22 / 27
第3章
22 聖女になるために
しおりを挟む
国中のサクラの花が一斉に散ったとの報せが入った時、レックスは学園の生徒会室にいた。
報せを受けるまでもない。朝起きると、王城の中庭のサクラの木──100年前にサクラ王妃が自ら挿し木したとされる木の花もすべて落ちていたのだ。勿論学園のサクラの木も。
フィオレは友人と共に、昼休憩を中庭で過ごしていた。
散ってしまったピンク色の花弁が絨毯のようだ。
そして、枝だけとなったサクラの木を見上げると「束の間の休息ね」と呟いた。
第二王子派の面々は焦っていた。
第一王子とグルーク公爵令嬢の婚姻の儀が近付いてきた。
それを阻止するため郊外のサクラの木を枯らすことで前回の水害同様、レックス・センエンティ第一王子が王太子にふさわしくないからではないか──という噂を流し、世論を味方につけようとしたのだ。
それが国中のサクラの木が枯れるという王太子はおろか第二王子──いや、国王の立場まで危うくなるような事態にまで発展してしまった。
下手に動くのは悪手だ。第二王子派の面々は魔法使いの男たちに成功報酬を支払うと沈黙を貫いた。
国民はなんの前触れもなく散ってしまったサクラの木に、得も言われぬ不安に陥っていた。
カイエは花が散ってしまったサクラの木を見上げ思った。
サクラの木は病気に違いない、それか悪い魔法にかかっているのだ。
特別な力を持つ自分が治癒し、浄化したら、サクラの木は再び美しい花を咲かせるはず。
フィオレはああ言っていたが、そうすることによって皆に認められレックスもカイエを欲し望む。そういう物語なのだと信じて疑っていなかった。
でも今すぐ神に祈ると、レックスはカイエの祈りのおかげだとは気付いてくれないかもしれない。
「司教様、お話があります」
カイエは自分がレックスに選ばれるための舞台を、自ら用意することにした。
青空が広がっている。
教会の近く、サクラの木が多く植樹されている広場にカイエはいた。後ろにはフリンツが控えている。
これから神聖魔法でサクラの木を治癒し、浄化するのだ。
教会の司教に頼み、『提案』として前もって国王に伝えてもらった。歴代二人目の治癒と浄化の神聖魔法を使うカイエがサクラの木を癒すと言っているのだ。喜ぶに違いない。
それを王家主導で行うことで王家は信頼を取り戻し、カイエはレックスを取り戻すのだ。
カイエの言葉に司教は良い案だと嬉々として王城に向かった。
しかし帰ってきた司教の口から聞いた国王からの返事は思っていたものとは違うものだった。
『祈るのは構わないが、あれは病気や魔法の類ではない』
国王は司教に対し、王家の秘匿事項に当たるため詳しくは話せないがと前置きされたうえでそう話されたという。
司教はカイエに言った。
「国王がこうおっしゃる以上、あれは神聖魔法ではどうなるものではないのだ。冷静に考えれば、もし神聖魔法で改善する可能性があるのであれば、こちらが申し出る前に王城から依頼があったはずなのだから」
カイエは納得できなかった。
プレッサが言ったのだ。
カイエはこの世界の聖女であり、主人公なのだと。カイエが治癒と浄化の神聖魔法の使い手になることによりレックスの伴侶になることが叶うのだと。
もうプレッサの言った「物語が破綻した」と言う言葉をカイエは気に止めてもいなかった。
レックスはこの国の王太子だ。婚約者もいる。
それを覆してレックスの隣に立つには国王が神聖魔法では無理だと言ってのけたサクラの治癒と浄化を成し遂げ、「聖女」として国民に認められる必要があるのではないか。
ならば、カイエはそれを成功させるしかない──いや、カイエはこの世界の聖女であり、主人公なのだ。成功しないはずがない。
この広場であればたくさんの人がいるため、奇跡の目撃者にも事欠かない。
カイエが一歩広場へ踏み出した時、一台の馬車と騎乗した騎士たちが入ってきた。
その物々しさに広場近くにいた人たちが何事かと集まってくる。騎士たちは馬車を守るような陣形を作った。
馬車の扉が開き、降りて来たのは生徒会役員の面々だった。
国王からカイエのことを聞いたレックスたちには、彼女が神聖魔法の行使を強行するであろうことは容易に予想できた。未知の力がカイエの力なのか否か。本当に自分たちはその力から解放されたのか否か。それを見届けるためにやってきたのだ。
(私のために来てくれた!)
