【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい

Debby

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第2章 裏

15 わかっているけど腹が立つ

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 迎えた逢瀬お茶会の日。
 案の定、面倒だという顔をしたフィオレがやってきた。
 話題が「カイエ・リーエング男爵令嬢」であることを察しているのだろう。

 レックスの想像通り、フィオレは面倒だと思っていた。
 フィオレとレックスの逢瀬お茶会は少なくとも月二回、多くて週一回設定される。何故かいつも予定の入っていない日をピンポイントで指定してくるため嫌でも断れない。いくら王族婚約者からの誘いでも先約優先・・・なのだが、今まで一度もその機会に恵まれたことはないのだ。

 しかも最近の話題は友人とのお茶会同様「カイエ・リーエング男爵令嬢」である。

 レックスから振られる話題も
「リーエング男爵令嬢といると自分が自分でなくなるようだよ」
「リーエング男爵令嬢といるとつい笑顔になってしまうんだ」
「自分の気持ちに抗えないなんてこと、はじめての経験だよ」
 などといったものばかりだ。

 未知の力だと分かっていても何故か腹が立つ。何があろうとレックスの本意ではないと分かっているから自分の前でカイエの話は振らないでほしい──フィオレはそう思っていたのだが、それは怒りのあまり脳内で割愛しているだけでレックスが言った実際の言葉はこうだ。

「リーエング男爵令嬢といると決められたセリフと動きしかできないんだ。自分が自分でなくなるようだよ。まるで役者になった気分で不快だ」

「リーエング男爵令嬢といると笑いたくもないのについ笑顔になってしまうんだ。全く、強制力があるとはいえどこに笑える要素があるのか甚だ疑問だよ」

「未知の力か何か知らないが、自分の気持ちに抗えないなんてこと、はじめての経験だよ。これまで培ってきたものを全て否定された最低な気分だ」

 レックスは魔法が使えない状況であっても起こる問題に打ち勝てるように、これまでありとあらゆる備えをしてきた。物理的な攻撃毒や剣にも、勿論今回のような精神的な攻撃にも。
 それらが全く通用しない上に、魔法を得意とする辺境伯家の中でも突出した才を持つジャザにも分からないというのだから謎は深まるばかりなのだという。

 それはフィオレも理解している。
 理解してはいるが、納得できないこともある。わかっているけれど気持ちが落ち着かないのだ。
 これがレックスの感じている、自分ではどうにも出来ないことなのだ──未知の力──というのであれば、レックスが難儀しているのもわかる気がした。

 レックスは考えた。学園の網にもかからない精神干渉魔法であれば男爵家には無理だろう。
 どこかの貴族家が背後にいるのだろうか。
 最近フォッセン公爵令嬢と仲良くしているという。ほとんど学園に来ない上に学年にも身分にも差がある彼女と・・・偶然か?しかもフォッセン公爵令嬢はカイエに傾倒しているフリンツの婚約者だ。
 まさか中立派のフォッセン公爵が背後で糸を引いている?
 センエンティ王国の貴族は第一王子派と年の離れた弟──第二王子派と中立派に分かれている。フォッセン公爵は中立派のはずだ。
 これまでもこの件に関しては無関心を貫いていたフィオレたちだが、もし派閥を覆す動きが関係するのだとすれば、自分の婚約者であり第一王子派の筆頭であるグルーク公爵家の令嬢であるフィオレはこの件には絶対に関わるべきではない。

 レックスの中で「フィオレはもうリーエング男爵令嬢には近付かない方が良い」という結論に達した。
 他のメンバーにもそう婚約者と話すように伝えている。

 フィオレもそれに同意した。
 今のところフィオレは生徒会役員とカイエとのアレコレに関わらずにいられているが、カイエのあの様子ではいつ面倒ごとに巻き込まれるか分からない。
 カイエの身も心配だが、先日までの印象では学園に入学するに際し基本的な所作などのマナーは学んではいるのだろうが、貴族のルールは理解していない、いや、理解する気が無いように思えた。
 彼女自身に学ぶ気がなく率先して面倒ごとに飛び込んでいるのであれば、フィオレが彼女のことを気に病んでも仕方がない。何かあった時に怪我をするのはカイエなのだと、気をつけるように忠告もした。
 それに最近はフリンツの婚約者であるプレッサ・フォッセン公爵令嬢と友人関係になったと聞く。ならば彼女に委ねることにしよう。カイエにもフィオレより友人から諭された方が届くであろうと信じて。

 フィオレはレックスの言うとおり、一切かかわらないようにすることに決めた。
 そうすればカイエに婚約者の名を呼ばれるこの腹立だしさも落ち着くだろうか。
 そう思い深く息を吸ったフィオレはレックスの次の言葉で吸っていた息を止めた。

「そうそう、先日リーエング男爵令嬢に手作りのお菓子を貰ったよ」と──。
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