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第2章 裏
16 揺るがない婚約
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「そうそう、先日リーエング男爵令嬢に手作りのお菓子を貰ったよ」──。
レックスがそういうと、流石のフィオレも目を丸くして驚いた。
(ふふ、かわいい)
「彼女は貴族としての所作は学んでいるようだがマナーやルールを軽視しているようだね。皆が受け取った菓子は全て検査に回したけれど、今回は何も出なかったよ」
しかし今回は大丈夫だったとしても次は分からない。
第二王子派の貴族がカイエの菓子をレックスたちが受け取ったことを知ったら次はそれを利用するかもしれない。
今回は食べずに堪えることが出来たが、今後もこのようなことが続けばレックスの身に危険が及ぶ。
そうなればカイエも無事ではいられないだろう。
真犯人が誰であろうと王太子に毒を持ったのはカイエとなり、一族郎党死罪となるだろう。フィオレはそう考え、どうすればカイエにわかってもらえるかを考えはじめた。
何か考え込んでしまったフィオレは心ここに非ずという感じである。自分と一緒にいるときにそれは少し寂しいが、それだけ自分のことを考えてくれているのだと思うと、嬉しくもなる。
こうなったフィオレには言葉が届かないことを見越してレックスは告げる。
「あ、フィオレ、今度騎士科の訓練に私とエディも参加するのだよ。見学に来てほしい」
案の定二つ返事をするフィオレに満足そうに微笑むと、「言質はとったから後はよろしく」とばかりにフィオレが同伴してきた専属侍女の方を見る。フィオレの護衛も兼任している優秀な彼女はきっとフィオレが見学に来るように取り計らってくれるはずだ。
最近また新たな噂が学園を賑わせていた。この国では家族や恋人、婚約者など特別なものにしか名を呼ばせない風習があるというのに、カイエがレックスをはじめとする生徒会役員の名を呼んでいるというものだ。
フィオレたちはその件に関して自身の婚約者に話を聞いているため無関心を貫く。不快感も表には出さず、表面上は心穏やかに過ごす。そんな生徒会役員の婚約者たちの姿が、その噂に拍車をかけた。
カイエに名を呼ばれることを拒まない彼らはそうなのだ。
そのことに苦言も呈さず無関心を貫く婚約者とは上手くいっていないに違いないと。
もちろんこの程度のことでレックスたちの婚約が揺らぐことはない。
騎士科の訓練当日。
訓練場に行くとどこから聞きつけたのか令嬢たちが集まってきていた。
訓練場の周囲には関係者以外訓練場に立ち入れないように、胸の高さほどの木の柵が立てられている。その柵を超えてまで入ってくるような令嬢はいないようだが、騎士科の訓練は危険を伴う。
レックス自身婚約者であるフィオレに声を掛けたくらいだ。気のある令嬢にいいところを見せたいと思う気持ちもわからないでもないが、これほどの人数になるとは想定外だった──。
見学者に全く危険が及ばないという保証はない。今後なにか対策を取った方が良いのか──。レックスがそんなことを考えていると、令嬢の集団の中に見慣れたピンクブロンドが見えた。
堅物のフリンツが満足そうに微笑んでいるところを見ると、彼が誘ったのだろう。
そこへフィオレがエディの婚約者であるファミエ・メットゼル侯爵令嬢を伴ってやってきた。訓練場に群がる令嬢たちを眺め、すでに帰りたいと言わんばかりの表情だ。
いや、実際に表情に出しているわけではないのだが、レックスにはフィオレの心の内が手に取るようにわかる。思わず「ククッ」と声を出して笑ってしまい、エディに呆れたような顔で一瞥されてしまった。
しかし状況が変わった。ファミエがカイエに気付いたようで何か言葉をかけたのだ。
カイエとファミエの周囲だけが静寂に包まれていたが、カイエが何か言葉を発すると周囲の令嬢が驚いたようにカイエを見た。
ファミエは優しい性格の令嬢だ。察するに先日の菓子の件を忠告したに違いない。エディはちゃんと関わらない方が良いと告げたそうなのだが、その優しい性質からカイエの身に危険が及ぶかもしれないと分かった以上黙ってはいられなかったのだろう。
けれどカイエの耳には何を言っても届かない。
内容は不明だが、カイエの口から言葉が発せられ、続いて深々と頭を下げた。
あんなに騒がしかった訓練場の周囲が、カイエの言動によってか誰も何も言えないようでシンとしてしまった。
ふとレックスの視線に気付いたのか、フィオレと視線が絡む。
(確かに来ましたわよ。リーエング男爵令嬢が居るなんて──面倒なことになる前に失礼します)
そんな声が聞こえてきそうな視線に仕方ないなと思う。フィオレとファミエには申し訳ないが、今カイエと関わるのは避けてもらいたい。
レックスに向かって美しいカーテシーをし、立ち去るフィオレを視線で追う。
仕方がない。今度王城で騎士と訓練する際に誘ってみようと考え、レックスはフィオレを見送った。
ふと視線を感じてそちらを向くと、カイエがこちらを見ていた。
