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第3章
21 意趣返し
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レックスたちは突然未知の力から解放された。
フリンツとプレッサの婚約が白紙となり、フォッセン公爵という後見がなくなったフリンツが学園での護衛から解任された瞬間だった。
何が起こったわけでもないが、ただ、そう感じたのだ。
フリンツは変わらずカイエのことばかり気にしているらしく、フォッセン公爵の推薦でカイエの護衛騎士を務めることになった。
はじめから気にしてはいなかったが、フリンツがそばにいるならもう令嬢たちの悪意に晒されることはないだろう。まぁ、実際はカイエが神聖魔法の使い手になった時点でそんな心配は無くなっていたのだが。
これでフィオレたちに未知の力が及ぶ心配も無くなったと、レックスは胸を撫で下ろした。
ある日の昼休憩。フィオレはサクラの花の下で昼食を摂るために、シファとファミエと共に中庭にいた。
そこへ思い詰めたような表情のカイエがやってきたのだ。
咄嗟に二人がフィオレの前に出る。
カイエは以前学園内で治癒とはいえ、感情に任せて魔法を行使したという前科がある。未知の力が消えた今、逆上してフィオレに危害を加える可能性がないとは言えない。当然だが別途授業があるフリンツは学園内では四六時中ついてはいないらしく、カイエを止めるものがいないからだ。
しかしカイエはそんな二人のことなど気にせず、フィオレに言い放った。
「レックス様に何か言ったんですか?」
「なぜそう思うの?」
相変わらずのルール無視。挨拶もない無礼なカイエの問いにフィオレが静かに答えた。
「急にレックス様たちの態度が変わるなんて、おかしいもの。」
「正常な状態に戻っただけなのでは?」
そう言われて、カイエはプレッサの言っていた言葉を思い出した。「物語が破綻したため生徒会も本来の形に戻った」と。
──物語。カイエも好んでよく読む、空想の世界。
「違う、違います。レックス様があなたを選ぶはずがない!選ばれるのは私」
「なぜそう思うの?」
レックスとフィオレは婚約を結んでいる。カイエがどう思おうと、既にフィオレが選ばれているのだ。
先程と同じ質問を返されていることにも気付かないカイエは得意気に言った。
「私はこの力を使ってレックス様を助けられるからです。
現に災害の現場に行って神聖魔法を使って人々だって救ってきました。ご存じと思いますが、治癒と浄化の神聖魔法を使えるのは100年前のサクラ王妃殿下以来なんですよ」
フィオレは不思議だと思った。あんなにこの令嬢に苛立っていたのに、婚約者の名を連呼されている今、不思議と心は凪いでいる。やはり自分も少なからず未知の力の影響下にあったのだ。
「あなたは何もしていないじゃない!今みたいにみんなに守られているだけ!
私ならこれからだってレックス様を助けられる」
「そう、ならそうすればいいわ」
「え?」
そう返されるとは思っていなかったカイエは、冷静に自分を見つめるフィオレを見つめ返した。
「レックス様を助けたいのであればそうすればいい。でもそれとレックス様に選ばれることとは別よね。なぜ自分が選ばれると思うの?」
それは、プレッサが言ったから。
「だって私は二つの神聖魔法を使えるから──」
「なぜ二つの神聖魔法を使えたらレックス様に選ばれるの?」
「それはあなたと違って、私にならレックス様を助けることが出来るから──」
「そう、あなたはレックス様を助けることが出来る。先程も言ったけれど、助けたいなら助ければいいの。
それと、レックス様に選ばれることは別なの。なぜあなたは自分が選ばれると思うの?」
堂々巡りのような質問にカイエは思わずフィオレを睨み付ける。
そんなカイエのことなど気にもならないといった感じでフィオレは続ける。
「先程からあなたが言われている『レックス様に選ばれる』という発言は、レックス様の伴侶となることを意味しているのでしょう?」
「そうよ」
「なぜ、あなたはレックス様の伴侶になりたいの?なって何を成し遂げたいの?」
カイエはレックスが好きだから、彼と結ばれたいと思った。彼と幸せになりたいと。
そしてそれはレックスも同じだと信じていた。
何を成し遂げたいか?
