15 / 27
第2章 裏
15 わかっているけど腹が立つ
しおりを挟む
迎えた逢瀬の日。
案の定、面倒だという顔をしたフィオレがやってきた。
話題が「カイエ・リーエング男爵令嬢」であることを察しているのだろう。
レックスの想像通り、フィオレは面倒だと思っていた。
フィオレとレックスの逢瀬は少なくとも月二回、多くて週一回設定される。何故かいつも予定の入っていない日をピンポイントで指定してくるため嫌でも断れない。いくら王族からの誘いでも先約優先・・・なのだが、今まで一度もその機会に恵まれたことはないのだ。
しかも最近の話題は友人とのお茶会同様「カイエ・リーエング男爵令嬢」である。
レックスから振られる話題も
「リーエング男爵令嬢といると自分が自分でなくなるようだよ」
「リーエング男爵令嬢といるとつい笑顔になってしまうんだ」
「自分の気持ちに抗えないなんてこと、はじめての経験だよ」
などといったものばかりだ。
未知の力だと分かっていても何故か腹が立つ。何があろうとレックスの本意ではないと分かっているから自分の前でカイエの話は振らないでほしい──フィオレはそう思っていたのだが、それは怒りのあまり脳内で割愛しているだけでレックスが言った実際の言葉はこうだ。
「リーエング男爵令嬢といると決められたセリフと動きしかできないんだ。自分が自分でなくなるようだよ。まるで役者になった気分で不快だ」
「リーエング男爵令嬢といると笑いたくもないのについ笑顔になってしまうんだ。全く、強制力があるとはいえどこに笑える要素があるのか甚だ疑問だよ」
「未知の力か何か知らないが、自分の気持ちに抗えないなんてこと、はじめての経験だよ。これまで培ってきたものを全て否定された最低な気分だ」
レックスは魔法が使えない状況であっても起こる問題に打ち勝てるように、これまでありとあらゆる備えをしてきた。物理的な攻撃にも、勿論今回のような精神的な攻撃にも。
それらが全く通用しない上に、魔法を得意とする辺境伯家の中でも突出した才を持つジャザにも分からないというのだから謎は深まるばかりなのだという。
それはフィオレも理解している。
理解してはいるが、納得できないこともある。わかっているけれど気持ちが落ち着かないのだ。
これがレックスの感じている、自分ではどうにも出来ないことなのだ──未知の力──というのであれば、レックスが難儀しているのもわかる気がした。
レックスは考えた。学園の網にもかからない精神干渉魔法であれば男爵家には無理だろう。
どこかの貴族家が背後にいるのだろうか。
最近フォッセン公爵令嬢と仲良くしているという。ほとんど学園に来ない上に学年にも身分にも差がある彼女と・・・偶然か?しかもフォッセン公爵令嬢はカイエに傾倒しているフリンツの婚約者だ。
まさか中立派のフォッセン公爵が背後で糸を引いている?
センエンティ王国の貴族は第一王子派と年の離れた弟──第二王子派と中立派に分かれている。フォッセン公爵は中立派のはずだ。
これまでもこの件に関しては無関心を貫いていたフィオレたちだが、もし派閥を覆す動きが関係するのだとすれば、自分の婚約者であり第一王子派の筆頭であるグルーク公爵家の令嬢であるフィオレはこの件には絶対に関わるべきではない。
レックスの中で「フィオレはもうリーエング男爵令嬢には近付かない方が良い」という結論に達した。
他のメンバーにもそう婚約者と話すように伝えている。
フィオレもそれに同意した。
今のところフィオレは生徒会役員とカイエとのアレコレに関わらずにいられているが、カイエのあの様子ではいつ面倒ごとに巻き込まれるか分からない。
カイエの身も心配だが、先日までの印象では学園に入学するに際し基本的な所作などのマナーは学んではいるのだろうが、貴族のルールは理解していない、いや、理解する気が無いように思えた。
彼女自身に学ぶ気がなく率先して面倒ごとに飛び込んでいるのであれば、フィオレが彼女のことを気に病んでも仕方がない。何かあった時に怪我をするのはカイエなのだと、気をつけるように忠告もした。
それに最近はフリンツの婚約者であるプレッサ・フォッセン公爵令嬢と友人関係になったと聞く。ならば彼女に委ねることにしよう。カイエにもフィオレより友人から諭された方が届くであろうと信じて。
フィオレはレックスの言うとおり、一切かかわらないようにすることに決めた。
そうすればカイエに婚約者の名を呼ばれるこの腹立だしさも落ち着くだろうか。
そう思い深く息を吸ったフィオレはレックスの次の言葉で吸っていた息を止めた。
「そうそう、先日リーエング男爵令嬢に手作りのお菓子を貰ったよ」と──。
案の定、面倒だという顔をしたフィオレがやってきた。
話題が「カイエ・リーエング男爵令嬢」であることを察しているのだろう。
レックスの想像通り、フィオレは面倒だと思っていた。
フィオレとレックスの逢瀬は少なくとも月二回、多くて週一回設定される。何故かいつも予定の入っていない日をピンポイントで指定してくるため嫌でも断れない。いくら王族からの誘いでも先約優先・・・なのだが、今まで一度もその機会に恵まれたことはないのだ。
