時間のほとんどを生徒会室で過ごすことになったのだが、そんな日々が続くと返って仕事の効率も悪くなるものだ。
 一同で話し合い、せめて昼食だけでも外で食べようという話になった。

 しかしそこに令嬢たちを避けるようにテイクアウトのランチを持ってカイエがやってきて、フリンツが毎回声を掛けるため一緒に食事を摂るようになってしまったのだ。
 王太子が無防備に屋外で昼食を摂ることやその場に関係者以外のものを同席させるなどもっての外の行為ではあったが側近はなぜかそのことに苦言を呈すことは出来ず、何事もないように行動を共にするのが精いっぱいであった。
 彼らもレックス同様未知の力の影響を受けているのかもしれない。昼食をとる場所を変えれば良いという簡単な考えに至る者すらいなかったのだから。

 こうして学園を賑わせていたカイエに関する噂は「カイエ・リーエング男爵令嬢という美しい令嬢が入学した」から「カイエ・リーエング男爵令嬢が生徒会役員を侍らせている」という耳を疑うような内容へと変化したのであった。





 ある日フィオレが友人たちと学園に併設されたレストランに向かっていると、余程急いでいるのか廊下を小走りに行く女子生徒が目に入った。

「そこのあなた。淑女として、どんなに急いでいても廊下をそのように走るものではありませんわ」

 万が一転倒して怪我をしては大変だ。誰かにぶつかって相手に怪我を負わせるようなことがあれば賠償問題にもなる。令嬢に傷が残るということは、令嬢としての人生の終わりを意味するからだ。
 それに走るという行為自体が令嬢がマナーを理解していないことの証明となり、自ら未来を閉ざしてしまう可能性もある。
 学園の規則にこそ謳ってはいないが、貴族社会に身を置いているものならば知っていて・・・守って当然のルールだ。
 しかし、良かれと思って注意をしたにも関わらず件の令嬢はフィオレを睨みつけてきたのだ。そして、フィオレを見ると驚いたように声を上げた。

「あっ・・・」

(──この方は・・・リーエング男爵令嬢?)

 この貴族社会で公爵令嬢であり次期王太子妃であるフィオレを睨みつける者など──いや、人を睨みつける令嬢などいない。さらに顔を見た瞬間に声を上げるなんて失礼なことをする令嬢も。

 フィオレたちとカイエ・・・生徒会役員の婚約者たちと、彼らの真意は分からないがそのひと時を共に過ごすことを許された令嬢──その予期せぬ対面の場に居合わせた者たちは固唾をのんで見守った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」 新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。 「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

処理中です...