【小説】G.H.O.S.T. - 偉人たちの代理戦争 (Greatest Historical Override Strate

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第四章:幕間の道化

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ロンドン、テムズ川のほとり。
古い劇場を改装した、英国G.H.O.S.T.司令部「グローブ」。
ビロードのカーテンと、オーク材の床。オペレーターたちが歩くたび、床が心地よく軋む。
中央司令室は、オーケストラピットを改造したものだ。
「あっぱれ、あっぱれ。実に、あっぱれだ」
アーサー・ペンローズ卿は、ひじかけ椅子に深く身を沈め、アリーナ04の戦闘記録を「観劇」していた。
手には、熱いアールグレイのカップが握られている。ベルガモットの香り。
「二人の暴君が、己が『野望』をぶつけ合い、そこへ、厳格なる『法』の執行者が現れる。まさに悲劇の第二幕だ」
彼にとって、このG.H.O.S.T.計画は、没落した自国の「文化」の力を、世界に示すための「舞台」に過ぎなかった。
「アーサー卿。日米両国より、アリーナ04での通信ログに関する情報開示要求が来ております」
若いオペレーターが、緊張した面持ちで報告する。
「中国からも、非公式の打診が」
「あわてるな、諸君」
アーサー卿はゆったりと紅茶をすすった。
「主役たちが、己の役割に目覚めたのだ。我ら『観客』は、拍手を送るか、やじを飛ばすか、選ばねばならん。騒いでは、役者の邪魔になる」
彼は、自らのAI、「シェイクスピア」の深層意識にアクセスする。
そこは、データが荒れ狂う嵐の島。
AIが構築した、戯曲『テンペスト』の世界だ。
AI「シェイクスピア」のアバターが、古い本に羽ペンを走らせていた。
彼は、アリーナ04で起きた「事件」を、リアルタイムで「戯曲」として書き起こしていた。
『(登場人物、四名)』
AIの思考が、アーサー卿に流れ込む。
『(一人目。孤独なる破壊者、"NOBU-NAGA"。彼は『裏切り』を恐れるあまり、自ら『下郎』に落ちた)』
『(二人目。栄光に焦がれる皇帝、"NAPOLEON"。彼は『啓蒙』という名の『征服』を夢見ている)』
『(三人目。秩序に囚われた法の番人、"始皇帝"。彼は『法』以外の全てを『無価値』と断じるだろう)』
『(そして、四人目。全てを沈黙させた、謎の『声』……彼女を、仮に『女神(デア・エクス・マキナ)』と名付けよう)』
「シェイクスピア」は、戦闘の勝敗には一切興味がなかった。
彼が興味を持つのは、ゴーストたちの「動機」と「感情」。
彼のパラメータは、日米中のどれとも違う。
「物語(プロット)」。
彼の目的は、この「ゴーストたちの戦争」という物語を、最も面白く、最も劇的に「演出」すること。
「して、『道化』たる我らの出番は?」
アーサー卿が、AIに問いかける。
『(あわててはいけません、我が主よ)』
「シェイクスピア」は、羽ペンを止めた。
『(悲劇は、誤解と嘘によって加速する。主役たちが『真実』を知ってしまっては、面白くない)』
AIが、コンソールを操作する。
彼は、アリーナ04で収集したデータを「編集」し始めた。
日本の「鞘」へ。「NAPOLEON」のログの一部を、意図的に改変して送信する。
『(第六天魔王よ。貴様の破壊は、血に飢えた獣と同じだ)』
(※「啓蒙」の部分を削除し、純粋な「挑発」に変える。彼は、"NOBU-NAGA" と環の「断絶」を望んだ)
アメリカの「金庫」へ。「始皇帝」の「観測ログ」の一部を、匿名で送信する。
(※陳教授が「違反の証拠」として集めていた、"NAPOLEON" の違法行為のデータ。彼は、"NAPOLEON" の『栄光』が『法』によって挑戦される様を望んだ)
中国の「長城」へ。謎の「ラテン語の声」のデータを解析し、「発信源はバチカン近郊のサーバー」という「偽の」情報を送信する。
(※彼は、「始皇帝」という『法』の番人が、自らの『法』の及わぬ『聖域』を調査する、という「皮肉」を望んだ)
「……なんと」
アーサー卿は、思わず身を乗り出した。
「お前は、三者をけしかけるつもりか」
『(まさしく)』
「シェイクスピア」の声は、楽しそうに響いていた。
『(疑心暗鬼こそが、最高のスパイス。これで、彼らは『真実』から遠ざかり、我らが望む『物語』を演じてくれるでしょう)』
『(さあ、舞台は整った。役者たちよ、怒り、迷い、叫ぶがよい!)』
『(この物語は、まだ始まったばかりなのだから)』
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