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第3章
19 なくなった逢瀬
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「フリンツ・リビーア伯爵令息がカイエ・リーエング男爵令嬢の護衛に?」
将来レックスの側近となる予定の生徒会役員。その婚約者の令嬢と共にティーテーブルを囲んでいたフィオレは、イベルノの婚約者であるシファ・バーロルス公爵令嬢のもたらした情報に小首をかしげた。
カイエに関わらないと決めたフィオレは、長期休暇中で災害の対応に当たっていたということもあり、次期王太子妃としてはあるまじきことに、本当にカイエに係る一切の噂を遮断していた。
(だって、どうしても不快に思ってしまうんですもの)
表情には出ないが目を反らしても耳から入ってくる情報に、どうしても感情を動かされてしまうのだ。
当然フィオレもその様な感情に振り回されないよう教育されているし、自身の感情を完全にコントロール出来る自信もあった。
しかし最近思うようにいかない。フィオレも僅かながら未知の力の影響下にあるのかもしれないと感じていた。
しかしレックスの護衛の変更ともなれば知らぬ存ぜぬというわけにはいかない。そこは将来同じくフィオレの側近になる予定のシファやエディの婚約者であるファミエがフォローしてくれていた。
彼女たちの話によると、ある日を境に身体が弱くほとんど学園にも来ていなかったプレッサ・フォッセン公爵令嬢が毎日学園に通い出したそうだ。
恐らくまたカイエがルールを無視してことに及んだのだろうが、何せ二つの神聖魔法を持つ「特別な」使い手で国民の人気も高く、王太子をはじめ高位貴族の令息の庇護下にある(と思われている)カイエのしたことだ。流石の教会も見て見ぬふりをせざるを得なかったようだ。
困っている人を見て見ぬふりは出来ないという精神は素晴らしいことなのかも知れないが、決められたルールを無視するのはいただけない。困っているのはカイエの目に留まる人々だけではなく、そういった人の中には神聖魔法を受けたくとも受けられない人が沢山いるのだ。──今はまだ公爵令嬢でしかないが自分が王太子妃、王妃となった暁には教会に干渉し、そういったことを減らしたいとフィオレは思っている。
今回の件はフォッセン公爵から表向きは「災害の時に神聖魔法の使い手を遣わせてくれたことに対するお礼」として、多額の献金が教会に寄付されたこともあり、皆口をつぐんだそうだ。
さてそのフォッセン公爵だが、現在のプレッサの婚約者である
元々次代を必要としないからプレッサをフリンツに嫁がせることに決めたのだが、健康な体を手に入れた愛娘をそのようなところに嫁にやるにはいかないと考えたらしい。
フリンツ・リビーア伯爵令息との婚約は多額の慰謝料が支払われ白紙化、婚約者の父であるフォッセン公爵の後見により勤めていたレックスの学園での護衛の任も解かれたそうなのだ。
そして本人の強い希望とフォッセン公爵の推薦で、「100年前の王妃殿下と同じ稀有な魔法を持つ」カイエ・リーエング男爵令嬢の専属護衛となったらしい。
教会側も困った人を見つけると勝手に助けてしまうカイエの行動を諫めることにも、神聖魔法の使い手が自由に動くことがどれだけ危険なことなのかわかってくれないカイエを諭すことにも疲れ、二つ返事でそれを受け入れたのだという。
フィオレは教会の司教に少し同情してしまった。
因みにレックスの学園内での護衛は、これから次期生徒会役員へと代替わりする時期にきているため、本来の護衛であるエディが務めるのだそうだ。
プレッサには物語の内容からもフリンツがカイエに惹かれていることは分かっていた。
本人は表に出していないつもりだろうが、カイエに誘われ一緒にランチを摂るようになり、フリンツの様子を目の当たりにしてそれは確信に変わった。
フリンツの視線が、言動が、完全にカイエに落ちているのだと物語っていた。フリンツの気持ちに気付いていない者はいないのではないかというほどあからさまなのだから。
いや、当のカイエはレックスに夢中で気付いていないようだが。
どちらにしろ元々記憶にある物語の設定がそうであったためプレッサは「好都合ね」としか思っていなかった。
しかし、プレッサが健康を取り戻してからのフォッセン公爵である父の動きは早かった。
健康な体を手に入れ、次代を産むことも可能になった愛娘を伯爵家の次男に嫁がせるわけにはいかないと早々にプレッサとフリンツの婚約を解消したのだ。
フォッセン公爵家の有責で解消の予定であったが、フリンツもプレッサとの婚約の解消を望んだため白紙というお互いに疵瑕の残らない方法をとることになったのだ。
しかしそこで問題が生じた。
レックスと結ばれるためにはフリンツの存在が邪魔でしかなかったため白紙化は都合が良かったのだが、時期が早すぎた。
父はフリンツに申し訳ないと思ったのか、カイエへの感謝の気持ちからなのか、フリンツの望むまま後見を辞めた後レックスの護衛の任を解かれたフリンツをカイエの護衛騎士に推薦したのだ。
レックスの護衛で無くなったフリンツは、カイエとレックスの逢瀬の場を作ることのできる立場ではなくなった。
物語の条件から逸脱してしまったのだ。
──令嬢から守る任にある者がいるのなら安心だと、ヒロインとレックスの中庭での逢瀬自体がなくなってしまった。
