23 / 26
SS
突然のハロウィンSS
しおりを挟む
心地よい疲労感と共に、聡一朗は天国の実家へと帰っていた。
リュシオルの業務を手伝うと決まったものの、聡一朗は彼から業務を教わることはなかった。共に仕事に行くこともない。
リュシオルによって『いってらっしゃい』で送り出され『おかえりなさい』で迎え入れられる。
神の側近という立場は非常に曖昧で、しかも仕えなければいけない神がいつも不在だ。
『何でも好きなことしていいよ』
そうリュシオルに言われた聡一朗は、天国の広大な敷地を利用し、桃鹿の果樹園を作った。ここに実った桃鹿は、咎津に悩まされる鬼たちに使われる。
勿論ルオに許可も貰い、有難いことに手の空いた天使まで貸し出してもらった。
地獄のために天使に働いてもらうのは心苦しいが、お陰で大量の桃鹿水が量産できそうだ。
『仕事が終わったら、地獄に帰る前に、絶対うちに寄って』
そうリュシオルから言われている聡一朗は、今日も帰路の前の帰路を急ぐ。
細い小道を抜けると、古い造りの日本家屋が見えて来た。聡一朗の好みで造られたというその家は、今や聡一朗にとって本当の『実家』だ。
いつものように玄関の前に立ち、聡一朗は「ただいま」と言いながら横開きの扉を開く。
朗らかな笑顔で迎えるリュシオルを頭に描いていた聡一朗は、玄関に立っていた意外な人物に息を呑んだ。
聡一朗が固まっていると、その人物は嬉しそうに口を開く。
「Trick or Treat !!!」
満面の笑みで手を広げるのは、紛う事無く神様だ。
古い日本家屋の玄関口で、イタリア系の風体の神が、「Trick or Treat !!!」と叫ぶ。突っ込みどころが多すぎて、聡一朗は混乱した。
「えっと、父上……? 普通『Trick or Treat 』は、来訪者が言うのでは……?」
「聡一朗! 久しいな!!」
ぎゅうっと強く抱きしめられ、聡一朗は笑いを零した。
久しぶりの再会は素直に嬉しく、噛みあっていない会話にも何故か愛しさが込みあげる。
部屋の奥から、リュシオルが駆けてきた。
大量のお菓子を抱えたまま、リュシオルも飛びついてくる。
「Trick or Treat !!!」
ボロボロと菓子を零しながら、リュシオルは聡一朗の頭を撫でまわす。されるがままになりながら、聡一朗は首を捻った。
(あれ? お菓子は誰が渡して誰が貰うんだった? そもそも天国にハロウィーンがあるのか?)
「まぁた、難しく考えちゃってるでしょ、そーちゃんは! こんなのはね、お祭りなの! 他国の祭りを取り入れまくる日本人の姿勢は、最高にクールだと思うよ僕は!!」
「は、母上? テンションが……? 飲んでます!?」
「正解だ、聡一朗! リュシオルは泥酔している! この後美味しく頂くから、聡一朗は地獄に帰りなさい!」
「……」
神の満面の笑みを、聡一朗は口を引き結んで見るしかない。
酔ったリュシオルは色気が特盛で、神に寄り添うように立っている。
(あ、そうだ。そうだった)
2人は夫婦で、つまりはそうだった。
ひょんなことから2人の息子になってしまった聡一朗は、初めて遭遇する親の「そんな事」に動揺を隠せない。
言葉を発せないでいる聡一朗の手に、リュシオルは菓子を持たせるだけ持たせた。
「そーちゃん。ハッピーはろうぃん!」
「……はは、ハッピーハロウィーン……」
舌足らずに言うリュシオルにそう返すと、神が聡一朗にそっと耳打ちをする。
「聡一朗、そんなに不安になるな。しばらく子は作らん。聡一朗が一番かわいい」
「……いや、そういうあれじゃ、あ、いや……ありがとうございます……」
相変わらず、話が噛み合わない。
神である父親の、言葉の真意を読むべきか。それともそのまま受け取るべきか……。
そもそも34歳にして、新たな両親を得るという事自体がイレギュラーなのだ。
(駄目だ。今日は考えるの止めよう)
抱えきれないほどの菓子を抱き込みながら、聡一朗は帰路についた。
_________
地獄の空は茜色に染まり、冷たい風が吹き始めていた。
