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14 婚約破棄のチャンス?
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「すみません。サントノーレ侯爵令息ですよね」
殿下と離れ、一人でいるところに声をかけられた。
次期侯爵は姉だが僕自身も次期伯爵になることが決まっているため、声をかけてくる令嬢は多い。
またいつものか──と思って振り返った瞬間、そうではないことが分かった。
「君は──ガレット子爵令嬢」
姉の周辺は調べてある。勿論フリュイ殿下の意向だ。
あの人の考えることはイマイチよくわからない。人手を使ってそんな面倒なことをするくらいなら、姉をサロンに呼んで「最近友人ができたようだね」と聞けばいいだけなのに。
その新しい友人の一人であるミルク・ガレット子爵令嬢はピンクブロンドの柔らかそうな髪をポニーテールにした、快活そうであるにも拘わらず、つい守ってあげたくもなるような不思議な令嬢だ。
しかしその外見に騙されてはいけない。
あの姉が一目置く、かなり優秀な令嬢だ。何より姉からの頼みを一蹴することが出来るのだから、姉やブラウン男爵令嬢と同類に決まっている。
その令嬢が何の用だろうと思っていると、姉が今日の昼休みにカフェ前の階段の上に呼び出されたと言うではないか!
しかも姉は素直に行くつもりらしい。
僕はフリュイ殿下に報告するために礼を言ってガレット子爵令嬢と別れた。
グランからショコラが呼び出されたという情報を入手したフリュイは昼休憩に入るや否やカフェに向かった。
そしてその前の階段に到着すると上へ向かう。視線でショコラを探すが姿が見えない。
「くそっ、人が多いな」
(何故差出人不明の手紙になんで従うんだ?ショコラはそんなに僕と婚約破棄したいのか)
そんなことを考えながらも、ショコラに何かあってはと必死にその姿を探した。
そしてその視線が階段上中央に移った時、そこから不自然に人が飛び出した。
「動かないで!」
グランがフリュイを手で制し追い越すと、踊り場まで一気に駆け上がった。
「きゃあああああああーーーっ!!!!」
グランだけでは受け止められなかっただろうが、幸い体格の良い令息が数人踊り場にいたため事なきを得たようだった。
令嬢もいたが、ほとんどの令嬢は階段を降りる際手すりを使うため端に寄っており、驚いて腰を抜かしている者はいたが、怪我人は巻き込まれた令息、それもかすり傷くらいで他にはいなかったようだ。
幸いアイラにもかすり傷ひとつ無かった。
ドレス事件から学園内を警邏していた騎士が数名駆けつけて場を納め、動けない令嬢達を医務室へと運んでいった。
階段上にいた生徒達には事情を聞くため残ってもらったが、当時階段上はごった返しており誰ひとり落ちるアイラを見ていたものはいなかった。
ショコラは第二王子の婚約者として目立つ存在である上に、アイラが落ちた後に通してほしいと声を掛けながら階段に到着したという目撃証言が多数あったために噂になることはなかったが、ドレスの件といい今回の件といい、犯人のターゲットはブラウン男爵令嬢なのか、王族の婚約者なのかはっきりしなかった。その目的も然り。
医務室で落ち着いたアイラに事情を聞いたところ、「足を滑らせました。助けて頂きありがとうございました。お騒がせして申し訳ありません」と言ったきり、黙り込んでしまった。
足を滑らせたのであれば階段を転がり落ちるはずだ。階段上から不自然に飛び出してきた彼女が足を滑らせたのでは無いことは容易に分かる。
そう伝えたが、それ以上アイラが口を開くことはなかった。
アイラは毎日ランチタイムになるとカフェに行き昼食を摂る。
学園にはいくつか食事を摂れるところがあるが、カフェが一番手軽で安いため下位貴族に人気だ。
カフェ前の階段を降りようとしたとき、不意に令嬢の声がした。
「私の役に立ちなさい」
次の瞬間、強く押された体は宙に投げ出されていた。
幸い数人の令息に踊り場で受け止めてもらえた為怪我はなかったけれど、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
──命を狙われた?何故?
私を突き落とした犯人は声からして令嬢だ。
しかし目的が分からない以上、また命を狙われてはいけないので下手なことは言えない。
それにそんなことを言って、またサントノーレ侯爵令嬢が疑われたらそれこそ第二王子殿下の逆鱗に触れ、私だけでなく家族の命に関わるかもしれないのだ。
アイラは誰にも相談することが出来なかった。
ドレス事件に引き続き、今回の階段事件で、学園ではブラウン男爵令嬢が何者かに狙われているのではと言う噂が話題を独占していた。
本人が足を滑らせたと言っているためすぐにその噂は下火になったが、日頃カフェを利用していないサントノーレ侯爵令嬢が何故あの場にいたのかという疑問も噂になっていた。
「ブラウン男爵令嬢からの呼び出しではなかったということよね・・・」
私が頭を悩ませていると、シャルロットが「ねぇ、あの呼び出しの封書はどうされていますの?」と聞いてきた。
「あれなら捨てましたわ」
「・・・えーーっと・・・、流石の私も驚きましたわ。なぜ、とお聞きしても?」
私は逆にシャルロットが何故驚いているのが分からない。
「読み終えたら捨てるよう、そう指示が書いてあったからですわ。これで婚約がなくなるかもしれないでしょう?