カイエと違い自分はヒロインではない。まだレックスと個人的に話をする段階に至ってすらないのだ。当然レックスとなんの接点もないプレッサが昼食を共にする理由も無くなってしまったのだった。
将来レックスの側近となる予定の生徒会役員。その婚約者の令嬢と共にティーテーブルを囲んでいたフィオレは、イベルノの婚約者であるシファ・バーロルス公爵令嬢のもたらした情報に小首をかしげた。
カイエに関わらないと決めたフィオレは、長期休暇中で災害の対応に当たっていたということもあり、次期王太子妃としてはあるまじきことに、本当にカイエに係る一切の噂を遮断していた。
(だって、どうしても不快に思ってしまうんですもの)
表情には出ないが目を反らしても耳から入ってくる情報に、どうしても感情を動かされてしまうのだ。
当然フィオレもその様な感情に振り回されないよう教育されているし、自身の感情を完全にコントロール出来る自信もあった。
しかし最近思うようにいかない。フィオレも僅かながら未知の力の影響下にあるのかもしれないと感じていた。
しかしレックスの護衛の変更ともなれば知らぬ存ぜぬというわけにはいかない。そこは将来同じくフィオレの側近になる予定のシファやエディの婚約者であるファミエがフォローしてくれていた。
彼女たちの話によると、ある日を境に身体が弱くほとんど学園にも来ていなかったプレッサ・フォッセン公爵令嬢が毎日学園に通い出したそうだ。
恐らくまたカイエがルールを無視してことに及んだのだろうが、何せ二つの神聖魔法を持つ「特別な」使い手で国民の人気も高く、王太子をはじめ高位貴族の令息の庇護下にある(と思われている)カイエのしたことだ。流石の教会も見て見ぬふりをせざるを得なかったようだ。
困っている人を見て見ぬふりは出来ないという精神は素晴らしいことなのかも知れないが、決められたルールを無視するのはいただけない。困っているのはカイエの目に留まる人々だけではなく、そういった人の中には神聖魔法を受けたくとも受けられない人が沢山いるのだ。──今はまだ公爵令嬢でしかないが自分が王太子妃、王妃となった暁には教会に干渉し、そういったことを減らしたいとフィオレは思っている。
今回の件はフォッセン公爵から表向きは「災害の時に神聖魔法の使い手を遣わせてくれたことに対するお礼」として、多額の献金が教会に寄付されたこともあり、皆口をつぐんだそうだ。
さてそのフォッセン公爵だが、現在のプレッサの婚約者である
元々次代を必要としないからプレッサをフリンツに嫁がせることに決めたのだが、健康な体を手に入れた愛娘をそのようなところに嫁にやるにはいかないと考えたらしい。
フリンツ・リビーア伯爵令息との婚約は多額の慰謝料が支払われ白紙化、婚約者の父であるフォッセン公爵の後見により勤めていたレックスの学園での護衛の任も解かれたそうなのだ。
そして本人の強い希望とフォッセン公爵の推薦で、「100年前の王妃殿下と同じ稀有な魔法を持つ」カイエ・リーエング男爵令嬢の専属護衛となったらしい。
教会側も困った人を見つけると勝手に助けてしまうカイエの行動を諫めることにも、神聖魔法の使い手が自由に動くことがどれだけ危険なことなのかわかってくれないカイエを諭すことにも疲れ、二つ返事でそれを受け入れたのだという。
フィオレは教会の司教に少し同情してしまった。
因みにレックスの学園内での護衛は、これから次期生徒会役員へと代替わりする時期にきているため、本来の護衛であるエディが務めるのだそうだ。
プレッサには物語の内容からもフリンツがカイエに惹かれていることは分かっていた。
本人は表に出していないつもりだろうが、カイエに誘われ一緒にランチを摂るようになり、フリンツの様子を目の当たりにしてそれは確信に変わった。
フリンツの視線が、言動が、完全にカイエに落ちているのだと物語っていた。フリンツの気持ちに気付いていない者はいないのではないかというほどあからさまなのだから。
いや、当のカイエはレックスに夢中で気付いていないようだが。
どちらにしろ元々記憶にある物語の設定がそうであったためプレッサは「好都合ね」としか思っていなかった。
しかし、プレッサが健康を取り戻してからのフォッセン公爵である父の動きは早かった。
健康な体を手に入れ、次代を産むことも可能になった愛娘を伯爵家の次男に嫁がせるわけにはいかないと早々にプレッサとフリンツの婚約を解消したのだ。
フォッセン公爵家の有責で解消の予定であったが、フリンツもプレッサとの婚約の解消を望んだため白紙というお互いに疵瑕の残らない方法をとることになったのだ。
しかしそこで問題が生じた。
レックスと結ばれるためにはフリンツの存在が邪魔でしかなかったため白紙化は都合が良かったのだが、時期が早すぎた。
父はフリンツに申し訳ないと思ったのか、カイエへの感謝の気持ちからなのか、フリンツの望むまま後見を辞めた後レックスの護衛の任を解かれたフリンツをカイエの護衛騎士に推薦したのだ。
レックスの護衛で無くなったフリンツは、カイエとレックスの逢瀬の場を作ることのできる立場ではなくなった。
物語の条件から逸脱してしまったのだ。
──令嬢から守る任にある者がいるのなら安心だと、ヒロインとレックスの中庭での逢瀬自体がなくなってしまった。
カイエと違い自分はヒロインではない。まだレックスと個人的に話をする段階に至ってすらないのだ。当然レックスとなんの接点もないプレッサが昼食を共にする理由も無くなってしまったのだった。
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