「レックス様を──」
レックス様を助けたい。
そう言いかけたカイエに、フィオレは諭すように言った。
「レックス様は次期王太子であり国王。その伴侶に求められるのは助けの力ではないの。共に国民を守る存在よ」
「──っ!じ、じゃあ、あなたは?災害の時だって王都にいて何もしなかったじゃない」
フィオレは続ける。
「それはレックス様も同じだったはずよ。あなた、レックス様は何をしていたと思う?」
「それは・・・」
「あなたは目の前にあるものしか見えていないのね。
あなたは為政者には向いてない。そういう人にレックス様の隣は譲れないわ」
フィオレの力強い瞳に、カイエは何も言えずにその場を去るしかなかった。
(レックス様は何かお仕事をしていたに決まってるわ!困っている人は助けてくれる人だもの!そうじゃなくて、あなたは何をしていたのかって聞いてるのよ!)
そもそも目の前で困っている人を助けて何が悪いというのか。
フィオレはそれが悪いとは言っていない。ただ、その『目の前で困っている人を助ける』ことだけしか見えてないカイエに為政者の伴侶は無理だと言っているのだ。
おそらくカイエはそれを全く理解できず、納得も出来ないまま今頃イライラしていることだろう。
フィオレも今まで腹立だしさを感じて過ごしてきたのだ。少しくらい意趣返しをしても許されるはずだ。
「ふふ。私も相当頭にきていたみたいね」
フィオレが呟き、シファとファミエが笑った。
ある寒い冬の日の深夜──王都郊外のサクラの名所に顔を隠すようにローブのフードを深くかぶった複数人の男の姿があった。
彼らが請け負った依頼は一つ「ここにあるサクラの木を一本残らず枯れ木にすること」。
郊外とはいえ平和の象徴であるサクラの木がそんなことになれば国中パニックに陥るのでは?と男たちは思ったが依頼は依頼、前金も貰っている以上依頼を遂行しなければ今後の仕事に関わってくる。
男たちはローブの中から杖を取り出すと、サクラの木めがけて一斉に魔法を放った。
フリンツとプレッサの婚約が白紙となり、フォッセン公爵という後見がなくなったフリンツが学園での護衛から解任された瞬間だった。
何が起こったわけでもないが、ただ、そう感じたのだ。
フリンツは変わらずカイエのことばかり気にしているらしく、フォッセン公爵の推薦でカイエの護衛騎士を務めることになった。
はじめから気にしてはいなかったが、フリンツがそばにいるならもう令嬢たちの悪意に晒されることはないだろう。まぁ、実際はカイエが神聖魔法の使い手になった時点でそんな心配は無くなっていたのだが。
これでフィオレたちに未知の力が及ぶ心配も無くなったと、レックスは胸を撫で下ろした。
ある日の昼休憩。フィオレはサクラの花の下で昼食を摂るために、シファとファミエと共に中庭にいた。
そこへ思い詰めたような表情のカイエがやってきたのだ。
咄嗟に二人がフィオレの前に出る。
カイエは以前学園内で治癒とはいえ、感情に任せて魔法を行使したという前科がある。未知の力が消えた今、逆上してフィオレに危害を加える可能性がないとは言えない。当然だが別途授業があるフリンツは学園内では四六時中ついてはいないらしく、カイエを止めるものがいないからだ。
しかしカイエはそんな二人のことなど気にせず、フィオレに言い放った。
「レックス様に何か言ったんですか?」
「なぜそう思うの?」
相変わらずのルール無視。挨拶もない無礼なカイエの問いにフィオレが静かに答えた。
「急にレックス様たちの態度が変わるなんて、おかしいもの。」
「正常な状態に戻っただけなのでは?」
そう言われて、カイエはプレッサの言っていた言葉を思い出した。「物語が破綻したため生徒会も本来の形に戻った」と。
──物語。カイエも好んでよく読む、空想の世界。
「違う、違います。レックス様があなたを選ぶはずがない!選ばれるのは私」
「なぜそう思うの?」
レックスとフィオレは婚約を結んでいる。カイエがどう思おうと、既にフィオレが選ばれているのだ。
先程と同じ質問を返されていることにも気付かないカイエは得意気に言った。
「私はこの力を使ってレックス様を助けられるからです。
現に災害の現場に行って神聖魔法を使って人々だって救ってきました。ご存じと思いますが、治癒と浄化の神聖魔法を使えるのは100年前のサクラ王妃殿下以来なんですよ」
フィオレは不思議だと思った。あんなにこの令嬢に苛立っていたのに、婚約者の名を連呼されている今、不思議と心は凪いでいる。やはり自分も少なからず未知の力の影響下にあったのだ。
「あなたは何もしていないじゃない!今みたいにみんなに守られているだけ!
私ならこれからだってレックス様を助けられる」
「そう、ならそうすればいいわ」
「え?」
そう返されるとは思っていなかったカイエは、冷静に自分を見つめるフィオレを見つめ返した。
「レックス様を助けたいのであればそうすればいい。でもそれとレックス様に選ばれることとは別よね。なぜ自分が選ばれると思うの?」
それは、プレッサが言ったから。
「だって私は二つの神聖魔法を使えるから──」
「なぜ二つの神聖魔法を使えたらレックス様に選ばれるの?」
「それはあなたと違って、私にならレックス様を助けることが出来るから──」
「そう、あなたはレックス様を助けることが出来る。先程も言ったけれど、助けたいなら助ければいいの。
それと、レックス様に選ばれることは別なの。なぜあなたは自分が選ばれると思うの?」
堂々巡りのような質問にカイエは思わずフィオレを睨み付ける。
そんなカイエのことなど気にもならないといった感じでフィオレは続ける。
「先程からあなたが言われている『レックス様に選ばれる』という発言は、レックス様の伴侶となることを意味しているのでしょう?」
「そうよ」
「なぜ、あなたはレックス様の伴侶になりたいの?なって何を成し遂げたいの?」
カイエはレックスが好きだから、彼と結ばれたいと思った。彼と幸せになりたいと。
そしてそれはレックスも同じだと信じていた。
何を成し遂げたいか?
「レックス様を──」
レックス様を助けたい。
そう言いかけたカイエに、フィオレは諭すように言った。
「レックス様は次期王太子であり国王。その伴侶に求められるのは助けの力ではないの。共に国民を守る存在よ」
「──っ!じ、じゃあ、あなたは?災害の時だって王都にいて何もしなかったじゃない」
フィオレは続ける。
「それはレックス様も同じだったはずよ。あなた、レックス様は何をしていたと思う?」
「それは・・・」
「あなたは目の前にあるものしか見えていないのね。
あなたは為政者には向いてない。そういう人にレックス様の隣は譲れないわ」
フィオレの力強い瞳に、カイエは何も言えずにその場を去るしかなかった。
(レックス様は何かお仕事をしていたに決まってるわ!困っている人は助けてくれる人だもの!そうじゃなくて、あなたは何をしていたのかって聞いてるのよ!)
そもそも目の前で困っている人を助けて何が悪いというのか。
フィオレはそれが悪いとは言っていない。ただ、その『目の前で困っている人を助ける』ことだけしか見えてないカイエに為政者の伴侶は無理だと言っているのだ。
おそらくカイエはそれを全く理解できず、納得も出来ないまま今頃イライラしていることだろう。
フィオレも今まで腹立だしさを感じて過ごしてきたのだ。少しくらい意趣返しをしても許されるはずだ。
「ふふ。私も相当頭にきていたみたいね」
フィオレが呟き、シファとファミエが笑った。
ある寒い冬の日の深夜──王都郊外のサクラの名所に顔を隠すようにローブのフードを深くかぶった複数人の男の姿があった。
彼らが請け負った依頼は一つ「ここにあるサクラの木を一本残らず枯れ木にすること」。
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