獄主の仕事が終わる前に帰れた事にホッとしながら、聡一朗は十居の入口をくぐる。
小道を進み、庭に出ると、明らかに不審な者達がいた。
黒いフードつきのポンチョを身に着け、手には木の枝を持っている。
聡一朗は『まさか』と思いながらも、頬を緩ませるしかない。
「ただいま」と声を掛けると、その者達は振り向き、聡一朗に不敵な笑みを向けた。
「Trick or Treat !!!」
「……。ソイ、テキロ……どうした?」
「Trick or Treat !!!」
「……」
良く見ると彼らは長いマフラーを身に着けている。臙脂色のマフラーは、有名な魔法学校のあれにそっくりだ。
終始役に徹している彼らに、聡一朗は頬を緩ませながら嘆息した。
「はいはい、お菓子ならここにありますよ」
「ぃやったぁ!」
聡一朗はリュシオルから貰った菓子を、仮装を頑張った彼らに惜しみなく渡した。貰ったことで任務終了としたのか、2人は聡一朗にいつもの笑みを送る。
「地獄でもハロウィンするんだな。いや、ある意味本場?」
「……何言ってんだ聡一朗。初めてだぞ? ハロウィン」
「ん? どういう……」
聡一朗が首を傾げていると、上から何かが降りてきた。
二体のそれは、聡一朗の前に着地すると「ククク」と不敵に笑う。
2人共黒いマントを身に着け、口元は赤々とし、牙まで生えている。彼らは愉しそうに笑うと、牙を見せつけるかのように叫んだ。
「Trick or Treat !!」
「フウトさん、ライトさん。お疲れ様です。お菓子あげます」
「………」
最早何も驚くまい。
彼らの衣装のクオリティはかなり高い。多分ワタベに作らせたのだろうが、非常に手が込んでいる。
「聡一朗様、もう少しリアクションを……」
「いや、驚いてはいるんですよ。突っ込み所が多すぎて、混乱しているだけです。にしても凄いっすね、その衣装……」
「……ずっとやりたかったんですよ、ハロウィン……。今年は聡一朗様もいるし、盛り上がると思ったんですが……」
残念そうに零すライトだが、見た目は相当凶悪だ。体格が良いため、吸血鬼の姿はインパクトが半端ない。
この吸血鬼に血を吸われたら、間違いなく枯れる。
聡一朗は2人に菓子を配りながら、クスクスと笑いを零した。
(地獄にいても、こうして新たな刺激を求めるのか。面白いな)
地獄も下界とそう変わらない。
鬼も人間も天使も、きっと吸血鬼だって、きっと変わらないのだろう。
「獄主様にもハロウィンの事伝えましたから、何かしら仮装してくれてるかも知れませんね」
「エンが? 無いだろ~それは」
そう言いながら聡一朗は、獄主のハロウィンコスプレを想像した。
吸血鬼、魔法使い、狼男……。
(うっわ、全部似合うわ。全部見てみたい)
聡一朗が思わず頬を緩ませると、ソイがにやりと微笑んだ。
フウトライトも微笑み、テキロはソワソワと居の中の方を窺っている。
聡一朗は一同の変化に気付かないまま、縁側で靴を脱いだ。
「エンはまだ帰ってないよな? 先に風呂済ませとこうかな」
聡一朗は独り言のように呟き、縁側へのふすまを開ける。そしてそこにあった光景に、聡一朗は持っていた菓子の袋を全部落とした。
和室の真ん中に誰かが背を向けて立っている。
銀の髪を真っ直ぐに垂らし、その人物はゆっくりと振り返った。
いつもの執務服とは違い、朱色の着物を身に着けている。豪華な装飾が施された着物に、銀の髪が見事に映えていた。
振り返った獄主を見て、聡一朗は息を呑んだ。獄主の額に、立派な角が二本生えていたのだ。
「え、えん? 何、それ? 本物?」
「聡一朗」
こちらに身体を向けた獄主は、なんと片手に金棒を持っている。
聡一朗が戸惑ったまま固まっていると、獄主は金棒を持っていない方の手を、聡一朗へと伸ばした。
「Trick or Treat 」
「は?」
「Trick or Treat 」
「……Oh……」
聡一朗は手で口を覆い、今だ信じられない光景に打ち震えた。
(鬼の王様が……! まさかの鬼コス……!!)
聡一朗は以前、獄主に聞いたことがある。
『獄主は、角ないのな?』
『……あるが、好かん。隠している。……見たいのか?』
『……いや、良い。すげぇ怖そう』
過去に思い描いた姿とは違い、鬼の姿の獄主は美しかった。
角は光沢のある黒で、先端に少しだけ紫の色味がのっている。銀糸が角を避けるようにして流れる様は、美しい水の流れのようだった。
聡一朗は思わず駆け寄ると、その角を撫でた。血の通った温かさに、頬を緩ませる。
「すごいな。これが本当の姿なのか? どんな姿でも、エンは綺麗だな」
「……」
「ああ、そうだ。母上から貰った菓子の中に、こんなのが入っていた」
聡一朗は落としてしまった菓子の袋を拾うと、中からカチューシャを取り出す。
リュシオルが仮装用に買っておいた物なのだろう。犬か狼か分からないが、カチューシャには耳が付いている。
それを頭に装着し、聡一朗は不敵な笑みを浮かべた。
「エン! Trick or Treat !!!」
「……」
反応がないまま固まる獄主に、聡一朗は首を傾げた。
しかしここで引くわけにはいかない。聡一朗は「がおー」と唸りながら、手を顔の横でにぎにぎと動かす。
「狼男だぞ! Trick or Treat !……? エン、どうした?」
「……まったく、本当に、聡一朗は………」
「??」
聡一朗が首を傾げていると、獄主にひょいと抱き上げられる。そしてそのまま和室のクッションへ押し倒された。
まさに流れるような動作に、聡一朗は目を瞬かせるしかない。
鬼と化した獄主が、聡一朗の服に手を掛ける。そして口端を吊り上げながら、獄主は呟いた。
「どうした、聡一朗? Trick(いたずら)か Treat (もてなし)か、どっちだ?
」
「……えっと……どっちも?」
聡一朗の答えに、獄主の唇は柔らかに弧を描く。その笑みは甘美で、香るほど妖艶だ。
この鬼に絡めとられたらきっと、離れることは叶わない。
(離れる事なんて、無いんだけどな)
聡一朗はふにゃりと笑うと、素直に鬼の王様の腕へと収まった。
おしまい
======
あとがき
新作の「冷酷非道な魔神様は~」を書いていたら、獄主を思い出してしまって……(クラーリオも溺愛攻めですからね。つい思い出しました)
ハロウィンネタは初めてでしたが、意外にサラサラ書けました。
しかし粗が目立ちますね、申し訳ありません( ;∀;)
書いている作者は楽しかったです。読者様も楽しんで頂けたら、これ以上嬉し事はありません。
お読みいただき、ありがとうございました!
リュシオルの業務を手伝うと決まったものの、聡一朗は彼から業務を教わることはなかった。共に仕事に行くこともない。
リュシオルによって『いってらっしゃい』で送り出され『おかえりなさい』で迎え入れられる。
神の側近という立場は非常に曖昧で、しかも仕えなければいけない神がいつも不在だ。
『何でも好きなことしていいよ』
そうリュシオルに言われた聡一朗は、天国の広大な敷地を利用し、桃鹿の果樹園を作った。ここに実った桃鹿は、咎津に悩まされる鬼たちに使われる。
勿論ルオに許可も貰い、有難いことに手の空いた天使まで貸し出してもらった。
地獄のために天使に働いてもらうのは心苦しいが、お陰で大量の桃鹿水が量産できそうだ。
『仕事が終わったら、地獄に帰る前に、絶対うちに寄って』
そうリュシオルから言われている聡一朗は、今日も帰路の前の帰路を急ぐ。
細い小道を抜けると、古い造りの日本家屋が見えて来た。聡一朗の好みで造られたというその家は、今や聡一朗にとって本当の『実家』だ。
いつものように玄関の前に立ち、聡一朗は「ただいま」と言いながら横開きの扉を開く。
朗らかな笑顔で迎えるリュシオルを頭に描いていた聡一朗は、玄関に立っていた意外な人物に息を呑んだ。
聡一朗が固まっていると、その人物は嬉しそうに口を開く。
「Trick or Treat !!!」
満面の笑みで手を広げるのは、紛う事無く神様だ。
古い日本家屋の玄関口で、イタリア系の風体の神が、「Trick or Treat !!!」と叫ぶ。突っ込みどころが多すぎて、聡一朗は混乱した。
「えっと、父上……? 普通『Trick or Treat 』は、来訪者が言うのでは……?」
「聡一朗! 久しいな!!」
ぎゅうっと強く抱きしめられ、聡一朗は笑いを零した。
久しぶりの再会は素直に嬉しく、噛みあっていない会話にも何故か愛しさが込みあげる。
部屋の奥から、リュシオルが駆けてきた。
大量のお菓子を抱えたまま、リュシオルも飛びついてくる。
「Trick or Treat !!!」
ボロボロと菓子を零しながら、リュシオルは聡一朗の頭を撫でまわす。されるがままになりながら、聡一朗は首を捻った。
(あれ? お菓子は誰が渡して誰が貰うんだった? そもそも天国にハロウィーンがあるのか?)
「まぁた、難しく考えちゃってるでしょ、そーちゃんは! こんなのはね、お祭りなの! 他国の祭りを取り入れまくる日本人の姿勢は、最高にクールだと思うよ僕は!!」
「は、母上? テンションが……? 飲んでます!?」
「正解だ、聡一朗! リュシオルは泥酔している! この後美味しく頂くから、聡一朗は地獄に帰りなさい!」
「……」
神の満面の笑みを、聡一朗は口を引き結んで見るしかない。
酔ったリュシオルは色気が特盛で、神に寄り添うように立っている。
(あ、そうだ。そうだった)
2人は夫婦で、つまりはそうだった。
ひょんなことから2人の息子になってしまった聡一朗は、初めて遭遇する親の「そんな事」に動揺を隠せない。
言葉を発せないでいる聡一朗の手に、リュシオルは菓子を持たせるだけ持たせた。
「そーちゃん。ハッピーはろうぃん!」
「……はは、ハッピーハロウィーン……」
舌足らずに言うリュシオルにそう返すと、神が聡一朗にそっと耳打ちをする。
「聡一朗、そんなに不安になるな。しばらく子は作らん。聡一朗が一番かわいい」
「……いや、そういうあれじゃ、あ、いや……ありがとうございます……」
相変わらず、話が噛み合わない。
神である父親の、言葉の真意を読むべきか。それともそのまま受け取るべきか……。
そもそも34歳にして、新たな両親を得るという事自体がイレギュラーなのだ。
(駄目だ。今日は考えるの止めよう)
抱えきれないほどの菓子を抱き込みながら、聡一朗は帰路についた。
_________
地獄の空は茜色に染まり、冷たい風が吹き始めていた。
獄主の仕事が終わる前に帰れた事にホッとしながら、聡一朗は十居の入口をくぐる。
小道を進み、庭に出ると、明らかに不審な者達がいた。
黒いフードつきのポンチョを身に着け、手には木の枝を持っている。
聡一朗は『まさか』と思いながらも、頬を緩ませるしかない。
「ただいま」と声を掛けると、その者達は振り向き、聡一朗に不敵な笑みを向けた。
「Trick or Treat !!!」
「……。ソイ、テキロ……どうした?」
「Trick or Treat !!!」
「……」
良く見ると彼らは長いマフラーを身に着けている。臙脂色のマフラーは、有名な魔法学校のあれにそっくりだ。
終始役に徹している彼らに、聡一朗は頬を緩ませながら嘆息した。
「はいはい、お菓子ならここにありますよ」
「ぃやったぁ!」
聡一朗はリュシオルから貰った菓子を、仮装を頑張った彼らに惜しみなく渡した。貰ったことで任務終了としたのか、2人は聡一朗にいつもの笑みを送る。
「地獄でもハロウィンするんだな。いや、ある意味本場?」
「……何言ってんだ聡一朗。初めてだぞ? ハロウィン」
「ん? どういう……」
聡一朗が首を傾げていると、上から何かが降りてきた。
二体のそれは、聡一朗の前に着地すると「ククク」と不敵に笑う。
2人共黒いマントを身に着け、口元は赤々とし、牙まで生えている。彼らは愉しそうに笑うと、牙を見せつけるかのように叫んだ。
「Trick or Treat !!」
「フウトさん、ライトさん。お疲れ様です。お菓子あげます」
「………」
最早何も驚くまい。
彼らの衣装のクオリティはかなり高い。多分ワタベに作らせたのだろうが、非常に手が込んでいる。
「聡一朗様、もう少しリアクションを……」
「いや、驚いてはいるんですよ。突っ込み所が多すぎて、混乱しているだけです。にしても凄いっすね、その衣装……」
「……ずっとやりたかったんですよ、ハロウィン……。今年は聡一朗様もいるし、盛り上がると思ったんですが……」
残念そうに零すライトだが、見た目は相当凶悪だ。体格が良いため、吸血鬼の姿はインパクトが半端ない。
この吸血鬼に血を吸われたら、間違いなく枯れる。
聡一朗は2人に菓子を配りながら、クスクスと笑いを零した。
(地獄にいても、こうして新たな刺激を求めるのか。面白いな)
地獄も下界とそう変わらない。
鬼も人間も天使も、きっと吸血鬼だって、きっと変わらないのだろう。
「獄主様にもハロウィンの事伝えましたから、何かしら仮装してくれてるかも知れませんね」
「エンが? 無いだろ~それは」
そう言いながら聡一朗は、獄主のハロウィンコスプレを想像した。
吸血鬼、魔法使い、狼男……。
(うっわ、全部似合うわ。全部見てみたい)
聡一朗が思わず頬を緩ませると、ソイがにやりと微笑んだ。
フウトライトも微笑み、テキロはソワソワと居の中の方を窺っている。
聡一朗は一同の変化に気付かないまま、縁側で靴を脱いだ。
「エンはまだ帰ってないよな? 先に風呂済ませとこうかな」
聡一朗は独り言のように呟き、縁側へのふすまを開ける。そしてそこにあった光景に、聡一朗は持っていた菓子の袋を全部落とした。
和室の真ん中に誰かが背を向けて立っている。
銀の髪を真っ直ぐに垂らし、その人物はゆっくりと振り返った。
いつもの執務服とは違い、朱色の着物を身に着けている。豪華な装飾が施された着物に、銀の髪が見事に映えていた。
振り返った獄主を見て、聡一朗は息を呑んだ。獄主の額に、立派な角が二本生えていたのだ。
「え、えん? 何、それ? 本物?」
「聡一朗」
こちらに身体を向けた獄主は、なんと片手に金棒を持っている。
聡一朗が戸惑ったまま固まっていると、獄主は金棒を持っていない方の手を、聡一朗へと伸ばした。
「Trick or Treat 」
「は?」
「Trick or Treat 」
「……Oh……」
聡一朗は手で口を覆い、今だ信じられない光景に打ち震えた。
(鬼の王様が……! まさかの鬼コス……!!)
聡一朗は以前、獄主に聞いたことがある。
『獄主は、角ないのな?』
『……あるが、好かん。隠している。……見たいのか?』
『……いや、良い。すげぇ怖そう』
過去に思い描いた姿とは違い、鬼の姿の獄主は美しかった。
角は光沢のある黒で、先端に少しだけ紫の色味がのっている。銀糸が角を避けるようにして流れる様は、美しい水の流れのようだった。
聡一朗は思わず駆け寄ると、その角を撫でた。血の通った温かさに、頬を緩ませる。
「すごいな。これが本当の姿なのか? どんな姿でも、エンは綺麗だな」
「……」
「ああ、そうだ。母上から貰った菓子の中に、こんなのが入っていた」
聡一朗は落としてしまった菓子の袋を拾うと、中からカチューシャを取り出す。
リュシオルが仮装用に買っておいた物なのだろう。犬か狼か分からないが、カチューシャには耳が付いている。
それを頭に装着し、聡一朗は不敵な笑みを浮かべた。
「エン! Trick or Treat !!!」
「……」
反応がないまま固まる獄主に、聡一朗は首を傾げた。
しかしここで引くわけにはいかない。聡一朗は「がおー」と唸りながら、手を顔の横でにぎにぎと動かす。
「狼男だぞ! Trick or Treat !……? エン、どうした?」
「……まったく、本当に、聡一朗は………」
「??」
聡一朗が首を傾げていると、獄主にひょいと抱き上げられる。そしてそのまま和室のクッションへ押し倒された。
まさに流れるような動作に、聡一朗は目を瞬かせるしかない。
鬼と化した獄主が、聡一朗の服に手を掛ける。そして口端を吊り上げながら、獄主は呟いた。
「どうした、聡一朗? Trick(いたずら)か Treat (もてなし)か、どっちだ?
」
「……えっと……どっちも?」
聡一朗の答えに、獄主の唇は柔らかに弧を描く。その笑みは甘美で、香るほど妖艶だ。
この鬼に絡めとられたらきっと、離れることは叶わない。
(離れる事なんて、無いんだけどな)
聡一朗はふにゃりと笑うと、素直に鬼の王様の腕へと収まった。
おしまい
======
あとがき
新作の「冷酷非道な魔神様は~」を書いていたら、獄主を思い出してしまって……(クラーリオも溺愛攻めですからね。つい思い出しました)
ハロウィンネタは初めてでしたが、意外にサラサラ書けました。
しかし粗が目立ちますね、申し訳ありません( ;∀;)
書いている作者は楽しかったです。読者様も楽しんで頂けたら、これ以上嬉し事はありません。
お読みいただき、ありがとうございました!
162
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる