【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい

Debby

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第3章

20 夢を叶えるために

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「おとうさま、わたしレックスさまのおよめさんになりたいな」

 プレッサは幼いころ、よくフォッセン公爵にそう言っていた。
 しかし体が弱くほとんど家から出ることも叶わないプレッサには王太子妃や王子妃はおろか、貴族の夫人すら無理だった。
 成長するにつれ、現実が見えて来たのか、いつからかプレッサがその望みを口にすることはなくなった。
 しかしプレッサはカイエ・リーエング男爵令嬢のおかげで健康を取り戻した。これまで好きなことがなにも出来なかった分、これからの人生は自由に好きに楽しんでほしい、公爵はそう考えていた。

 自由に──それを可能にするには一つ大きな問題があった。婚約者だ。
 フリンツは悪い男ではないが伯爵家次男だ。そして公爵が決めた婚約であって、プレッサが望んだわけではない。
 フリンツはこのまま王太子の護衛を務めることが出来れば、いずれ叙爵することになる。しかし、そうであっても一代限りの騎士爵か男爵辺りになるであろう。
 健康になったプレッサ公爵家の娘を一代貴族にやるわけにはいかない。資金面はどうとでもなるが、健康になったプレッサは子を産み、育てることが出来るのだ。このままでは公爵の孫が平民になってしまう。
 フォッセン公爵はさっそく伯爵家との話し合いの場を設けた。

 結果として、最も好ましいものになった。
 白紙化──解消になったとしてもこれまでのプレッサの状況を知るものは然程気にはしないだろう。しかし、記録に残る解消や破棄と婚約自体がなかったことになる白紙化では令嬢に与える影響は大きく違う。

 次に考えなければならないのはプレッサの新たな嫁入り先──そう考えた時、フォッセン公爵は過去プレッサがあきらめた夢を思い出した。

「おとうさま、わたしレックスさまのおよめさんになりたいな」

 好きで弱い身体を持って生まれてきたわけではないのに、恨み言ひとつ言わず、全てを諦めてきたプレッサが唯一口にした望み。

 フォッセン公爵家には150年の歴史がある。家柄──条件は十分満たしているといえよう。
 しかしこれまで家庭教師について学んでいたとはいえ体が弱く自宅で過ごしてきたプレッサに王太子妃──のちの王妃になるだけの人脈も素養もない。
 プレッサの夢を叶えるには第一王子殿下に失脚して頂くしかない。いや、それだけではだめだ。
 失脚しても王族に席があればグルーク公爵令嬢との婚約は継続されるだろう。二人の婚約は秘匿事項にかかわる
 しかし、王家の──国王にのみ口伝にて引き継がれてきた秘匿事項であるため詳細は知らされていないがグルーク公爵令嬢は『王族』と婚姻を結ぶ必要があると聞く。王族は国王と王子兄弟だけではない。外交や公務を担うために王家に席を置いている王弟やその子供がいる。言ってしまえば国王や王弟の側妃、年は離れているが王太子となった第二王子殿下の形だけの妃であってもかまわないのだ。
 公務で二人の姿を見るが、お互いを見る目に熱を感じたことはない。レックスが王族籍を抜け、公爵を興すなどということになれば、その時点でグルーク公爵令嬢との婚約は解消されるはずだ。
 我が家はグルーク公爵よりも古い由緒正しい公爵家。秘匿事項が何かは知らないがここはレックスを強く望むプレッサにその座を譲ってもらおうか。

 中立派のフォッセン公爵は秘密裏に第二王子派の貴族と面会することにした。
 季節は秋から冬に変わろうとしていた。





 カイエは突然訪れた日常の変化を受け入れられないでいた。
 フリンツとプレッサ友人たちの幸せを願ってプレッサに治癒の神聖魔法をかけることを提案したのだ。
 その結果が「二人の婚約の白紙化」とフリンツの「レックスの護衛解任」、更に「カイエの護衛騎士着任」だ。
 フリンツのがカイエの護衛騎士になったその日から生徒会役員が守る必要がなくなったとばかりに昼の中庭でのひと時がなくなってしまったのだ。
 生徒会室に行っても関係者以外立ち入り禁止だと言われ、偶然見かけたレックスに駆け寄ろうとするとエディに行く手を阻まれた。
 自分はレックスと添い遂げる運命だったのではなかったのか。

 カイエはたまらずプレッサのところに押しかけ尋ねた。すると、物語の中で二人の仲を取り持つ役目のフリンツがレックスの護衛を解任された時点で、物語は破綻してしまったというのだ。
 元々レックスの専属護衛はエディだ。本来の護衛の仕事はレックスに用もなく近付く生徒や危険物手作りのお菓子を渡そうとする者などの排除。物語が破綻したため、生徒会も本来の形に戻った。それだけなのだという。
 カイエはあの頃のレックスを想い、力なくプレッサの元を去った。

「こんなことになると分かっていたら、プレッサのためになんて祈らなかったのに──」

 困っている人を助けたいのだという思いを胸に抱いていた頃のカイエはもうそこにはいなかった。
 いつの間にか、カイエはレックスの隣に立つことしか考えられなくなっていたのだ。
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