彼女は何を思ってか軽く手を振ってきたが、距離があるため未知の力も働かなかったのか、衆目環視の中手を振り返すようなことにならずにすみ、レックスは安心して息をついた。
レックスがそういうと、流石のフィオレも目を丸くして驚いた。
(ふふ、かわいい)
「彼女は貴族としての所作は学んでいるようだがマナーやルールを軽視しているようだね。皆が受け取った菓子は全て検査に回したけれど、今回は何も出なかったよ」
しかし今回は大丈夫だったとしても次は分からない。
第二王子派の貴族がカイエの菓子をレックスたちが受け取ったことを知ったら次はそれを利用するかもしれない。
今回は食べずに堪えることが出来たが、今後もこのようなことが続けばレックスの身に危険が及ぶ。
そうなればカイエも無事ではいられないだろう。
真犯人が誰であろうと王太子に毒を持ったのはカイエとなり、一族郎党死罪となるだろう。フィオレはそう考え、どうすればカイエにわかってもらえるかを考えはじめた。
何か考え込んでしまったフィオレは心ここに非ずという感じである。自分と一緒にいるときにそれは少し寂しいが、それだけ自分のことを考えてくれているのだと思うと、嬉しくもなる。
こうなったフィオレには言葉が届かないことを見越してレックスは告げる。
「あ、フィオレ、今度騎士科の訓練に私とエディも参加するのだよ。見学に来てほしい」
案の定二つ返事をするフィオレに満足そうに微笑むと、「言質はとったから後はよろしく」とばかりにフィオレが同伴してきた専属侍女の方を見る。フィオレの護衛も兼任している優秀な彼女はきっとフィオレが見学に来るように取り計らってくれるはずだ。
最近また新たな噂が学園を賑わせていた。この国では家族や恋人、婚約者など特別なものにしか名を呼ばせない風習があるというのに、カイエがレックスをはじめとする生徒会役員の名を呼んでいるというものだ。
フィオレたちはその件に関して自身の婚約者に話を聞いているため無関心を貫く。不快感も表には出さず、表面上は心穏やかに過ごす。そんな生徒会役員の婚約者たちの姿が、その噂に拍車をかけた。
カイエに名を呼ばれることを拒まない彼らはそうなのだ。
そのことに苦言も呈さず無関心を貫く婚約者とは上手くいっていないに違いないと。
もちろんこの程度のことでレックスたちの婚約が揺らぐことはない。
騎士科の訓練当日。
訓練場に行くとどこから聞きつけたのか令嬢たちが集まってきていた。
訓練場の周囲には関係者以外訓練場に立ち入れないように、胸の高さほどの木の柵が立てられている。その柵を超えてまで入ってくるような令嬢はいないようだが、騎士科の訓練は危険を伴う。
レックス自身婚約者であるフィオレに声を掛けたくらいだ。気のある令嬢にいいところを見せたいと思う気持ちもわからないでもないが、これほどの人数になるとは想定外だった──。
見学者に全く危険が及ばないという保証はない。今後なにか対策を取った方が良いのか──。レックスがそんなことを考えていると、令嬢の集団の中に見慣れたピンクブロンドが見えた。
堅物のフリンツが満足そうに微笑んでいるところを見ると、彼が誘ったのだろう。
そこへフィオレがエディの婚約者であるファミエ・メットゼル侯爵令嬢を伴ってやってきた。訓練場に群がる令嬢たちを眺め、すでに帰りたいと言わんばかりの表情だ。
いや、実際に表情に出しているわけではないのだが、レックスにはフィオレの心の内が手に取るようにわかる。思わず「ククッ」と声を出して笑ってしまい、エディに呆れたような顔で一瞥されてしまった。
しかし状況が変わった。ファミエがカイエに気付いたようで何か言葉をかけたのだ。
カイエとファミエの周囲だけが静寂に包まれていたが、カイエが何か言葉を発すると周囲の令嬢が驚いたようにカイエを見た。
ファミエは優しい性格の令嬢だ。察するに先日の菓子の件を忠告したに違いない。エディはちゃんと関わらない方が良いと告げたそうなのだが、その優しい性質からカイエの身に危険が及ぶかもしれないと分かった以上黙ってはいられなかったのだろう。
けれどカイエの耳には何を言っても届かない。
内容は不明だが、カイエの口から言葉が発せられ、続いて深々と頭を下げた。
あんなに騒がしかった訓練場の周囲が、カイエの言動によってか誰も何も言えないようでシンとしてしまった。
ふとレックスの視線に気付いたのか、フィオレと視線が絡む。
(確かに来ましたわよ。リーエング男爵令嬢が居るなんて──面倒なことになる前に失礼します)
そんな声が聞こえてきそうな視線に仕方ないなと思う。フィオレとファミエには申し訳ないが、今カイエと関わるのは避けてもらいたい。
レックスに向かって美しいカーテシーをし、立ち去るフィオレを視線で追う。
仕方がない。今度王城で騎士と訓練する際に誘ってみようと考え、レックスはフィオレを見送った。
ふと視線を感じてそちらを向くと、カイエがこちらを見ていた。
彼女は何を思ってか軽く手を振ってきたが、距離があるため未知の力も働かなかったのか、衆目環視の中手を振り返すようなことにならずにすみ、レックスは安心して息をついた。
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