しかも最近の話題は友人とのお茶会同様「カイエ・リーエング男爵令嬢」である。
レックスから振られる話題も
「リーエング男爵令嬢といると自分が自分でなくなるようだよ」
「リーエング男爵令嬢といるとつい笑顔になってしまうんだ」
「自分の気持ちに抗えないなんてこと、はじめての経験だよ」
などといったものばかりだ。
未知の力だと分かっていても何故か腹が立つ。何があろうとレックスの本意ではないと分かっているから自分の前でカイエの話は振らないでほしい──フィオレはそう思っていたのだが、それは怒りのあまり脳内で割愛しているだけでレックスが言った実際の言葉はこうだ。
「リーエング男爵令嬢といると決められたセリフと動きしかできないんだ。自分が自分でなくなるようだよ。まるで役者になった気分で不快だ」
「リーエング男爵令嬢といると笑いたくもないのについ笑顔になってしまうんだ。全く、強制力があるとはいえどこに笑える要素があるのか甚だ疑問だよ」
「未知の力か何か知らないが、自分の気持ちに抗えないなんてこと、はじめての経験だよ。これまで培ってきたものを全て否定された最低な気分だ」
レックスは魔法が使えない状況であっても起こる問題に打ち勝てるように、これまでありとあらゆる備えをしてきた。物理的な攻撃にも、勿論今回のような精神的な攻撃にも。
それらが全く通用しない上に、魔法を得意とする辺境伯家の中でも突出した才を持つジャザにも分からないというのだから謎は深まるばかりなのだという。
それはフィオレも理解している。
理解してはいるが、納得できないこともある。わかっているけれど気持ちが落ち着かないのだ。
これがレックスの感じている、自分ではどうにも出来ないことなのだ──未知の力──というのであれば、レックスが難儀しているのもわかる気がした。
レックスは考えた。学園の網にもかからない精神干渉魔法であれば男爵家には無理だろう。
どこかの貴族家が背後にいるのだろうか。
最近フォッセン公爵令嬢と仲良くしているという。ほとんど学園に来ない上に学年にも身分にも差がある彼女と・・・偶然か?しかもフォッセン公爵令嬢はカイエに傾倒しているフリンツの婚約者だ。
まさか中立派のフォッセン公爵が背後で糸を引いている?
センエンティ王国の貴族は第一王子派と年の離れた弟──第二王子派と中立派に分かれている。フォッセン公爵は中立派のはずだ。
これまでもこの件に関しては無関心を貫いていたフィオレたちだが、もし派閥を覆す動きが関係するのだとすれば、自分の婚約者であり第一王子派の筆頭であるグルーク公爵家の令嬢であるフィオレはこの件には絶対に関わるべきではない。
レックスの中で「フィオレはもうリーエング男爵令嬢には近付かない方が良い」という結論に達した。
他のメンバーにもそう婚約者と話すように伝えている。
フィオレもそれに同意した。
今のところフィオレは生徒会役員とカイエとのアレコレに関わらずにいられているが、カイエのあの様子ではいつ面倒ごとに巻き込まれるか分からない。
カイエの身も心配だが、先日までの印象では学園に入学するに際し基本的な所作などのマナーは学んではいるのだろうが、貴族のルールは理解していない、いや、理解する気が無いように思えた。
彼女自身に学ぶ気がなく率先して面倒ごとに飛び込んでいるのであれば、フィオレが彼女のことを気に病んでも仕方がない。何かあった時に怪我をするのはカイエなのだと、気をつけるように忠告もした。
それに最近はフリンツの婚約者であるプレッサ・フォッセン公爵令嬢と友人関係になったと聞く。ならば彼女に委ねることにしよう。カイエにもフィオレより友人から諭された方が届くであろうと信じて。
フィオレはレックスの言うとおり、一切かかわらないようにすることに決めた。
そうすればカイエに婚約者の名を呼ばれるこの腹立だしさも落ち着くだろうか。
そう思い深く息を吸ったフィオレはレックスの次の言葉で吸っていた息を止めた。
「そうそう、先日リーエング男爵令嬢に手作りのお菓子を貰ったよ」と──。
34
あなたにおすすめの小説
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜
桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。
白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。
それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。
言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました
山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。
生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる