【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい

Debby

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第3章

25 台本~シナリオ。

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 プレッサがレックスから呼び出しを受けたのは、ちょうど父であるフォッセン公爵がフィオレを拐う計画を実行に移した日の翌日であった。

 拐うと言っても数時間行方不明になってもらうだけで、危害を加えるつもりはない。ただ、数時間でも令嬢が一人で所在不明になるということは十分な疵瑕になる。王族──ましてや王太子妃になどなれるはずもない。

 プレッサは高位貴族で唯一婚約者のいない自分に秘密裏に婚約の打診を行うために呼び出されたのだと信じて疑ってはいなかった。それ以外にほとんど面識のない自分をレックスが呼び出す理由がないからだ。

 やっと、やっとだ。
 王太子殿下に婚約を白紙に戻され失意のまま忘れ去られたヒレミア・フォッセン公爵令嬢。彼女の代わりに子孫である私が王家に嫁入りする時が来た。

「フォッセン公爵令嬢をご案内しました」

 侍女に先導され数ある応接室のひとつに案内される。
 そこには──何故かレックスだけでなく、生徒会役員が勢揃いしていた。

「え?婚約の話ではないの?」

 思わず口をついて出た言葉。
 耳聡い彼らが聞き逃すはずもなかった。

 侍女はプレッサのお茶を淹れると、他の使用人と共に声が聞き取れない壁際にまで下がった。
 それを確認し、レックスが口を開く。

「何故我々が君と婚約の話をする必要がある?万が一そうであったとしても、君ではなく父であるフォッセン公爵と話しをすべきだろう」

なぜ私を呼ばれたのですか?」

 プレッサは質問に質問で返した。
 それは勿論プレッサに聞きたいことがあったからに決まっている。

 あの日カイエの口から出たのは確かにプレッサの名前だった。
 であれば、あの未知の力やカイエの暴走はプレッサ個人、もしくはフォッセン公爵が関わっている可能性が高いということになる。

 それを聞こうと呼び出したのだが『婚約』などという発言が出る辺り、彼女はどうやらの方にも関与しているようだった。
 その時部屋をノックする音がした。どうやら待っていた報告が届いたようだ。ドアの向こう側で報告を聞いていたイベルノは部屋に入って来るとプレッサを見て頷いた。

「拘束」

 レックスの無機質な声が部屋に響くと同時にジャザがプレッサを魔法で拘束した。

「な、何をするの!?」
「令嬢は昨日とある事件が起こったことは知ってるか」

 イベルノがプレッサに尋ねる。

「し、知らないわよ!」
「では何故ここに呼ばれたのが婚約の打診だと思ったのだ?
 フィオレの件と令嬢は無関係ではあるまい?」

 底冷えのするレックスの声。フィオレという名にプレッサが反応した。
 レックスの様子に計画がうまくいったのだと思ったプレッサは落ち着きを取り戻してレックスに言った。

「逆に伺いたいですわ。グルーク公爵令嬢に何か問題がありましたの?殿下のその剣幕──もし王太子殿下に嫁げないような疵瑕がついたのであればお怒りなのは仕方ありませんわ。ですが私には預かり知らぬこと。しかし、そうなれば殿下も今からお相手を探すのは大変でございましょう?私も婚約が白紙になったことですし、殿下が望まれるのであれば、私が代わりに──」

「なるほど、お前たちの狙いはやはりそれか。カイエを利用し健康を取り戻しフリンツとの婚約を白紙化。無理やり私の婚約を解消せざるを得ない状況を作りフィオレに成り代わろうとしたわけか」

 普段感情を表に出すことがない──何事にも冷静なレックスの怒りにあてられ、プレッサはそれ以上言葉を発することが出来なかった。

「生憎だったなフィオレは無事だ。彼女には優秀な侍女護衛がついているからな。フィオレを襲おうとした犯人は全て侍女により取り押さえられ、今しがた誰に雇われたのかを、吐いたところだ。今頃フォッセン公爵も事情を聞かれている頃だろう」

 しかしそれだけではカイエに感じていたあの未知の力の説明は付かない。

「フィオレの件はフォッセン公爵主導だろう。これまで自宅で過ごさざるを得なかった令嬢にあれだけの人を動かす力はない。
 だが、リーエング男爵令嬢の件──裏で糸を引いていたのは令嬢だろう」

 裏で糸、とはどう言うことだろうか。物語の内容をカイエに話しはしたが、それ以外は何もしていない。
 フィオレの件が発覚したのであればどのみちフォッセン公爵家は終わりだろう。しかしカイエが何をしたのかは知らないが、やってもないことまで罪を被るつもりはない。
 別に隠していたわけでもない。プレッサは過去生のことをレックスたちに話すことにした。



「令嬢の過去生の記憶にある物語の世界?」

 レックスたちは一様に信じられないと言った表情をしていた。それはそうだろう。
 どちらかと言えばすんなり受け入れたカイエがおかしいのだ。
 しかし、レックスたちの話す「未知の力」に話が及んだときに「強制力」などと説明しても分かりづらいだろうと「それは物語を台本シナリオ通りに進ませようとする世界の力だ」と言ったところ、「やはり私たちは試されていたのか・・・」と、妙に納得してくれた。
 フリンツがレックスの護衛を外れたことで物語が破綻してしまい、その力も働かなくなったと説明すると、それにも心当たりがあるようだった。

 あれは破綻したことに気付かずひとり物語を進めようとしたカイエの暴走だったということか。
 プレッサが過去生を持つという思っても見なかった事実が明るみになったが、レックスにはひとつどうしても不可解なことがあった。

 それは──。
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