私が犯人では無いことは目撃者が沢山いるし・・・まぁフリュイ殿下に好きな人が出来たわけでもないけれど、いつか来るその時のためにと考えればそれでいいかなぁと思って」
私がそう得意げに答えると、シャルロットはなんとも言えない顔をした。
殿下と離れ、一人でいるところに声をかけられた。
次期侯爵は姉だが僕自身も次期伯爵になることが決まっているため、声をかけてくる令嬢は多い。
またいつものか──と思って振り返った瞬間、そうではないことが分かった。
「君は──ガレット子爵令嬢」
姉の周辺は調べてある。勿論フリュイ殿下の意向だ。
あの人の考えることはイマイチよくわからない。人手を使ってそんな面倒なことをするくらいなら、姉をサロンに呼んで「最近友人ができたようだね」と聞けばいいだけなのに。
その新しい友人の一人であるミルク・ガレット子爵令嬢はピンクブロンドの柔らかそうな髪をポニーテールにした、快活そうであるにも拘わらず、つい守ってあげたくもなるような不思議な令嬢だ。
しかしその外見に騙されてはいけない。
あの姉が一目置く、かなり優秀な令嬢だ。何より姉からの頼みを一蹴することが出来るのだから、姉やブラウン男爵令嬢と同類に決まっている。
その令嬢が何の用だろうと思っていると、姉が今日の昼休みにカフェ前の階段の上に呼び出されたと言うではないか!
しかも姉は素直に行くつもりらしい。
僕はフリュイ殿下に報告するために礼を言ってガレット子爵令嬢と別れた。
グランからショコラが呼び出されたという情報を入手したフリュイは昼休憩に入るや否やカフェに向かった。
そしてその前の階段に到着すると上へ向かう。視線でショコラを探すが姿が見えない。
「くそっ、人が多いな」
(何故差出人不明の手紙になんで従うんだ?ショコラはそんなに僕と婚約破棄したいのか)
そんなことを考えながらも、ショコラに何かあってはと必死にその姿を探した。
そしてその視線が階段上中央に移った時、そこから不自然に人が飛び出した。
「動かないで!」
グランがフリュイを手で制し追い越すと、踊り場まで一気に駆け上がった。
「きゃあああああああーーーっ!!!!」
グランだけでは受け止められなかっただろうが、幸い体格の良い令息が数人踊り場にいたため事なきを得たようだった。
令嬢もいたが、ほとんどの令嬢は階段を降りる際手すりを使うため端に寄っており、驚いて腰を抜かしている者はいたが、怪我人は巻き込まれた令息、それもかすり傷くらいで他にはいなかったようだ。
幸いアイラにもかすり傷ひとつ無かった。
ドレス事件から学園内を警邏していた騎士が数名駆けつけて場を納め、動けない令嬢達を医務室へと運んでいった。
階段上にいた生徒達には事情を聞くため残ってもらったが、当時階段上はごった返しており誰ひとり落ちるアイラを見ていたものはいなかった。
ショコラは第二王子の婚約者として目立つ存在である上に、アイラが落ちた後に通してほしいと声を掛けながら階段に到着したという目撃証言が多数あったために噂になることはなかったが、ドレスの件といい今回の件といい、犯人のターゲットはブラウン男爵令嬢なのか、王族の婚約者なのかはっきりしなかった。その目的も然り。
医務室で落ち着いたアイラに事情を聞いたところ、「足を滑らせました。助けて頂きありがとうございました。お騒がせして申し訳ありません」と言ったきり、黙り込んでしまった。
足を滑らせたのであれば階段を転がり落ちるはずだ。階段上から不自然に飛び出してきた彼女が足を滑らせたのでは無いことは容易に分かる。
そう伝えたが、それ以上アイラが口を開くことはなかった。
アイラは毎日ランチタイムになるとカフェに行き昼食を摂る。
学園にはいくつか食事を摂れるところがあるが、カフェが一番手軽で安いため下位貴族に人気だ。
カフェ前の階段を降りようとしたとき、不意に令嬢の声がした。
「私の役に立ちなさい」
次の瞬間、強く押された体は宙に投げ出されていた。
幸い数人の令息に踊り場で受け止めてもらえた為怪我はなかったけれど、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
──命を狙われた?何故?
私を突き落とした犯人は声からして令嬢だ。
しかし目的が分からない以上、また命を狙われてはいけないので下手なことは言えない。
それにそんなことを言って、またサントノーレ侯爵令嬢が疑われたらそれこそ第二王子殿下の逆鱗に触れ、私だけでなく家族の命に関わるかもしれないのだ。
アイラは誰にも相談することが出来なかった。
ドレス事件に引き続き、今回の階段事件で、学園ではブラウン男爵令嬢が何者かに狙われているのではと言う噂が話題を独占していた。
本人が足を滑らせたと言っているためすぐにその噂は下火になったが、日頃カフェを利用していないサントノーレ侯爵令嬢が何故あの場にいたのかという疑問も噂になっていた。
「ブラウン男爵令嬢からの呼び出しではなかったということよね・・・」
私が頭を悩ませていると、シャルロットが「ねぇ、あの呼び出しの封書はどうされていますの?」と聞いてきた。
「あれなら捨てましたわ」
「・・・えーーっと・・・、流石の私も驚きましたわ。なぜ、とお聞きしても?」
私は逆にシャルロットが何故驚いているのが分からない。
「読み終えたら捨てるよう、そう指示が書いてあったからですわ。これで婚約がなくなるかもしれないでしょう?
私が犯人では無いことは目撃者が沢山いるし・・・まぁフリュイ殿下に好きな人が出来たわけでもないけれど、いつか来るその時のためにと考えればそれでいいかなぁと思って」
私がそう得意げに答えると、シャルロットはなんとも言えない顔をした。
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