広場に降り立ったレックスを見て、カイエは喜びから目を潤ませた。
報せを受けるまでもない。朝起きると、王城の中庭のサクラの木──100年前にサクラ王妃が自ら挿し木したとされる木の花もすべて落ちていたのだ。勿論学園のサクラの木も。
フィオレは友人と共に、昼休憩を中庭で過ごしていた。
散ってしまったピンク色の花弁が絨毯のようだ。
そして、枝だけとなったサクラの木を見上げると「束の間の休息ね」と呟いた。
第二王子派の面々は焦っていた。
第一王子とグルーク公爵令嬢の婚姻の儀が近付いてきた。
それを阻止するため郊外のサクラの木を枯らすことで前回の水害同様、レックス・センエンティ第一王子が王太子にふさわしくないからではないか──という噂を流し、世論を味方につけようとしたのだ。
それが国中のサクラの木が枯れるという王太子はおろか第二王子──いや、国王の立場まで危うくなるような事態にまで発展してしまった。
下手に動くのは悪手だ。第二王子派の面々は魔法使いの男たちに成功報酬を支払うと沈黙を貫いた。
国民はなんの前触れもなく散ってしまったサクラの木に、得も言われぬ不安に陥っていた。
カイエは花が散ってしまったサクラの木を見上げ思った。
サクラの木は病気に違いない、それか悪い魔法にかかっているのだ。
特別な力を持つ自分が治癒し、浄化したら、サクラの木は再び美しい花を咲かせるはず。
フィオレはああ言っていたが、そうすることによって皆に認められレックスもカイエを欲し望む。そういう物語なのだと信じて疑っていなかった。
でも今すぐ神に祈ると、レックスはカイエの祈りのおかげだとは気付いてくれないかもしれない。
「司教様、お話があります」
カイエは自分がレックスに選ばれるための舞台を、自ら用意することにした。
青空が広がっている。
教会の近く、サクラの木が多く植樹されている広場にカイエはいた。後ろにはフリンツが控えている。
これから神聖魔法でサクラの木を治癒し、浄化するのだ。
教会の司教に頼み、『提案』として前もって国王に伝えてもらった。歴代二人目の治癒と浄化の神聖魔法を使うカイエがサクラの木を癒すと言っているのだ。喜ぶに違いない。
それを王家主導で行うことで王家は信頼を取り戻し、カイエはレックスを取り戻すのだ。
カイエの言葉に司教は良い案だと嬉々として王城に向かった。
しかし帰ってきた司教の口から聞いた国王からの返事は思っていたものとは違うものだった。
『祈るのは構わないが、あれは病気や魔法の類ではない』
国王は司教に対し、王家の秘匿事項に当たるため詳しくは話せないがと前置きされたうえでそう話されたという。
司教はカイエに言った。
「国王がこうおっしゃる以上、あれは神聖魔法ではどうなるものではないのだ。冷静に考えれば、もし神聖魔法で改善する可能性があるのであれば、こちらが申し出る前に王城から依頼があったはずなのだから」
カイエは納得できなかった。
プレッサが言ったのだ。
カイエはこの世界の聖女であり、主人公なのだと。カイエが治癒と浄化の神聖魔法の使い手になることによりレックスの伴侶になることが叶うのだと。
もうプレッサの言った「物語が破綻した」と言う言葉をカイエは気に止めてもいなかった。
レックスはこの国の王太子だ。婚約者もいる。
それを覆してレックスの隣に立つには国王が神聖魔法では無理だと言ってのけたサクラの治癒と浄化を成し遂げ、「聖女」として国民に認められる必要があるのではないか。
ならば、カイエはそれを成功させるしかない──いや、カイエはこの世界の聖女であり、主人公なのだ。成功しないはずがない。
この広場であればたくさんの人がいるため、奇跡の目撃者にも事欠かない。
カイエが一歩広場へ踏み出した時、一台の馬車と騎乗した騎士たちが入ってきた。
その物々しさに広場近くにいた人たちが何事かと集まってくる。騎士たちは馬車を守るような陣形を作った。
馬車の扉が開き、降りて来たのは生徒会役員の面々だった。
国王からカイエのことを聞いたレックスたちには、彼女が神聖魔法の行使を強行するであろうことは容易に予想できた。未知の力がカイエの力なのか否か。本当に自分たちはその力から解放されたのか否か。それを見届けるためにやってきたのだ。
(私のために来てくれた!)
広場に降り立ったレックスを見て、カイエは喜びから目を潤ませた。
31
あなたにおすすめの小説
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」
新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。
「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
【完結】妹に存在を奪われた令嬢は知らない 〜彼女が刺繍に託した「たすけて」に、彼が気付いてくれていたことを〜
桜野なつみ
恋愛
存在を消された伯爵家の長女・ビオラ。声を失った彼女が、唯一想いを託せたのは針と糸だった。
白いビオラの刺繍に縫い込まれた「たすけて」の影文字。
それを見つけたのは、彼女の母の刺繍に人生を変えられた青年だった──。
言葉を失った少女と、針の声を聴く男が紡ぐ、静かな愛の物語。
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる