冷酷非道な魔神様は、捌き屋に全てを捧げる

墨尽(ぼくじん)

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前編

第24話 魔族は怖い

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「あれ? 宗主は?」
「宗主なら、俺ら置いてさっさと奥に行ったぞ? いつものことだろ」

 スガノがジョリスと話していると、奥に行っていたクラーリオの姿が見えた。どう見ても様子がおかしく、時折襲ってくる魔獣を素手で撃退しながらこちらに近づいてくる。

「宗主! 素手は駄目ですって!」

 魔獣の血には有害なものが多い。素手で攻撃など、普通なら考えられないことだ。
 慌てたスガノはクラーリオの腕を掴み、その顔を見た。そして咥えていた煙草をポロリと落とす。

「……そ、宗主、どうしたんです? 顔、真っ赤ですけど」
「……非常に……良くない……!」

 「は?」と先ほどから開いた口からスガノが声を漏らすと、クラーリオが掴まれていた手を振り払った。真っ赤な顔をしたクラーリオは、眉間に深い皺を刻んでいる。

「何だあの可愛い生き物は……! 魔族にまで笑顔を振りまくとは、実に良くない!」
「……えっと……宗主、もしかして、会ったんすか?」
「こんな森の奥まで進んでいるとは……! それも含めて、教育しなければ……」
「……会ったんすね……バレなかったですか?」

 クラーリオはスガノを見ると「当たり前だ」と零した。しかしいつもの冷静さは取り戻していない。ジョリスが持ってきた布で手を拭い、クラーリオは自身が歩いてきた方を悩まし気に見つめている。

「宗主、じゃあその可愛い生き物は、魔族にも偏見がないってことっすよね?」
「……」
「連れ帰りましょう?」
「……この……任務が終わったらな」

 クラーリオの答えに、スガノが嬉しそうに破顔する。意外な反応にクラーリオが眉を顰めていると、スガノがタオを呼び出した。

「タオ! 例の件、経過は良好だってゼオに報告しておけ!」
「! 御意!」

 すぐ傍で聞こえたタオの声に、クラーリオは更に眉を顰めた。スガノがにやにやと顔を綻ばせる横では、ジョリスもにこにこ笑っている。2人の顔を交互に見て、クラーリオは口を開く。

「……待て。誰がどこまで把握している?」
「何の話ですか? 宗主が可愛い生き物を見つけたって事は、何となく全員知ってます」
「………ちっ、仲のいいことだ」

 溜息を付きながらクラーリオがその場から離れると、ジョリスがきらきらした瞳でスガノを見た。感情豊かなクラーリオなど、何年ぶりか見当もつかない。

「めっっちゃ、かわいくないですか! 今の宗主!」
「いや、可愛くはない。それは否定しておく」

 スガノは再び煙草に火をつけて、手を振りながらジョリスに言い放つ。ジョリスから舌打ちが漏れ、スガノは「おお、こわ」と言いながらその場を離れた。



 遠くから聞こえる部下の騒ぐ声を聞きながら、クラーリオは森の奥を見た。
 エリトに会った事でその奥までは進めなかったが、かなり大規模な魔泉が湧いているのをクラーリオは確認している。

(あの規模だと、魔獣の殲滅に時間がかかるな。1日か2日、エリトの元に戻れないかもしれない)

 ヘラーリア側に魔獣が多いのは、あの魔泉の影響が大きいようだった。あの魔泉を枯れさせれば、ここでの任務は完了となるだろう。

(任務が完了したら、どうエリトを連れ帰るか……)

 クラーリオは人間へ姿を変え、丸くなった耳を撫でる。
 今日の夕飯のメニューは何にするか、とクラーリオは考えた。しかし、クラーリオに出来る料理はふたつしかない。



________

 クラーリオが夕飯に作った「リゾット」と「おむすび」を、エリトは美味しそうに平らげた。

 幸せそうに「ごちそうさま」と手を合わせるエリトの髪を、クラーリオはくしゃくしゃと撫でる。撫でられながら、エリトは口を尖らせた。

「ガキ扱いすんなよ」
「はは、ごめん」

 口調の割には怒っていない様子のエリトは、クラーリオの返答に目を細めている。数日前までの警戒心はどこにもなく、親し気な笑みは柔らかく甘い。

(はぁ……エリト……可愛い。馬鹿みたいに可愛い……)

 しかしクラーリオは、エリトの事を戒めなければならない。魔族には悪意に満ちた者も多くいる。カマロのような魔神に会っていたら、すぐさま連れ去られていたところだ。

 どう話を切り出そうかとクラーリオが考えていると、エリトが皿を片づけながら口を開いた。

「クリオ、暴戻の魔神って知ってる?」
「……知ってる。どうして?」
「! 知ってるのか!?」

 エリトがクラーリオを振り返り、興味津々といった顔を浮かべる。あまりにも楽しそうな顔に、クラーリオ自身が嫉妬するほどだ。
 若干ムッとしながら、クラーリオは口を開いた。

「有名な魔神だよ。彼がどうかしたの?」
「今日、森で会ったんだ。やっぱり有名だったんだな! あの人、めっちゃ恰好良いんだよ!」
「………エリト、座って?」

 クラーリオが自分の傍らをポンポンと叩くと、エリトはそこへ素直に座った。エリトと向き合って、クラーリオはその手を握り込む。

「いいかい、エリト。魔族はとても怖いんだ。親し気に近づいてはいけないよ?」
「それくらい分かってる。でも彼は、きっと大丈夫だ」
「……どうしてそんな事言えるんだ? 暴戻の魔神は、冷酷で非道な魔神だよ?」

 クラーリオの言葉に、エリトは首を傾げた。少し思案しているように眉を寄せて、エリトは口を開いた。

「冷酷で、非道……? そんなこと、きっとないよ」
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