【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい

Debby

文字の大きさ
24 / 27
第3章

24 忍び寄る危機

しおりを挟む
 結局サクラの木には何の変化も訪れなかった。

「こ、これは何かの間違いです!私はあなたのために──」

 レックスは冷たい目でカイエを見るだけで何も答えない。
 それでも何かを言い募るあきらめの悪いカイエにため息をつくとレックスは言った。

「君とは「サクラの花が咲いたら」というだったからね」

 これ以上カイエがレックスに近付かないようにとエディが二人の間に入る。勿論カイエの護衛であるフリンツも。

「言ったはずだ。今の状況は病や魔法による影響ではないのだと。私は君の神聖魔法ではサクラに花が咲くはずがないことを知っていた。私が君を選ぶ未来などはじめから有りはしないんだよ」

 そんなことを言われても、ついこの間まで学園では楽しく過ごしていたではないか。胸の中に、確かにその記憶が──思い出があるのだ。

「グルーク公爵令嬢だって・・・」サクラの花を咲かせることは出来ないじゃないですか。

 途中で胸がつまり、言葉が出なくなってしまったが、レックスにはカイエが何を言おうとしたのかは伝わったようだった。

「フィオレとサクラの木は関係ないだろう。君が私とフィオレをどう思っているのかは知らないが、私たちは相思相愛だよ。それに──彼女としているのは君とした約束のように不確かなものじゃない。「婚約」という確かな約束なんだよ」

 静かに涙を流しながら膝をつくカイエにフリンツが寄り添う。

「君は何か思い違いをしている。人には役割があるんだよ。君たち神聖魔法の使い手は災害の現場に赴き、人々の治癒や土地の浄化をしてくれる。だが、災害が起きたときに動くのは君たちだけではない。
 災害により家を失った人の住む場所は?食事は?流された田畑や家屋の復興は?
 王家はもちろん色々な貴族からの手助けである金銭や人員、物資──領地は広い。いつどこに何を、誰を送る?その指示を送るのは?──被害者は君の癒した人たちだけではない。神聖魔法の使い手だって君以外にも派遣されていたはずだ」

(そう、だけれど、私は特別な『物語の主人公』のはずで──)

「君は目の前の困った人を助ける。これまでも、これからも。ルールを無視した行いは困るけれど、それでいい。間違ってはいない。
 君の力がたくさんの人々を救ったことも認めよう。しかし稀有な能力を手に入れたからといって災害を自分ひとりの力で救ったような言い様は傲慢すぎやしないか?
 そういった心持ちのものは私の伴侶となるには相応しくはない。
 まぁ、フィオレ以外を、などとは考えたこともないけどね」

 あの日中庭で言われたのはこういうことだったのかと、カイエはフィオレとの会話を思い出していた。
 カイエは動かない──動けないカイエにレックスは言う。

「君は自分を聖なる乙女だと言ったね・・・「乙女」でないといけないのであれば、次代を産み育てることは出来ないということだろう?元より私の伴侶など無理だったんだ。
 これからも神に仕えるとして私の、生涯教会で祈りを捧げてくれるというのならこんなに心強いことはないよ。しかしそれは強制ではない。勿論誰かと結婚して自身の幸せを追ってくれてもかまわないよ。私にはフィオレが居てくれるからね」

 レックスはチラリとフリンツを見ながら言う。
 その言葉にカイエが小さな声でつぶやいた。

「私は100年前の王妃殿下と同じ魔法を使う聖女。この力を持ってグルーク公爵令嬢を退け王太子妃になると──」

 ──プレッサが言っていたのに。

 その言葉はとても小さくて、生徒会役員にしか届かなかった。


 春はそこまで来ていた。





 カイエの神聖魔法でも効果がなかったことを受け、第二王子派はすっかり鳴りをひそめてしまった。
 万が一この度の画策がばれたら一溜りもないだろう。 
 フォッセン公爵は表だって動くわけには行かないが、それでもプレッサのため中立派の筆頭らしく不自然にならないよう国王にさりげなく進言することにした。

「我が領地を襲った未曾有の水害に今回の平和の象徴でもあるサクラの花の件・・・神聖魔法も効かなかったことで、次代に不安に思った神からの忠告ではないか、そういう国民の噂も聞かれています。その事に対する王の意見をお伺いしたい」

 フォッセン公爵は定例会議の折、国王にそう尋ねた。
 答えようのない質問に国王が明確な回答を言いあぐねたところで、公爵が「第二王子を立てることも念頭に置いては」と進言するつもりだった。

 しかし公爵の目論見通りにことは進まなかった。
 国王が「皆が国を案じていることは分かって入るが、王太子の変更はない」と宣言したのだ。これは秘匿事項に当たるとして宰相や一部の者以外には理由は知らされなかった。

「ただ言えることは植物は冬には皆休眠期に入るであろうということだ。
 私もまだこの通り健在だ。婚姻を結んでもすぐにレックスが即位するわけではない。サクラはいずれ咲くのだと約束しよう。これは民の不安軽減のためにも積極的に広めても良いこととする。
 それにサクラの木は平和の象徴ではあるが平和そのものを測るものではないだろう」

 確かにサクラの花は散ったあと──いや、それよりも前、フォッセン公爵領の水害以降、何かが起こったわけでもない。
 後ろめたい第二王子派が大人しくしていたため、国王がそこまで言うのであれば春まで待とうという結論で会議は幕を閉じた。

 フォッセン公爵は焦っていた。春まで待てばレックスとフィオレの婚姻が成立してしまう。そうなってからでは遅いのだ。第二王子派の連中はつかえない。
 こうなったら──





 ある日フィオレが学園から帰宅していると、人通りのなくなったところで乗っていた馬車が急停車した。

「フィオレ・グルーク公爵令嬢だな。我々と共に来てもらおう。勿論一人でだ」

 馬車の外からは複数人の手練れの気配がした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」 新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。 「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜

桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。 白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。 それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。 言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

断罪された私ですが、気づけば辺境の村で「パン屋の奥さん」扱いされていて、旦那様(公爵)が店番してます

さら
恋愛
王都の社交界で冤罪を着せられ、断罪とともに婚約破棄・追放を言い渡された元公爵令嬢リディア。行き場を失い、辺境の村で倒れた彼女を救ったのは、素性を隠してパン屋を営む寡黙な男・カイだった。 パン作りを手伝ううちに、村人たちは自然とリディアを「パン屋の奥さん」と呼び始める。戸惑いながらも、村人の笑顔や子どもたちの無邪気な声に触れ、リディアの心は少しずつほどけていく。だが、かつての知り合いが王都から現れ、彼女を嘲ることで再び過去の影が迫る。 そのときカイは、ためらうことなく「彼女は俺の妻だ」と庇い立てる。さらに村を襲う盗賊を二人で退けたことで、リディアは初めて「ここにいる意味」を実感する。断罪された悪女ではなく、パンを焼き、笑顔を届ける“私”として。 そして、カイの真実の想いが告げられる。辺境を守り続けた公爵である彼が選んだのは、過去を失った令嬢ではなく、今を生きるリディアその人。村人に祝福され、二人は本当の「パン屋の夫婦」となり、温かな香りに包まれた新しい日々を歩み始めるのだった。

処理中です...